表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/101

42 偵察

 

「これまで、小国であるこの国が侵略されなかったのはなぜだろうか?」

 オリヴィンはダワンに()いた。


 ダワンはその理由を一つ一つ挙げていった。

「一つは地理的な理由。ゴルンはヒマール山脈を背景とした山岳地帯に位置している。

 行軍はかなり過酷なものになる筈。到達するまでに疲弊(ひへい)し切ってしまっては元も子もない。

 もう一つは、攻め落としたとしても得るものが少ない、と判断した場合だな。おおよそはこの二つの理由だと思うが」


「逆に言えば、今は『無理をしてでも得たい何かがこの国にある』と言うことですよね」

 オリヴィンに問われて、ダワンは気になることを思い出した。


「近年、隣国で『新しい兵器』が発明された、と聞いたことがある。詳しいことはわからないが、数種類の石の粉を混ぜ合わせて火をつけると、激しく燃えるのだそうだ。なんでも、それは『火薬』と呼ばれているとか…」


「その『火薬』の詳しい製法や材料などはわからないのですか?」

 オリヴィンが畳み掛ける。


「…その材料となる石が、ゴルンで採れる…ということか⁉︎」

 ダワンはハッとして、自分が言った言葉を反芻(はんすう)した。


「…『火薬の材料』、新しい武器。…すまないが、お二人さん、これで失礼する。父上に報告しなければ…!」

 ダワンは慌てて出ていった。


「オリィ、あの石、…良かったのかしら?」

「わからないけれど、前の俺もあの石を持て余したのかもしれないな」



 * * *



 デュモン卿とホラン殿は『飛空艇』の修理に精を出していた。

 有り合わせの材料で翼の形を作り、その上を(にかわ)で煮た布を貼り合わせていく。

 ようやく、形も左右対称になって来た。あとは乾かして、明日には試運転ができるだろう。


 一息ついたところで、ホラン殿の息子、ダワンがやって来た。


「これが『飛空艇』なのですね。我が国にも、このようなものがあれば良いのですが…」

「可能かもしれませんぞ。飛空艇は形はあまり問わぬのでな。この『飛行石』さえ見つければ、絨毯(じゅうたん)でも飛ぶことができますぞ」

 デュモン卿が冗談混じりに言う。


「どうしたのだ、ダワン。なにか用か?」

「父上、実は先ほどオリヴィン殿と話していて気づいたのですが、隣国が我が国を侵略したい理由について…」

「何だ、話してみろ」

「近年、隣国で開発されたと言う『火薬』のことです。火薬の材料は数種類の石の粉を調合して作られるそうですね」

「そうらしいな、詳しいことはわからないが…」

「その材料の石が、我が国で豊富に採れるとしたら、どうでしょう?」


 ホラン殿とデュモン卿の目が合った。

「なるほどな…それならば、無理をしても侵略する意味があるわけだ」

「更なる侵略のための材料を手に入れたいわけですな」


「その『火薬』なるものは、どのような力があるのだろうか…」

「一度、手に入れて確かめて見たいですな」

 そう言いながら、デュモン卿は飛空艇の翼を撫でた。



 * * *


 翌朝、ホラン殿とデュモン卿は『飛空艇』の試運転に出掛けて行った。


 ジェイドはまだ松葉杖をついていて、自由に動き回れそうもないし、オリヴィンはまた、ラナ王女の配下のものに狙われかねないので、ダワンが今日も一緒だ。


 大分二人に慣れて来たダワンが口を開いた。

「二人は北の白い肌の人の国から来たんだろ?あっちの国は、そんなにいろいろな髪の色や目の色の人がいるのかい?」


「そうね、確かに金色の髪、銀色の髪、赤い髪、茶色の髪、いろいろな人がいるわ。でも、オリィの紫紺は珍しいかな。私は、母が東の海の島国の人だから、髪が黒いけれど」

 ジェイドが答える。

「東の海の島国⁉︎そうなのか。僕は東の海の端までは行ったことがあるけど、そのまた先の島国…聞いたことはあるけど…」

「へぇ、東の端まで行ったんだ!どんなところだった?」

 オリヴィンが口を挟む。

「どんなとこって、まあ、でっかい国があってその中でいくつも国ができたり、また別になったり、戦争してるのさ。都は本当に絢爛豪華(けんらんごうか)だったけどね」

 ジェイドとオリヴィンは、『ふ〜ん、そうなんだ』と興味深そうに(うなず)く。



 午後になって、『飛空艇』の試運転に出掛けていた二人が帰って来た。


「あの『飛空艇』は素晴らしいですな。これが何機もあれば、完全に世界も征服できるかもしれませんな」

「是非に、そんなことが無いよう願いますぞ。それにこれは借り物でしてな。

 一年後にはタルクに返さねばならんのです」


「デュモン卿、父上、試運転はどうでした?」

 ダワンの問いにホラン殿が答える。

「あまりの快適さに、東の国境まで行って来た。上からだと、敵の動きが手に取るように見える。いやはや、大したものだ」

「そんなに遠くまで、この短い時間に⁉︎」


「ダワン、少し状況が変化しそうなので、寺院に皆を集めてくれ。伝令を頼む」

「わかりました、父上」

 そう返事をすると、ダワンは素早く出て行った。


「私も支度をしなくてはなりませんので、デュモン殿、これにて失礼つかまつる」

 ホラン殿も慌ただしく部屋を出て行った。


「父さん、何かあったんですか?」

 ジェイドが卿に尋ねた。

「…隣国が、いよいよ動きそうなのだ。これを回避するために、少々ホラン殿に手を貸そうと思う。良いかな?」

「もうここまで巻き込まれていますので、こうなたったら協力するしかないですね」

 オリヴィンが答えると、ジェイドも頷いた。



 * * *


 その夜、ホランと息子のダワン、アデュラ教の司祭の一人を乗せて、『飛空艇』が飛び立った。昼間十分に飛行訓練をしたホランは、静かに挺を発進させ、東に向かって飛んだ。


 国境の敵の陣は、昼間見ておいた通りの場所に篝火(かがりび)()かれている。

 飛空艇は夜の闇に紛れて、静かに陣から少し離れた場所に舞い降りた。


 三人は、そっと敵地に忍び込み、武器庫らしき建物から、そっと武器を盗み出した。

 こんなところまで敵は来ないだろうという慢心からか、警備の目が以外に少なかったため、難なく盗み出すことができた。

 盗み出した数種の武器と思われるものを飛空艇に積み込むと、静かに発進させた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ