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76 夜を照らす

(この石の持つ無限の可能性…)


「どう思う?」

 ジェイドはオリヴィンに訊ねられて答える。


「発光石とは比べようもありませんね。『明かり』で使うなら一つで部屋の真ん中、例えば天井から吊るすなんていいですね。シャンデリアのように沢山の蝋燭を点さなくて済みます」


「光を筒のような物で包んで収束させる…なんてどうかな?」

「面白そう…暗くなったら、試してみましょうか」

「そうしよう!」


 オリヴィンは昼間のうちにいろいろ準備することにした。

 シンスケに手伝ってもらって、竹を切って来て短く切りそろえたり、提灯(ちょうちん)行燈(あんどん)蝋燭(ろうそく)を差す台座に陶器の欠片(かけら)()め込んで固定した。


 夜になって、辺りが暗闇で満たされると、オリヴィンとジェイドはみんなの前で、昼間準備した行燈に蝋燭の代わりに雷石を乗せた。

 提灯の中にも竹筒の中にも雷石を入れて、自分たちの両手にも一個ずつ石を握り込んだ。


 二人はお互いを見て呼吸を合わせると、心の中で『お日様』を思い描いて雷石を強く握りしめた。

 するとどうだろう、石は次々と光り始め、部屋の中は昼よりも明るく照らされたではないか。


「うわぁ!」

「まぶしいっ!」

「こ、これは…」

 そこに居た誰もが驚きで口をポカンと開けたままだ。


 あまりの光量に眩しくて、目を背けたくなるほどだった。

 オリヴィンとジェイドは手の中の石が熱くなって来て、石を目の前の陶器の大皿の上へ乗せた。

 石はそれでも光り続けている。

「これって…?」

 シンスケが思わず石を手に取った。

「アチッ!」

 石の熱さに思わず取り落としたが、それでも石はまだ輝きづづけていた。


 竹の筒の中に入れた石からも光の束がまっすぐに伸びている。甥っ子たちが手に取って、シンスケの顔を照らした。


(まぶ)しいな、顔に向けるなよ」

 シンスケが言うが子供はやめない。楽しくなってしまって次々に人の顔を照らし始めた。


「コラ!悪戯(いたずら)するならもう(かわや)へ一緒に行ってやんねえぞ!」

 とシンスケが言うと、子供は

「もうこれがあるから一人で行けるもん!」

 と言い返した。


「旦那、これを消すにはどうしたらいいんだ?」

 シンスケが聞くと、オリヴィンは

「いや、どうだろう?」

 まだそれほどわかっていないのだ。


「消えろ!」

 光る竹筒をを持って遊んでいた子供が、思いつきにそう叫んだ。

 すると、子供の持っていた竹筒の中の石は、パッと光るのをやめた。


「あははは…おじちゃん、消えたよ」

 子供らはおかしそうに、竹筒の中を覗き込んだり手に持って振ったりし始めた。


「やれやれ、こちとらそんな力は無いってのに、この子らは…」

 シンスケは子供たちから竹筒を取り上げると、

「さっきまで派手に光っていやがったのにな」

 と竹筒の中の石を覗き込んだ。


 その途端、パッとまた石が光り始めた。

「な、なんだこりゃ?」

 両手に一つずつの竹筒の石が、また眩しく光を灯している。

 そればかりか、シンスケの両手を小さな稲光がパリパリと(おお)って光っていた。


「こ、これって…?」

 驚くシンスケを尻目に子供たちは、

「おじちゃんも光った!」

「おんなじだね!」

 と嬉しそうに声を挙げる。


 ジェイドはそっとオリヴィンに耳打ちした。

「…石に溜まったエネルギー…でしょうか?」

「わからないが…アイリンは雷に打たれたって言ってたよね…それで目が赤くなったって…」

「そうですね…」

「シンスケの目、今赤くないか?」

 光の加減…と言われればそれまでだが、まじまじと顔を眺めればやはり、明らかに目が赤い。


「おまえたち!そこまでだ、やめなさい!」


 それまで静観していた又右衛門が声を荒げた。

 日頃、大きな声を出したことのない又右衛門が皆を制したことで、部屋の中はシンとなった。

「これ以上大袈裟なことになれば、とんでもないことになってしまう。もうこれ以上はやめだ。灯りを消してくだされ…」

 又右衛門の頑として譲らぬ声が響いた。


「親父…」

「すみません、消します」

 オリヴィンはそう言うと、シンスケの手から竹筒を受け取り、明かりを消した。

 石の眩いばかりの灯りが消えると、普段の蝋燭と行燈の明かりが(とも)り、いつもの暗い夜に戻った。


「申し訳ござらん。調子に乗りすぎました…」


 オリヴィンが皆に謝ると、シンスケは少し不満そうに親父殿に言い募る。


「なんだよ…おもしれー体験ができただろ…」

「シンスケ、お前アイのことを忘れたわけじゃないだろう…そんな訳のわからん力があったって、こんな小さな村じゃ厄介者(やっかいもの)にされちまうんだ」


 シンスケは親父殿の言葉に黙り込んだ。


「織部殿、悪いが明日、村を()ってくだされ。シンスケも町へ送って行け」

「承知いたした…明日、発たせていただきます」



 翌朝、身支度を終えたオリヴィン、ジェイド、シンスケの三人は皆に別れの挨拶を告げて、町へ向けて旅立った。


 いつもは賑やかなシンスケが、今日は静かだ。


 歩きながらオリヴィンが話し掛ける。


「シンスケ、黙っていたことがあるんだ」

「…なんでぇ旦那?」


「アイリンという妓女のことだ…」

 前を向いていたシンスケが振り向いてオリヴィンの顔を見た。


「旦那?」

「おそらく、アイリンはアイのことだと思う」


「知っているのかい…アイのことを?」

「俺が知っているのは、目が赤い妓女のことだ…長くて真っ黒な髪に、小さな白い顔、真っ赤な目の…」


「旦那!知ってるなら教えてくれ!」


「『月華楼』という妓楼だ。その妓楼の主人と知り合いでね」

「『月華楼』…高級妓楼じゃねえか…」


「会いたいか?」

「あたりめぇだ!決まってんだろ!」


「でも、会ってどうする?」

「…会ってどうするったって…」


 そこでシンスケは再び黙り込んだ。

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