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28 旅の冒険者

 

 その日、港町バロウから出航したタルク国の港キノ行きの船に、一人の若い男が乗っていた。

 男はまだ二十歳そこそこで、茶色い髪、茶色の瞳の特段目立つところのない冒険者だった。

 金のない若い冒険者の常で、大きな船の最下層の狭い三等客室で寝泊まりしている。


 男は三等船客用の食堂(ギャレー)の片隅で静かに食事をしていた。

 中央の席に陣取った人相の悪い男たちが、サイコロを振って賭け事に(きょう)じている。

 若い冒険者は静かに食事を終えると、席を立とうとした。

 すると人相の悪い男の一人が声を掛けた。

「おい兄ちゃん、俺たちと勝負しようぜ」


「あいにく貧乏な冒険者なので、手持ちがありません。失礼します」

 そう素気無(そっけな)く言って、その場を立ち去ろうとしたが、

 相手の男はしつこく持ちかけて来る。


「そう言うなよ。同じ船に乗り合わせた旅の縁ってもんだろ。一回だけ付き合えよ」

「賭ける物がないので…」

「その胸に着けてるヤツでいいぜ。まあ、座れって」

「しつこいですね…」


 その時、隣で声を上げた者がいた。

「あんたたちっ、しつこいわよ!」

 真っ赤な髪に、水色の目をしたキツイ感じの美女がこっちに向き直って、男たちを制する。

 革鎧(かわよろい)を着けているところからすると、冒険者なのだろうか?


「なぁんだと〜?オイ、姉ちゃん。あんたがこの兄ちゃんの代わりに俺たちと付き合ってくれるのかい?」

「冗談も休み休み言えってのっ!だぁれがあんたたちなんかと付き合うか!」

「なにぃ〜⁉︎このアマ、ふざけやがって!」


 三人の男が立ち上がる、が(つか)み掛かろうとした腕を引かれねじり上げられて、その勢いのまま、後ろに投げ捨てられた。

 二人目は喉元にチョップを喰らい、ゲホゲホ言ってうずくまった。(ひる)んだ三人目は、

「お、覚えてろっ」

 とお決まりのセリフを吐きながら、仲間を抱えて逃げて行った。


「すみません、ありがとうございます」

「いいってこと。どこに行ってもああいう輩はいるからね。

 ところで、あんたどこまで行くんだい?」

「キノまで。知り合いを訪ねるんです」

「奇遇だな、あたしもさ。セレスティンて言うんだ、よろしくな。セレさんでいいよ」

「そうですか!俺、オリヴィンっていいます。オリィって呼んでください」


「そっか、オリィね。…ところでさ、あんた魔法のニオイがプンプンするんだけど?」

「エッ、においでわかるんですか?」

「ああ、あたしの特技(とくいわざ)なんだ。魔法とか、魔石とか、においでわかるんだよね」

「そ、それはすごいですね…すみません、ここではお見せできないので、ちょっと来てもらってもいいですか?」

「ああいいよ。変な事しようとしても、あたしには通用しないってわかってるだろ」

「そうですね、わかってます…」

 オリィは簡単に魔法を見破ったセレさんに、本当の姿を見せることにした。


 食堂ギャレーを出て、狭い通路の行き止まりまで行ったところで、『変身ブローチ』をはずした。


「おぉ、すごいな。あんたなかなかのイケメンじゃないか。そもそも、なんで顔を変えているんだ?」

 “イケメン”と言われてちょっと嬉しかったが、そこはグッと堪えて、


「実はこの船に知り合いが乗っていまして、俺とバレないために顔を変えてます」

「なんで知り合いなのにバレるのがまずいんだよ?なんか、ヤバいことでもしたのか?」

「いや、別にそう言うわけでは…俺とバレたら送り返されるかもしれないんで…」

 “ああ、なるほどね”という顔をされ、

「見たところ、いいとこのお坊ちゃんだろ?」


(え、なんで、やっぱりわかっちゃいます?)

『顔を変えてても、滲み出てる、その感じ』って言われて、俺かなり傷つきました…


「で、その知り合いって、どんな人なんだい?」

 とセレさんが突っ込んでくるので、

「有名な魔石ハンターのデュモンさんです」

 と白状してしまった。

 その途端、セレさんの目がキラキラ輝き出して、

「あ、あの有名な魔石ハンター、ユーレックス・デュモンっ⁉︎」

 って興奮気味に食らいついて来た。


「知ってるんですか?」

 と問うと、

「知ってるも何も、数々の伝説を作った冒険者で魔石ハンター!

 冒険者のアコガレっ‼︎」

 と絶叫して、あれ、これってマズイ展開かも…と後悔するも、

「お願い!さっき出会ったばっかで悪いんだけど、あ・わ・せ・て!」

 とお願いされてしまった…

 俺が思ってたより、超大物なんですね、デュモン卿。


 * * *


 実を言うと、乗船した時から俺の目はジェイドとデュモン卿を(とら)えていた。

 ジェイドがデッキの上で、見送り客を眺めているのを見ていた。

 もしかして、俺を探してくれているんじゃないか、って。


 一刻も早く、“ここにいる”って言いたかったけれど、

『俺も一緒に連れてってください』なんて言ったら、即送り返されるんじゃないかと思って。

 送り返すことも出来ないくらい遠くに行ってから、名乗り出ようと思ってしまった。


 でも、ここに来て『名乗り出る理由』を得てしまった。

 何より、ジェイドの顔が見たい…


「わかりました。紹介します!」

 大きく被りを振って、セレさんに言った。

「だけど、もう少し待ってください。次の港ラピスを出てからにしましょう」


 * * *


 船はバロウを出てから、大陸から突き出た半島を回り込むように南下して行く。

 深い藍色を(たた)えていた海は徐々に、明るい青色ブルーへと変わる。

ジェイド少年はこんな変化を楽しみながら、甲板で風を感じていた。

 風にも少し南の暖かさが混じって来て、少しずつ旅のワクワク感を取り戻していた。


「……?」

(あれ?まただ…)

 気のせいかもしれないが、時々視線を感じるような気がするのだ。


「いい風だね」

 不意に女の声で話しかけられた。

 横に真っ赤な長い髪の女の人が立っていた。着込んだ革鎧に年季が入っているところから、手練(てだれ)の冒険者と言った感じか?

 警戒しつつ、当たり障りなく

「そうですね」

 と返事をしておく。


「あたしはディヤマンド王国の出身なんだけどさ、たまには親の顔でも見に行くかって戻ったんだけど、退屈でさ〜。また旅に戻るってわけ」

「そうなんですか…」

「あんた、一人旅じゃないんだろ?」

「はい、違います」

「珍しい黒髪だ。どこの出身なんだい」

「…知らないんです。憶えてなくて…」

「ふーん、そっか。あたしね、セレスティンって言うんだ。よろしくね」

「ジェイド、です」


『まあ、旅はまだ長いから、またね』と手を振ってそのひとは去って行った。



 船がだんだん陸地に近づいて行く。もうすぐ、最初の寄港地ラピスだ。


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