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41 隣国の脅威


オリヴィンとジェイドが再会を果たしている頃、ホラン殿とデュモン卿は情報の交換をしていた。


「東の国境付近は、今は戦闘をしていないが、膠着状態が続いている。おそらく援軍が到着するのを待っているのであろう」

ホラン殿がそう説明すると、デュモン卿は

「東側から一気に攻め込んで、そのままこちらまで進軍して来ると言うことか?有り得ますな」


「王女が結婚を急ごうとしているのは、予言だけの話でもないかもしれませぬ。まだ、後継がおらぬからな。子種を宿して逃げ延び、再起の機会を伺おうとしているのかもしれぬな」

「無理矢理結婚した挙句、矢面に立たせて捨て石にする算段……だとしたら、あまりの身勝手ではないか!」


「そのようなことはあってはならぬが…。ところでデュモン殿、こちらには不可思議な乗り物で来られたと聞きましたが、どのようなものなのです?」



* * *


ジェイドとオリヴィンは夕食の後も遅くまで、話をしていた。

二人がいつ、どこで出会ったか、そしてその後どんなふうにお互いの気持ちを確かめていったか、すれ違って悲しかったこと、後を追いかけて来てくれたことなど、ジェイドは沢山話した。ただ、あの砂漠での出来事だけを除いて。


オリヴィンは、空白の部分を一つずつジグソーパズルのピースを埋めるように、思い出を繋ぎ合わせていった。



夜半になり、ジェイドも部屋へ戻り、皆が寝静まった頃、動く人影があった。

そして、その人影を見つめる黄色い二つの目も…

「やっぱり、来たね」

「誰?」

黄色い丸い目玉がゆっくりと闇の中から出て来る。黒豹だった。

黒豹は体をブルっと震わせると、徐々に人間の姿になった。


「ラナ王女、何しに来たんです?」

「ダワン。…あなたには関係のないことです」

「ここは僕の家ですよ。関係なくはないでしょう?」

「わ、わたくしは説得しに来たのです」

「誰をですか、オリヴィン様?それとも父上ですか?」

「あなたには分からないのです。彼の方が、予言の方であることが…」

「予言ですか。ラナ王女、まさかそれを本気で信じているのですか?」

「わたくしが信じなくとも、民は信じます」

「国や民のためなら、人を騙しても構わないと…?」

「そ、そんな…」

「オリヴィン様は、渡しませんよ。お帰りください」


静かな睨み合いの後、ラナ王女は帰って行った。

ダワンはほっとため息をつくと、家の中に戻って行った。


* * *


オリヴィンは夢を見ていた。

エメラルドグリーンのドレスを着たジェイドと踊っている。

胸が高鳴って、翠の目の中に映る自分が見える。

踊っていると次に、自分が女になっていて、男になったジェイドと踊る…踊っているといつしか、船の上になっていて、船から空に飛び出す。高く飛んだと思ったら、急速に失速して堕ちた。

「ハッ!」

落下した感覚が生々しくて、目が覚めた。


いつの間にか、朝になっている。

昨日ジェイドに聞いた話のせいなのか、それとも本当の記憶を思い出しつつあるのかわからないけれど、かなりホッとして落ち着いたのは確かだ。


(俺には家族や友達がいて、大切な場所があり、大事にしたい人がいる)

そう思うととても安心できた。


「おはようオリィ」

「おはようジェイド。おはようございますデュモン卿、ホラン殿」

「うむ、少し元気になって来たな」

デュモン卿がホッとしたような顔をした。


(やっぱり、心配されていたんだ…)

「まずは食事にいたしましょう!」と、ホラン殿が言う。


「そういえばオリヴィン、お主の荷物持って来ておいたぞ」

デュモン卿がそう言って、部屋の隅に置かれているカバンを指差した。


「俺の荷物、ですか?」

デュモン卿は頷きながら、

「飛空艇に結んであったお前の荷物だ。あとでゆっくり見るがいい」

「ありがとうございます。そうします」


(『飛空艇』それに乗って俺たちはここに来たんだ。その途中雷にあって堕ちたと、昨日ジェイドが話してくれた)

そう思って、ジェイドの方を見ると、ジェイドと目が合った。


昨日のキスを思い出し、気まずく下を向くと、デュモン卿が

「今日ホラン殿とワシは飛空艇の修理に忙しいのでな、お主たちはまだ怪我人だから、大人しくここにいてくれ」

そう言われて、ちょっと嬉しくなる。

(ジェイドと一緒にいられる!)


食事の後、荷物を持って奥の部屋に移動する。松葉杖のジェイドを(かば)いながら、ジェイドを見て、ふと思う。

(いい匂いだな。嬉しいような、懐かしいような香り…)

昨日も思ったのだが、この香りが俺を、切ないような胸が苦しくなるような気持ちにさせるのだ。


部屋に入って、ジェイドを椅子にかけさせ、俺は自分の荷物を確認し始めた。


「魔石?」

覚えてはいないのだが、魔石や宝石を扱う生業だったのだから、魔石が出て来て当然なのだが…


「大丈夫、オリィなら。石を持ってみて」

ジェイドはそう言ってにっこりする。

そう言われて、石を一つ手に取った。

「わぁお!」

頭の中に水が沸く情景が浮かぶ。音も聞こえて来る。

「何が見えたの?」

「水が、透明な水が湧いて来るイメージ…」

「『湧水石(ゆうすいせき)』だね。オリィ、そのまま鏡を見て」

言われるまま鏡の方を見て、驚く。左目が金色のリングのように光っている。


「それが、オリィの魔眼だよ。とっても綺麗でしょ?」

オリヴィンは鏡の前に吸い寄せられて、自分の目をじっと見た。

(…なにか、思い出せそうな気がする…)


頭の中に断片的なイメージがフラッシュバックする。

月の光の下のジェイド、白い肌、海の傍で微笑むジェイド、俺を見上げる綺麗な翠色の目…俺は思い浮かんだイメージに、ちょっと恥ずかしくなった。


(…俺、ジェイドのことばかり思い出してる…)

オリヴィンはジェイドに近づくと、そっとジェイドを両腕に包み込むように抱いた。

「オ、オリィ…」

「ごめん。こうしていると、いろいろ思い出せそうなんだ…」

ジェイドは心臓のドキドキがいよいよ高まって、そっと目を瞑った。

オリィの暖かな胸、いい匂い、これはどこから?と思いつつ深く息を吸い込む。オリィに包まれていると、とても安心する。


コン、コン、コンとノックする音が聞こえて、二人は離れる。


「お邪魔かな?デュモン殿に、時々二人を見るよう言われたんで」

ホラン殿の息子ダワンだった。


ダワンは二人の赤い顔を見て、『やっぱり…』と思う。

大分(だいぶ)、いろいろ思い出したんじゃないの?」

「ウン、まあ…」

(とぼ)けちゃって、バレバレなんだけど…)

とダワンは心の中で思った。

(なんでこんな奴とラナ様は結婚しようとしてたんだ?)


バッグの中の荷物をいろいろ机の上に並べていたオリヴィンが、

『これは?』と手を止めた。

小さな木の箱の中に、何重にも布と紙が巻かれている。

ジェイドが気付き、

「それ!ダメです」

と制止した。


「どうして?…中身を知っているの?」

「はい…父がオリィに譲ったものです」

「…そうなんだ」

(まったく覚えていない…)

「とても貴重で、危険な魔石なのです。お譲りする時、『けっして使わないこと』を条件にお譲りしたはずです。

…なぜ、オリィがこれを持って旅に出ようと思ったかわかりませんが…」

ジェイドがこう説明すると、ダワンが聞いた。

「で、これってどんな石なの?」

「…言えません」

「僕が持ってもダメ?」

「ダメです。ダワンさんは魔石との共鳴力は高い方ですか?」

「そうだね。割と高いと思うよ」

「それなら、尚更です。この石は大きな災悪を招く可能性があります」

「じゃあなんでこんな石持って来たんだよ」

ジェイドとダワンの視線がオリヴィンに集中する。


(俺にもわかんないよ!マジ俺何考えてたんだ⁉︎)

「ゴメン…二人とも。覚えてなくて…」


気まずい沈黙を破ったのはダワンだった。

「『災悪』と言ったよね…それって、戦争よりも良くない状況ってこと?」


「あくまで“可能性”ですが…都を一つ滅ぼすくらいには。ですが…はっきりしたことは何も分からないのです。誰も使ったことがないので…」

ダワンはその危険な魔石について、一つ思い当たることがあった。

(まさか、それって…。こんな偶然があるのだろうか?)


「君たち、アジュラ教の聖典に書かれている予言の話は聞いたことがあるかな?」

「ああ、卿が言ってたあれ…『炎の(いかずち)持て…』っていうアレですか?」

「オリィが『火焔石(かえんせき)』の指輪をしてたから誤解されたのよね。それが?」

二人の顔が怪しいものを見る顔になる。


「そう、その続き知ってる?」

「確か、『金の龍を呼ぶ』とか…」オリィがそう言うと、

ジェイドの顔が『エッ⁉︎』という顔になった。


「僕も実は聞いたことがあるんだよね…『その石』のこと。

……『ドラゴンを呼ぶ魔石』なんだろう?」

ダワンの言葉に、ジェイドの動きが固まった。


「誰も使ったことがない筈さ。本当にドラゴンを呼んでしまったら、大変なことになっちまう」


「ジェイド、本当にこれは『ドラゴンを呼ぶ魔石』なのかな?」


(そうだとしたら、俺には何か予知能力でもあるのかもしれない…いやいや、そんな馬鹿なこと…)

オリィは一人そんなことを思いながら、ふと(ひらめ)いた。


「これ。ダワン君、君に預けたら役に立ててもらえるかな?」

オリヴィンは石の入った箱を、ダワンに差し出した。


「これを、僕に⁉︎」

「ここは君の国だろう?もし、使い道があるとしたら、おそらくここだ」



ダワンは考えた。今のゴルン王国の状況、隣国の侵略の脅威、そしてラナ王女…守るべきものが多すぎて、今の自分は力不足だ。しかし…


「君がいらないと言うのなら、俺はその辺に捨てていくが…」

「って!おいおい、冗談じゃねぇ!」


「じゃあ、決まりだね。この石が本当に『ドラゴンを呼ぶ魔石』かどうか分からないけれど、君に預けた」

そう言ってオリヴィンは、ダワンに箱を手渡した。


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