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45 敵襲

 

「大変申し訳ござらん、デュモン殿、オリヴィン殿、ジェイド殿…」

 ホラン殿は深く頭を下げた。

 飛空艇は昨夜の奇襲攻撃で底部に穴が空いてしまい、やむなく修理をしなければならなくなった。


 強度の必要な部分だけに、しっかりと補修する必要がある。

 材料の調達、補修など、どう見積もっても早くても1週間はかかるだろう。


 しかも、隣国の侵攻に備えて男手は不足している。自分たちで何とかするしかない。

 動けるデュモン卿とオリヴィンはあちこち手分けして、材料になりそうな物を探し歩いた。

 ジェイドは持っていく荷物や食料を用意している。



 ゴルン王国への入り口は、山麓(さんろく)沿いの道が数本あるのみで、いずれも人が二人と並んで歩けない細さだ。ましてや標高差が激しく、平地に住んでいる者ならすぐに高山病に(かか)ってしまうだろう。

 まして重い(よろい)を着けていては身動きが取れないし、すぐに息が上がってしまうに違いない。

 重い武器を運ぶにも、馬やラバに荷車を引かせるしかない。

 誰もが、しばらくは敵は辿(たど)りつけないに違いない、と思っていた。



 * * *



 その、『()()()()』はいつの間にか、背後からやって来た。


 王都は“大陸の壁”と言われているヒマール山脈に背後を守られている。

 そのため、まさかその高い山を越えて敵が攻めてこようとは、誰も想像すらしていなかったのだ。


 それは、周到な計画だったに違いない。

 万年雪に覆われた山々を縦走(じゅうそう)し、身軽な白色の装備のみで雪山を滑り降り、気づかれぬうちに家々を襲う。襲われた家は火をかけられ、人々は逃げ惑った。


 カン、カン、カンッ。カン、カン、カンッ。

 いきなり寺院の鐘が鳴らされて、人々は異変に気がついた。


 白い衣装に身を包んだ敵兵が、背後からいきなりやって来て、有無を言わせず人々を殺戮(さつりく)し始めたのだ。

それは屈強な男たちの精鋭部隊で、背後の雪山から短いスキーのような板を履いて滑り降りて来た。

手には短い湾刀を持ち、素早く家々を襲撃していく。

おそらくは敵国が雇った山岳民族の傭兵部隊であろう。

 そいつらはホラン殿の家にもやって来た。


 寺院の突然の鐘の音に何事かと外を覗いたオリヴィンの目に、白装束の兵隊が襲いかかって来るのが見えた。


「ジェイド、デュモン卿!敵兵です!」


 デュモン卿もオリヴィンも、あわてて剣を取って戦う。


「ジェイド、これを()めて!」オリヴィンがジェイドに『火焔石の指輪』を投げる。

 指輪を受け取ったジェイドは、襲いかかる兵に火焔(かえん)で応戦する。


 剣と炎で抵抗された敵兵は、(ふところ)から丸い球状のものを取り出して、火をつけようとした。オリヴィンはそれを剣で()ぎ払う。


 敵の『手投弾(てなげだん)』は不発のまま転がり、その隙にデュモン卿は敵に剣を振り下ろした。


 町は阿鼻叫喚(あびきょうかん)で渦巻き、ところどころで爆発音が聞こえた。

 逃げ遅れた人が切り殺されたり、家に火を掛けられて逃げ惑っている。


 そこへ、大きな黒豹が現れた。

 黒豹はしなやかな体で敵兵に襲いかかると、喉笛(のどぶえ)を噛み切った。

 更に一頭、もう一頭と黒豹が躍り出て、敵を倒していく。そして、更に敵を追って王宮へと駆けて行った。


 王宮では敵の不意打ちで、人々が逃げ惑っていた。

「ラナ王女、お逃げください!」

 王女付きの侍従が逃げ道を先導する。


 階下から大きな爆発音が聞こえた。建物自体が地震のように揺れ、埃が舞い上がる。

 城門が破られたようだ。

 ドン、ドン、ドンと沢山の足音が聞こえ、敵が踏み込んで来るのがわかった。

 こうなっては地下通路は使えそうもない、そう判断して、侍従は上へと王女を逃す。

 ラナ王女は上へ上へと逃げて行った。


 最上階に辿(たど)り着き、これ以上は屋根伝いに逃げるしかない、と窓に手を伸ばした時、窓から一頭の黒豹が飛び込んで来た。

 足首に見た事のある魔石が(くく)り付けられている。


「ダワン!ダワンね!」

 王女は黒豹に駆け寄った。


 黒豹は『自分に乗れ』とでも言うように、頭を下げ身を低くした。

 王女は黒豹の背中にしっかり捕まって、身を任せた。

 黒豹は王女を大事そうに背負うと、ゆっくりとした動きで屋根伝いに登っていく。

 王女を背に、黒豹は王宮の更に上にあるアジュラ教の寺院へと入って行った。


「ラナ王女!ご無事で!」

 アジュラ教の司祭や逃げ延びた人々が、黒豹と王女を迎い入れる。


 黒豹はブルっと身じろぎすると、ダワンになった。

 ダワンは王女に一礼すると、アジュラ教の祈りを捧げる一段高くなった祈りの祭壇へ向かう。


 祭壇から町を見下ろすと、あちこちから火の手が上がり、人々の叫び声や、時々爆発音も聞こえて来る。


(……もう、これしかない…アジュラの神よ、お聞き届けください…)


 ダワンは手の中に、あの魔石を握りしめて、一心に祈った。



 …………………………ズズズズズズズン…………………………


 遠くから、低い地鳴りのような音が、徐々に近づいて来る…


 町の背後に(そび)えていた氷河の山腹が崩れ、大量の万年雪が流れ下った。


 それは高いところから低いところへ川のように流れ下り、燃えていた建物を覆い、通路を下り、敵も味方もなく全てを流し尽くして行った。


 その大きな振動は更に山々を伝い、進軍していた隣国の軍隊もろとも、道ごと流し去った。


 幸いなことに高い位置にあった神殿は難を逃れ、高原の平地に兵を集めていたゴルンの人々は、難を逃れた。


 町中に残った敵兵は、ゴルンの兵に討ち果たされた。

 犠牲は出たものの、石作りの家の中に留まった人々は、次々と覆い尽くした雪の中から助け出され、九死に一生を得た。



 * * *


 雪に埋もれたホラン邸から、ジェイド、オリヴィン、デュモン卿も、ホラン殿の奥方と共に救い出された。


 ダワンはアジュラ教の寺院から、崩れた氷河を見上げていた。

 崩れた場所が黒い影のような模様になっている。


「なんだか、羽根を広げたドラゴンみたいね」

 隣でそれを見上げていたラナ王女が呟いた。

「そうだね、そんなふうにも見える…」


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