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70 祐之進の恋心


 息子である祐之進の提言(ていげん)で、古関は大幅なる計画の変更を君主時貞公(ときさだこう)言上(ごんじょう)することになった。

 それまで新たな戦闘部隊を編成することに異論(いろん)(とな)えていた家臣たちも、平時に役に立つことのできる人材を育成することには、(おおむ)ね同意を取り付けることができ、内心古関はホッとしていた。


「殿、此度(こたび)の『異能(いのう)の衆』の新しき役どころにつきまして、ご報告がございます」

「申してみよ」

「これまでの鍛錬(たんれん)に加えまして、それぞれの能力に合った別の教育を加える所存でございます」


「それはどのようなことか?」

「例えれば『火』の才があるものには、鍛治場(かじば)での修行やたたら場への出向、焼き物の窯元への修行などでございます。また、女たちには『治癒(ちゆ)』の才があるものが多く、それらの者には薬師(くすし)や医者の手伝いなどが向いているかと」


「そうか、それは名案じゃの。平時にも力を発揮できれば民の暮らしの一助(いちじょ)になるであろう」

「ははっ。それではそのように手配致します」

「うむ。古関、ご苦労であった」



 * * *



 オリヴィンとデュモン卿は、今まで気に掛かっていながら口にできずに、心の中に刺さっていた(とげ)がいつの間にか、消滅しつつあることに驚いていた。

 しかも、それがジェイドの一言から始まったことなのだから、余計に意外だった。

「これなら、もう我々の出る幕ではありませんね」

「そうだな、帰り支度を考えても良い頃合いかもしれん」


 基本的な戦闘訓練を終えた男たちは、各々の能力に応じた次の修行先へ、一人また一人と出向して行き、あまりオリヴィンやデュモン卿の手を(わずら)わせることがなくなってきた。


 ジェイドはまだ女性たちのに『スコロ石』と『傷癒石(しょうゆう)』の傷薬系、毒消しの『清涼(せいりょう)石』などがあることを説明する。

 (むずか)しいのは、これらの実演がしずらいと言うことだろうか。

 また、魔石の見分け方など、今後困らないように指導もしている。

 わざわざ遠くの地から魔石を輸入しなくとも、この国にあるもので代用できれば、それに越したことはない。

 それにしても、アカネのことが気になるのか、祐之進が度々ジェイドの講義の様子を見に来ていた。


「ふぅむ。この魔石とやらはこの地でも産するのだろうか?」

「探せばございますよ。現に私の名である翡翠は強力な護符(ごふ)でもあります」

「そうなのか⁉︎」

「アカネはそうゆうものを見つけるのが得意のようですので、アカネを連れて探しに行くのも良いかもしれません」

「そうかアカネ、今度行ってみるか?」

 アカネは嬉しそうに

「うん、行ってみたい!」

 と返事をする。

「翡翠どのも一緒に行ってはくれぬか?我々だけではちと心細いのでな」

「よろしゅうございますよ。父に相談してみます」


 彼らは世話役の古関殿に、お役御免(やくごめん)(うかが)いを立てていた。ならば最後のご奉公(ほうこう)ということで『魔石探し』を手伝えれば、と承諾した。


『魔石探し』の朝、冬の空は澄み渡っていた。

 冬ではあるがこの辺りは暖かい気候だ。聞いたところによるとこの国は南北に長い列島で、北の島では人の丈より高く雪が積もるのだそうだ。

 故郷のディヤマンドでは北方高地でさえそのような降雪はないので、できれば一度見てみたい気もする。


 デュモン卿、ジェイド、オリヴィンと通詞のモキチ、それに非番の祐之進がキクとアカネの親子を導いていた。

 子供のアカネでも歩いて行けるということで、河原を探索(たんさく)してみることにした。火山の活動が活発な地では、石の生成には新しすぎると予想できるので、この地ではあまり期待ができないかもしれない。


 見本に持って来た魔石を参考にして、河原に広がって探し始めた。

 オリヴィンとデュモン卿は今日は変身石で黒髪・黒目になっている。


 さっそくアカネが小さな白い石を摘んで持って来る。

「翡翠せんせい、これは?」

 アカネが小首を傾げてジェイドに問いかける。

「どうかしら、握って何か感じる?」

 ジェイドの問いにアカネは『ううん』と首を左右に振った。

「そうね、もう少し探してみて?」


 祐之進はオリヴィンに一度尋ねてみたいことがあって、様子を(うかが)っていた。

 オリヴィンが皆と少し離れたところで石を探し始めたのを確認して、それとなく寄っていく。


「何か面白そうなものはございますか?」

「う〜ん、なかなか難しいね…」

「オリヴィン殿。…オリヴィン殿と翡翠殿は、夫婦(めおと)になる約束を交わしておられるのですか?」

 突然の問いにオリヴィンの手がピタリと止まる。

「め・お・と、の意味がわからないけど、多分、結婚するかってことだね?」

 オリヴィンはこの地に来てから、ずいぶんニッポニアの言葉を覚えた。

 だからなんとなく、聞きたいことの意味はわかった。


「うん、結婚するつもりだよ」

 オリヴィンはニッコリして明確に答えた。

(もうどんな男もジェイドに近づけない!ここははっきり言っておかねば…)


 祐之進の目がなんとなくジェイドを追っているような気がしていたのだ。

 モキチからも、

「祐之進様、やけにまめに通ってこられますね…ほんとにアカネの為ですかね?」

 と言われていた。

「そうですか…」

 祐之進の落胆した声が聞こえる。


 その時、

『危ないっ!』と言う叫び声がして、何かが水の中に落ちる音がした。


 浅瀬で石を拾っていたアカネが足を滑らせて転び、駆け寄ったキクが水の中に飛び込もうとしていた。

「待って!今助けますっ!」


 オリヴィンは見本の石が置いてあった場所に駆け込むと、湧水石を手に取った。水に水で対抗?と自分でも不思議な気がしたのだが、直感でそうした。

 湧水石を握りこむと頭の中で念じた。


 彼の左目がキラキラと輝き、川の水が真っ直ぐアカネのところまで割れた。

 その有様に皆が驚愕する。

 祐之進がその割れた川の中からアカネを抱きかかえる。


「あーびっくりした。オリイせんせいすごいね!」

 アカネがのんびり答えるので、皆がホッとした笑顔を浮かべた。

 祐之進がアカネを河原に下ろすと、

「もう川の中に入るなよ」

 と念を押す。


(まったく!この異人の男はなんという力の持ち主なのか…凄すぎて(かな)う気がしない…)


 この日の収穫は火焔石が少しと、傷癒石が二つ。

 魔石探しはそう簡単でないということだけがわかった。


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