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71 お役御免

 

 いよいよ明日で『お役御免』という日、宗像城(むなかたじょう)より『(ろう)(ねぎら)いたい』というお招きをいただき、オリヴィンとデュモン卿、通詞のモキチとの三人で登城する。


 駕籠(かご)でのお迎えを受け『もうこれで最後なのだな』と感慨(かんがい)(ひたり)りながら参上する。


 時貞公から、(ねぎら)いの言葉と共に、家紋の入った見事な短刀を下賜(かし)された。

 有り難く押しいただき、それと共に約束の報奨(ほうしょう)も銀貨で(もら)い受ける。


 今までお世話になった家臣の方々が列席されて、この地特産の珍味や海の幸、酒などが振る舞われ、普段それほど酔ったことのないデュモン卿までもが赤い顔で、上機嫌になった。


 たくさんの方々にお別れの挨拶を言い、足許(あしもと)がおぼつかなくなったデュモン卿を、オリヴィンと祐之進が支えて帰りの駕籠(かご)に押し込むと、宿へと向かった。

 宿に着いても大男のデュモン卿を下ろすのが大変そうなので、祐之進にも付いて来てもらい帰路に着く。(あた)りは雨雲が低く垂れ込め、今にも雨が降り出しそうだった。


 夕闇が迫り、ぽつぽつと雨が降り始めて少し暗くなったその時、異変は起こった。


 バタバタと数人の足音が聞こえ、祐之進の声が響く。

「何者だ⁉︎ この駕籠が城主時貞公の客人(きゃくじん)のものと知っての狼藉(ろうぜき)か⁉︎」


 相手は何も言わないが、(いや)な殺気が伝わって来た。

 駕籠を背負っていた駕籠舁(かごかき)の『ひぃ〜〜っ』という悲鳴が聞こえ、駕籠が乱暴に地面に降ろされた。

 オリヴィンは異常な気配を感じ、駕籠の扉を跳ねあげると外に出た。


 そこには、顔に鬼の面を(かぶ)った侍らしきいで立ちの男たちが五人、刀を抜いて雨の中立っていた。


「おのれっ、怪しき術を使い人身を惑わす鬼畜めがっ!われらが成敗(せいばい)いたすっ!」

 そう一人が叫ぶと、一斉に刀を振り(かざ)して襲いかかって来た。


 キィン、と刀を(はじ)く音がし、祐之進がオリヴィンの前に立ちはだかる。


 オリヴィンはベルトに刺していた下賜されたばかりの小刀を抜いて、手前に(かざ)す。身を守る武器は、この小刀と火焔石の指輪だけだ。


 指輪の蓋を開き、頭の中で念じるままに、火の玉を男たちめがけて叩きつける。男たちは一瞬(ひる)んだが、また体勢を立て直すと襲って来た。

 一人ががオリヴィンめがけて突っ込んで来る。近接戦で大刀と小刀では圧倒的に不利だ。指輪をかざして火炎放射する。

 火が男の衣や髪に燃え移って、男が悲鳴を上げる。


 祐之進は酔って寝ているデュモン卿の駕籠と暴漢の間に立ち、必死で抵抗している。

 雨が降っているために、男の服に燃え移った火はすぐ消え、相手には有利だ。少しの間睨み合いが続いた。


 次の瞬間、三人が一斉に突っ込んで来た。一人は祐之進が刀で()いでかわすが、次の男は側面からオリヴィンに切り込んで来た。小刀で受け止めて、反対の手の指輪で顔目掛けて火焔を放つ。面と髪が燃え、男が叫んで飛び退いた。


 もう一人が背後から襲って来る。刀が振り下ろされ、オリヴィンは反射的に横っ飛びに()けたが、肩に鋭い痛みが走った。

 「クッ…」

 痛みで頭の中がチカチカする。激しい怒りが湧いて来て、無意識に手加減していたことに気づく。

(やめた。もう手加減しない…)


 振り向きざまに、手加減をやめた炎の柱を浴びせた。半身が黒く焼けこげ、男がのたうち回る。

 オリヴィンが残りの男たちに向けて腕を差し出すと、膨大な量の炎が男たちを包み込んだ。


 一人の男が逃げ出し、残ったものはその場に重度の火傷(やけど)を負って(うめ)いているか、気を失って倒れていた。


 先に走って逃げたモキチが役人を呼んで戻って来ると、オリヴィンはその場にしゃがみ込んだ。右肩にズキズキと痛みが走る。見ると腕を伝って血が(したた)り落ちていた。その血が雨の中で水溜まりに広がっていく。


 駕籠の中で眠っていたデュモン卿が目を覚まして、

「一体何があった⁉︎」

 と聞いて来たが、

「後で説明します」

 と答える。



 * * *



 その(のち)用心のため、宿から世話役の古関殿の御宅(おたく)に移ることになった。


 この国にも外から来た異人を()み嫌う者がいる。しかも、怪しい術を使うというのは本当なので、そう思われても仕方がないのかもしれない。


 オリヴィンの怪我の治療のため、出島に帰るのはもう少し先になった。

 毎日ジェイドがかいがいしく傷口の手当てをしてくれるので、それもまあいいかとも思う。はだけた肩をジェイドの優しい手がなでると、早く治ってしまうのが惜しい気もする。


 オリヴィンたちを襲ったのは、どうも近隣の藩の者らしい。

 隣の小藩が異人を使って怪しい術師を育てていると聞き、危機感を(あお)ったのかもしれない。

 暴漢に襲われたことを聞いた時貞公は気の毒がって、今度は大刀を贈ってくれた。今度はそれで戦えということだろうか…?


 年内いっぱい湯治して、傷や疲れを癒し、新年を迎えてから出島に向かうことにする。


 変身石で変身して温泉に浸かり、のんびり露天風呂を満喫していると、デュモン卿が話しかけて来た。

「こうして裸で共に湯に浸かるというのも、案外いいものだな」

「そうですね、裸になるのにも慣れましたし。なんとも言えない開放感というか、爽快感がありますね」

「傷はどうだ?」

「お陰様で良くなりました」

「男の勲章だな」

「ですね」

「守ってもらってすまなかったな」

「……」


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