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34 エスメラルダ鉱山

 

 夜中に起こされて見張りを交替する。

「何かあったら、すぐ起こしてね」とジェイドに言われて、

「わかった」と微笑んで返す。


 空がすごい!

 星の川、と言うんだろうか?

 小さな星々が川のような流れを作って、広い夜空を横断している。


 時々風が、自分の耳元を過ぎる音がするだけで、他は何も聞こえない。

 俺は、『自分が今ここにいる』と言うことがどれだけ恵まれていて、すごいことなのかと思う。

 そんなことを考えていると、何だか胸が熱くなって感動してしまった。


 明け方、乾いた茶色い山の向こうに太陽が登った。海の上から眺めた日の出も素晴らしかったが、これも今まで見たことがないくらい美しかった。

 この壮大な天地の営みに比べたら(いいや、比べようもないんだけど)、俺一人の存在は、なんてちっぽけなのだと思う。


 沸騰石で湯を沸かして、お茶を入れたところでジェイドとデュモン卿が起きて来た。

「おはよう、オリィ」

「おはよう、ジェイド」


(ああ、俺はこの人の顔を見るだけで幸せになれるんだな)

 そう思った。

 そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、

「いい朝だな」とデュモン卿。

「ええ、本当に」


 今日は更に少し行ったところの“エスメラルダ鉱山”を目指す。

 名前から察するに『エメラルド鉱山』だ。

 朝食を簡単にすませ、俺たちは飛空艇に乗り込んだ。


 茶色い岩肌の山脈沿いに進んでいくと、眼下に町が見えて来る。

 卿の話では、エメラルド採掘で栄えた町らしい。

 目立たぬように町の郊外の干木が少し生えている場所に降り立ち、木の枝を折って飛空艇を隠す。

 今日は俺が留守番だ。


「昼には帰る」そう言って、二人は町の方へ出かけて行った。

 この街には沢山の宝石を卸す業者がいて、そこで目的の石を探すのだ。

 自分で石を掘るよりも、ずっと効率がいい。


 小一時間ほどのんびりしていると、商人の隊商がやって来るのが見えた。

 俺は飛空艇から少し離れた場所で、のんびりお茶を飲んでいた。

 あまり飛空艇に近いと、かえって興味を引いてしまうのではないかと思ったからだ。


 商人らしき男が幌の付いた荷馬車から降りて来て来て、俺の方に近づいて来る。腰に下げた剣にいつでも手をかけられるようにして、俺も男に近付いていく。


 現地語で挨拶すると、向こうも挨拶を返して来た。そして、俺の顔を見たその男が、話しかけて来た。


「もしかして!言葉が通じますか?」とその男。

「はい、わかりますよ」

 ディヤマンド王国とその周辺の国は、だいたい言語の文法が似ている。

発音もその語尾などが少し違うだけなので、聞き取れた。


「はぁ〜、ここに来てこの言葉が通じるとは、嬉しいもんです」

「どちらから来られたのですか?」

 と俺が尋ねると、

「わたくし、モルガニアから参りました、アラバンドと申します」

「そうですか、私はディヤマンドからです」


「警戒してらっしゃいますよね、無理も無い…よろしいですよ、名乗らずとも」

「すみません…」

「いやいや、お優しい方のようだ。私はこれからエスメラルダに石を買いに行くところなのです」

「そうですか」

「つかぬことをお伺いしますが、『湧水石』という魔石のことをご存知ないでしょうか?」


『湧水石』昨日の鉱山で買い付けた石の一つがそれだったな、と心の中で思ったが、言わないでおくことにした。


「そのような石のことは聞いたことはありますが、見たことはないですね。でも、町に行けば手に入るかもしれませんよ」

 俺はすげ無くそう言って、会話を打ち切った。


「そうですか、それでは行ってみます。ありがとうございました」

 モルガニアの商人は町の方へと立ち去って行った。


 俺は高くなった太陽と、腕に嵌めている『時告石』を見比べて、

 ジェイド達の帰りを待つ。

 砂漠への旅で殆どの魔道具を無くしてしまったのだが、このジェイドにもらった『時告石』だけは何故か置いて行ったのだ。

(よかった、無くさなくて…)


 そうしているうち二人が戻って来る。

 昼食は、ジェイドが町の屋台で買って来てくれた、変わった形のパンで済ます。

 中に色々な乾燥果実や砕いた木の実を練り込んで棒状に巻き、とぐろを巻いた蛇のように巻いて焼き上げたパンだった。

「うまいね、コレ!」と俺が言うと、

「そうでしょう⁉︎」とジェイドがにっこりする。


「午後は約束を取り付けたから、お前達二人でエメラルド鉱山を見て来い」

 と卿が言ってくれて、俺はジェイドと二人で出かけて行った。


 町から山に繋がる道を登っていくと、木材で組まれた門が見えて来た。

 両脇には、現地の傭兵らしき男が見張りをしている。

 ジェイドはその一人に現地語で何やら言い、ポケットから出した書状を見せた。

 門をくぐり、後ろで扉が閉まると、別の男が傍にある監視小屋から

 出て来て、案内をしてくれると言う。

 そこで腰に下げていた剣を預ける。武器は持って入れないようだ。


 茶色の岩壁には、何箇所も人がすれ違うのがやっとなくらいの穴が空いていて、それが坑道の入り口だった。

 今作業中の坑道は見せられないので、最近まで使っていた坑道を見せてくれると言う。

 ランタンを渡され、案内に付いて入って行く。中に入ると、狭いところあり、広いところあり、枝分かれしたところあり奥まで続いている。

 一番奥まで行って、周りを見渡す。

 赤褐色の岩石の中に、白い鉱物の帯がまだ残っている。エメラルドはこの白い鉱物の中に混じって出て来るのだ。もう取り尽くされてはいるが、小さなものならまだ、見つかるかもしれない。


 戻り道、俺は左目が反応する感じがした。

 ジェイドも同じところを見ている。

 案内人を呼び止めて、ちょっとそこに埋まっている石を見たい、とジェイドに言ってもらった。

 案内人がのみを貸してくれて、ジェイドがそれを掘り出す。

 黒い魔石だった。

「もらってもいいか」と聞くと、

「そんなものなら、石捨て場にいくらでも転がってる」と言われ、

 ジェイドと顔を見合わせた。


「拾ったら帰ってくれ」

 と石捨て場に案内してくれた男は、監視小屋に帰って行った。


 ジェイドと俺は、その石捨て場で嬉々として魔石を拾い集めた。


 両手いっぱいの魔石を手に、監視小屋で剣を返してもらうと、お礼を言って帰る。

「エメラルド以外はどうでもいいみたいですね」とジェイド。

「こんなにたくさん、面白い石があるなんて、思っても見なかったね」

 俺もホクホク顔で、卿の所に戻った。


 デュモン卿は、俺たちが嬉しそうに魔石をたくさん持って帰って来たのに驚いたようだった。


「ふむ、色々あるな…湧水石、火焔石、スコロ石、これは…黒鉱か?」

「そのようです。良かったです、エメラルドはありませんでしたが」

「そんなのあったら、取り上げられちゃうよ!」

 三人でそんなことを話しながら、今日のキャンプ場所を探して、また飛空艇に乗り込んだ。


 卿が注文した石は明日また、町の魔石商の所に取りに行く予定らしい。

 俺たちはまた、昨日のように、見晴らしの良い人家のない場所を見つけて、テントを張った。


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