50 振動する魔石
「これは…?」
「この石は初めて?」
「はい…何だかムズムズします」
「ハハ…ムズムズか…」
ヘリオスが笑いながら何かを言いかけた。
オリヴィンはその石を手に握りながら、意識をその石に集中する。
ズズズズズズ………ズゥーーーン、と足の下の地面が揺らいだ。
よろめいて体を支えようと気が逸れた途端、その地鳴りのような振動は収まった。
「い、今のは?」
驚いてヘリオスに問いかけると、彼も驚愕の表情をしていた。
「驚いたな…オリィ、君は『振動石』の共鳴度がとてつもなく高そうだ」
「『振動石』?」
「そうだ。この石はこの世の全てのものの振動数に干渉し、増幅、減少させることができる。わかるか?この石を使いこなせる者は無敵だ」
「無敵?」
「そう、私はもう君を敵に回そうなんて、絶対に思わないね」
そう言うとヘリオスは、声を上げて笑った。
「そんなに凄い石なんですか、この石は?」
オリヴィンは手の平に乗せたその石を眺める。
赤黒くて半透明なカルセドニーのようなコロンとした石に、それほどの力があると想像できない。ただ、微細な振動を発しているようで、少しむず痒いような感じがする。
「この石に共鳴できる者はとても少ないんだ。普通は地震を起こすどころか、目の前の人間に目眩を起こさせることすらできない。そもそも、この世界にある全てのものは、人間も動物も植物も、測ることができないほどの微弱な独自の振動をしている。その振動を自由にコントロールできるとしたら?」
何か、とても難しいことを説明されているが、具体的にどうなのか、が呑み込めない…
「む、難しすぎてわかりませんが…なんかヤバい、って気がします」
「わかりずらいだろうから、ちょっと実践してみようか…その石をこちらに」
オリヴィンは持っていた石をヘリオスに渡した。
ヘリオスは渡された石を手に握ると、目を瞑って軽く口を開いた。
すると、オリヴィンの耳の底にキィーーーンと耳障りな音が聞こえて、耳が痛くなった。
「イテテッ!み、耳がッ…」
ヘリオスが目を開けると、音は止んで、耳の底を揺さぶるような痛みは収まった。
「今のは、私の声の振動数を変えて君にぶつけたんだ。これをもっと強力にすれば、鼓膜を破ることもできるだろう」
「そ、そんなことが…」
ヘリオスとオリヴィンが真剣な顔で話し合っているのと、セレスティンが心配顔で近寄って来た。
「オリィ、ヘリオス。…何だか怖いわ。この石にオリィがとても共鳴度が高いということはわかったし、今日はそれくらいにしたら?オリィも一旦宿に帰って、もう少し詳しい事情を聞いたらどうかしら…」
それを聞いてヘリオスも同意し、最後にこんなことを言った。
「オリヴィン、この力のことは他の誰にも秘密にすることを勧めるよ。この力は強力過ぎる。もし、君がこんな力を持っている事が分かれば、周りが放っておかないだろう。その力を利用しようとするものが必ず現れるだろうし、君は否応なくその争いに引き込まれるだろうから」
三人は円形競技場を出て一旦宮殿に戻り、オリヴィンはヘリオスが用意してくれた馬車で宿まで送り届けられることになった。




