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90 異国の客人

 夜道を『雷灯』をかざして歩く我々一行は、見かけた者には少々異様に映ったかもしれない。先導役にモキチとデュモン卿、次にオリヴィンとヘリオス、ジェイドとセレさんが山のてっぺんの神社から、てくてくと歩いて町中の黒曜邸へと到着した。


「黒曜様、到着されました!」

 モキチが玄関先で声を掛けると、奥から黒曜とお手伝いのシズさんが走って来る。


「黒曜殿、すまぬな。このようなお願いをして……」

「かまいませぬ、他ならぬデュモン殿のお頼みとあらば。……さあさ、どうぞお上がりくださいませ。誠に申し訳ございませんがお客様、お履物はこちらで脱いでお上がりいただけますか?」

 言葉の通じる黒曜とモキチが、生活習慣の違いを説明してくれている。


 奥の部屋に用意された、十人は席に着けるであろう大きな楕円のテーブルに皆が着席すると、オリヴィンはヘリオスとセレさんを紹介した。


「黒曜殿、こちらはここより東の大国ムガロア王国の島スリ・ロータスを治めるブルムード・ベリル陛下の第二王子ヘリオス・ベリル殿です。そしてその向かいが、ヘリオス殿下の婚約者セレスティン・ピアース殿。セレスティンさんは故郷が我々と同じディヤマンド王国の出身です。

 ヘリオス殿下、セレさん、こちらがこの館の主人黒曜殿です。黒曜殿は妓楼『月華楼』の主人でもあります」


 オリヴィンの紹介に応えて、ヘリオスが立ち上がった。


「今紹介に預かったヘリオス・ベリルです。われわれの国、スリ・ロータスは別名 “魔石の島” とも呼ばれています。それくらい魔石の取引が盛んであり、魔石の研究も進んだ国です。この度は私とセレスティンの婚姻の式典が迫っておりまして、彼らをお迎えに来た次第です」


 黒曜もヘリオスに応えて立ち上がった。


「遠路はるばるようこそいらっしゃいました。他国の王族の方に御目通りをいただく機会を得られまして、私も嬉しい限りです。どうぞ、泡沫うたかたではございますが、当家でおくつろぎください」


 夜中に着いたばかりだったので、その夜は軽い食事と酒で早めに切り上げ、

 皆黒曜邸でお世話になった。


 以前、旅した時のように皆で布団を並べて寝るのは懐かしい気がして、オリヴィンとモキチは率先して布団を並べ、皆のとこを作った。


 翌朝目が覚めると、さっそく変身石で変身して外に出た。


 冒険者であったセレさんにとっても、スリ・ロータスともディヤマンドとも違うこの国の文化は目新しかったようで、景色ひとつ、人々の暮らしひとつとっても異色なニッポニアは彼らの目をきつけた。


「なんだか、すごく他と違っていて面白いね」

「そうね、この国が他国にあまり国を開いていないのは残念だわ」

 ヘリオスもセレさんも興味深く辺りを見回している。


 昼までいろいろ見て周り、黒曜邸に戻る。

 皆で昼食をご馳走になっていると、シンスケがやって来た。


「ヘリオス、あの『雷石』を見に行きたいだろう。そう思って案内を呼んでおいた」

 オリヴィンは前もってシンスケに『雷石』までの案内を頼んでいた。


「シンスケ、こちらはヘリオス殿下だ。殿下の国は『魔石』の売買が盛んでね。ぜひ『雷石』を見せたくてね」

「旦那、俺んちとアイの実家に文を書いて届けてあります。例の『雷灯』もひとつ預けてあるけど……うまくいくかは……」


 シンスケには事前に色々と頼んだのだが、歩きで『雷石』まで行く時間がないので、移動は夜、飛空艇で行こうと決めていた。


 夕方、飛空艇のある神社まで移動し、暗くなるのを待った。


 今回はオリヴィンとヘリオス、セレさんとジェイドに案内役のシンスケの5人だ。日が落ちると同時に、薄暗闇うすくらやみの中を離陸した。


 美しい流線型の飛空艇は、ヘリオスが操縦盤に埋めこまれた青い飛行石に手をかざすと、静かにスウッと浮かび上がった。

 飛行石の隣には羅針盤がわりの菫青石アイオライトめ込まれている。


「すっげぇ〜!……ほんとに空を飛んでる…!」

 シンスケが興奮した表情で、艇の縁に掴まりながら嘆息した。


「シンスケ、東に向かえばいいんだったか?」

 オリヴィンが聞くと、慌てたように

「ま、まっすぐ東に向かって飛んでくださいっ」

 と改めて案内役の勤めを思い出したように言った。


 この飛空挺は、以前オリヴィンたちが砂漠の魔女から奪ってきたものより、かなり工夫が凝らされている。

 王族の乗り物であるので、据えられた座席も座り心地が良く快適だし、前面には魔法で強化されたガラスが嵌め込まれており、風除けにもなっている。


 以前の飛空挺は飛んでいる間、風の音もうるさく、高高度を飛んでいる時は寒さで意識を保つのが大変だったのだが、この艇には暖房も入れられており、かなり快適だ。


「暖房はセレのたっての希望でね……快適だろ?」

「本当に! 前の飛空艇では寒さで意識が飛びそうになりましたからね……」

 オリヴィンは苦笑した。チラッとジェイドと目があって、笑みを交わす。


「この国では “発光石” の照明はほとんど使われていないようだね。明かりは蝋燭とか油、なのかな?」

 ヘリオスが尋ねると、オリヴィンが答える。


「前にも少し話しましたが、この国ではほとんど魔石が使われていないのですよ。逆に魔石に頼らなくても、暮らせていけてるってことです」


「それは、すごいことだね。スリ・ロータスなんて魔石なしの生活なんて考えも及ばないんだが……」


 飛空挺はあっという間に高速で山々を飛び越え、真っ暗な森の上を飛んでいく。ほぼ真っ暗な街道の上を飛んでいるのだが、時々篝火の焚かれた関所のような場所が見えた。

 小一時間もしないうちに、シンスケが高度を落としてくれるように言った。


「歩きで行くのと景色が違うんで分かりにくいんだが、もうそろそろだと思う……」

 そのうち、うっすらとした鈍い灯りの中に、明らかに違う明るい光の点が見えて来た。

「あれだ!」

 飛空艇の全員が身を乗り出して下を見る。


 明るい光の点が、誰かに振られているかのようにこちらを招いた。

 その光を中心に、小さな光の点が円を描いている。


 飛空艇が速度を落として、ゆっくりゆっくり光の輪に近づく。

 明るい光の点は『雷灯』のようだ。その光がこちらを招いて、小さな光の点の真ん中に誘導する。


 飛空艇は無事、光の輪の中に着陸した。


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