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68 合流


 宿に戻ったジェイドは、キクとアカネ親娘(おやこ)に別れを言ってまた旅を再開した。


 温泉宿の被害は、少し大きめの噴石が飛んできて屋根に穴が開いたことぐらいで人的な被害は無かったが、降り積もってしまった火山灰は大変な量だった。

 しかし、慣れているのだろうか、温泉宿の人々はもう片付けを始めている。


(ここの人たちは強いわ。もう皆が協力して復興を始めている。火山と共に生きるって、凄いことだわ…)

 ジェイドは人々のしなやかな強さに驚き感心しながら、宿を後にした。



 * * *


 オリヴィンとデュモン卿は宿の部屋で、これからの『魔石教育と訓練』について話し合っている。

 古関殿は他の家臣の方々との調整やら、登用が決まったがまだ住む場所などが決まっていない者たちの処遇などで、忙しく飛び回っていた。

 古関殿の大変さに比べたら、オリヴィンとデュモン卿は部外者なので気楽なものだ。


「『魔石を操って戦う小隊』を作る、という認識で合っているのでしょうか?」

「合っているのではないか?少数精鋭で戦える部隊ということだろう」

「十歳の少女をそれに巻き込むというのは、どうなんでしょう?」

「我々にはそのことに口を挟む権限などないぞ…」

「そりゃそうですが…」


 その時だった。部屋の外で女中さんの声がした。

「お客様、お連れの方がお付きになりました」


 オリヴィンとデュモン卿は揃って顔を見合わせる。

「…連れって?」

 襖を開けるとそこには、会いたくて会いたくて夢にまで見た女の顔があった。

「ジェイド!」

「オリィ!」


 彼は嬉しくて思わず彼女を抱き寄せる。

 抱き寄せられたジェイドは上目がちにオリヴィンを見上げて、恥ずかしそうな嬉しそうな顔をする。


 オリヴィンはデュモン卿の視線が背中に刺さるのを感じて、(あわ)ててジェイドを離した。


 ジェイドは照れながらも

「待てないので、来てしまいました」

 と笑顔で二人に挨拶した。


「途中は大変じゃなかった?一昨日(おととい)、噴火があっただろう?」

「ええ、大変でした。夜中にどーーんって音がして、みんなで河原まで逃げたんです」

「怪我はない?」

「大丈夫です。何かの時に役に立つかと『スコロ石』を持って来ていたので、裸足で避難して足を怪我したのも、治してしまいました」


 話がオリヴィンとジェイドだけで完結してしまうので、デュモン卿は呆れた顔で見ている。


「あ、すいませんデュモン卿。俺ばっかりジェイドと話して…」

「構わんさ、会いたかったのであろう?」

 面と向かって言われて、二人は赤面した。


 ジェイドは荷物を部屋の隅に置くと、あらためて二人の前に座り直した。



「母に、ミカサさんに会って来ました」

 デュモン卿の目が見開かれ、娘の顔を注視する。


「黒曜さんと一緒に、ミメット邸でのお茶会に招かれたんです。その(じつ)、三人だけのお茶会だったんですが。…お話をさせていただきました」


「…どんな様子だった?ミカサは…元気だったか?」

「はい、お元気でした。…小さいお子さんが二人、女の子と男の子ですが…いて、とても可愛かったですよ」

「…そうか」

 デュモン卿は何か言いたそうにしたが、言葉にはせずに呑み込んで黙って続きを聞いていた。


「夫のミメットさんは、私たちが話をしている間、ずっとお子さんの面倒を見てくれていました。

 ミカサさんは、海に落ちてからの話をしてくれて、あの時、怪我をして海に落ちた彼女を救って手当てをしてくれたのが、ミメットさんだったそうです。

救ってくれた船は貿易船で、西の母国に帰る途中だったそうで、そのままオクスタリアに行ったそうです」


「オクスタリア…そんな近くに…」

「友人も知人もいない異国でミメット氏の家に世話になっていたと…それで、そのまま結婚されたそうです」


 デュモン卿は考え込むように聞いていたが、目線を上げるとジェイドに問いかけた。

「…お前は、大丈夫か?」


 ジェイドは一瞬口唇(くちびる)をキュッと結んだが、またこう続ける。

「大丈夫です。なんだか吹っ切れました」

 そう言うとジェイドはにっこりした。


「お前がいいなら、いいさ…」

 デュモン卿は娘を愛おしむように見やった。


「そうそう、父さんに伝えてくれって言ってました。

『感謝している、こんな素敵な娘に育ててくれてありがとう』って…」


「……そうか」

「ふふ…、なんか照れちゃいますね」


 ジェイドの目にもデュモン卿の目にも、熱いものが込み上げて来ていた。

 聞いていたオリヴィンの目からも、涙がこぼれ落ちていた。


「何故、お前が泣く?」

「…すいません」


 * * *



 古関祐之進はキクとアカネ親娘と共に、ご城下を目指していた。


(二人に付き添ってやって良かった。私が来なければ、この二人はこうして帰路に着けなかったかもしれない)


 キクは嫁に行った先でアカネを産んだのだか、大きくなってきた娘がだんだん『人に(あら)ざる力』を見せ始め、離縁を申し渡されたのだ。

 実家に戻って来た娘を家族が恥じて、ほとんど軟禁状態の中、今回のような異例の『登用試験』のことを耳に入れてくれた友人がいて、この機会を逃すまいと家を出る決心をしたらしい。


 家族に『お殿様の(おぼ)し召し』である事を説明し、やっと城下に行くことを許可してもらったのだ。

「古関さま、ありがとうございます。お陰様で、無事に家を出ることができました」

「それがしは、殿のご意向をご家族に説明したにすぎません。お気になさらず」

「いいえ、古関様がいらしてくださらなかったら、私たちはもう土蔵にでも閉じ籠められてしまったに違いありません」

(本当にそんなことにならなくて良かった…)

 古関祐之進はしみじみと思った。

 だが、この後の人生が平坦であるとも思えないのも事実だった。


 アカネは今回合格した二十五人の中でも一番の成績だった。

 火焔石を手にしては渦巻く炎の柱を出現させ、湧水石では一瞬にして辺りを水浸しにした。治癒石は手の中で月の如く輝き、周りのものを圧倒した。

 本当に末恐ろしいくらいの才気である。


(殿はこんな子供に、いったい何をさせようと言うのだ…?)


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