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37 嵐

 

 ひとときの休息の中で、オリィとジェイドはお互いの気持ちを確かめ合った。


 デュモン卿は、時々ジェイドとオリヴィンの視線が、前とは違う感じで交錯していることに気づいていたが、今は何も言わないでおく。


 三人で今後の予定を話し合った。

 ここから東方の島国への距離を考えると、この時期に出発したいこと。


『大陸の壁』と言われるヒマール山脈の、北の高原地帯を突っ切るのが最短ルートと考えられるということ、その先の異民族の国を南下し、小さな島を辿(たど)って極東の島国へ渡ることなどだ。


 出発を1週間後と決め、食料などの調達に励む。一ヶ月分を目安にしたが、それでも相当な量だ。

『湧水石』を鉱山で手に入れられたのは福音(ふくいん)だった。飛空艇に水を積まなくて良いと言うのは、かなり負担が軽くなる。


 卿はポラス殿に頼んで、細身の剣を手に入れてもらった。

 ジェイドにも短剣だけでなく、剣を持たせるためだ。

 先の盗賊襲撃事件がよほど(こた)えたのだろう。


 オリィはほんの数日だけだったが、ジェイドに剣を教えた。

ジェイドはまったく剣が使えないわけではなかったが、我流(がりゅう)だったため、動きに無駄があった。


 こうして人に教えてみると、改めて、自分に剣を教えてくれた学院の教師や兄が、的確に指導してくれていたのだと思う。


 出発の朝、俺たちはポラス殿の家族や使用人たちに見送られて、出発した。

「お気をつけて!」

「ご無事をお祈りしています!」

「帰ってきたら、今度は俺がお前の国に行くからな!」

 バイラムが目配せしながら言う。


「わかった、必ずな!」

「行ってきます!」


 こうして俺たち三人はまた、上空へと舞い上がった。


 家や町がどんどん小さくなり、海と陸がくっきりと分かれて低い雲の上に出た。そこから横移動だ。


 交代で操縦しながら、砂漠の上、緑の平地の上、山の上と俺たちは飛び続ける。夜はなるべく安全な場所を探して降りる。人間だけでなく、野生動物との遭遇(そうぐう)もできれば避けたいので、場所の選定が難しい。


 ある日は夜中から雨になり、冷たい雨が降りしきり、その日は一日テントの中で過ごした。高原を選んで飛んでいるので、かなり寒く、まばらに雪が混じる。

 夏といえども、高地は寒暖の差が激しい。


 また、飛んでいて一番怖いのは、雷だ。

 こればかりは予想がつかない。晴れていると思っても、突然雲が湧き起こり、横から雷が襲って来ることもある。


 2週間ほど過ぎたところで、“大陸の屋根”と言われるヒマール山脈が見えてきた。

 それは緑の絨毯(じゅうたん)から、いきなり立ち上がった屏風(びょうぶ)のように(そび)え立っている。

 まるで氷の巨大な塊のようだ。それが延々とどこまでも連なっているのだ。


 俺たちは予定通り、その氷壁の上を超え、北側の高現地帯を東に進路を取った。

 空気が薄く、とても寒い。

 飛空艇を操縦していても、眠気が襲って来る。


 デュモン卿と操縦を交代し、俺は操縦桿を握っていた。

 寒いので、体中に服を厚く(まと)ってマントを(かぶ)っている。

 床には毛皮を敷いて、昼食を終えたジェイドとデュモン卿が座っている。

 立って風を受けているだけで、消耗が激しい。

 ジェイドはウトウトしているようだ。


「飲むか?」

 とデュモン卿が温かいお茶の入ったカップを差し出してくれた。

「ありがとうございます」

 そう言って片手を差し出した瞬間だった。


 いきなり、横から雷が飛んできた。

 カリカリカリカリッ…!と雷の衝撃が走る。

 空気が震え、バリバリバリッと引き裂くような音がして、

 雷は飛空艇の翼を直撃し、バランスを崩した。


 直撃した右を上にして失速し、積んであった荷物や乗っている俺たちも墜落しながら浮かび上がる。

 咄嗟(とっさ)に俺はジェイドの腕をつかみ、そのまま空中に放り出された。


 地表付近は嵐になっていた。

 俺とジェイドは、横殴りの強風と雪が激しく降りしきりる雪の斜面の上に、すごい勢いで落ちて行った。


(もうこれで死ぬかもしれない…)

 そんな思いが頭を(かす)める。

(もしそうだとしても、この手は離さない…)


 ズダダダダダダダダダッ!ズッッシャーーーンッ!!!


 ものすごい落下の衝撃が来て、俺の意識はそこでプッツリと途絶えた。



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