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99 騒動

 オリィとジェイドが出かけた(あと)の宿で、デュマおばさんが口火を切った。


「どうやら、ちょっとした騒ぎがあったようだよ。表向きは誤って花火を運ぶ馬車に、別の馬車が突っ込んだなんて言ってるが、乗っていたのは明らかに統率の取れた集団だったそうだ。しかも、大量の花火が盗まれたんだとさ」

「花火……ですか?」

「花火とはいえ、火薬だ。それも大量となると……何かの陰謀を疑わざるをえんな」

 聞いていたデュモン卿もポラス殿も顔を見合わせて、眉を顰める。


「ああ、そうだろう? しかもこれだけの警備の目をどうやって潜り抜けたものか……」

「次はどこかが狙われても、不思議ではありませんね……」

「まったく、めでたい祝いの最中だと言うのに、不届な者たちがいたものだ」


 その頃、オリィとジェイドは露店巡りを楽しんでいた。

 変身石を売っている屋台で、日頃なら絶対にやらない色合いの変身石のブレスレットを買った。

 ジェイドは『金髪+金色の目』に、オリィは『ピンクの髪+赤い目』に変装した。


「やだぁ、オリィったら! ぜんっぜん別の人みたい!」

「ジェイドだっていつもと全然違うだろ~!」

 お互いを見て大笑いする。


「あっちでなんか食べよう!」

「あ、待ってオリィ!」

 ジェイドがオリィを追いかけて、屋台の間を走っていく。


 ジュージューと音を立てて、名物の串焼(ケバブ)きのいい匂いがする。焼き上がった薄切り肉を薄い小麦粉のクレープで包んで、好きなトッピングをする。仕上げに幾つかのスパイスをかけて、バナナの葉でくるりと包む。

「それ二つください」

 オリィが屋台のおじさんに声をかけた。

「はいよ、トッピングはどうする?」

「私は甘いソースでお願いします」

「俺は辛いやつで」

「毎度あり。お代は二つで十二シクルだけど、お祝い価格だ。十シクルに負けとくよ」

「おじさん、ありがとう!」


 二人で頬張りながら、どこか座るところがないか、ベンチを探す。

 広場の端に、たくさんのテーブルと椅子が置かれた休憩所が用意されている。

 座ってしばし、二人だけの時間を堪能(たんのう)した。

 こんなふうに、相手の顔だけを眺めながら過ごすのは久しぶりだ。


 デザートに甘い蒸し菓子と、ミルクで淹れた紅茶をいただいて、お互いに満足そうな顔を見合わす。

(もっと、こんな時間がたくさん過ごせたらいいのに……)

 ふたりは心の中でひっそりと同じことを思っていた。


 夕方遅くにジェマさんの宿に戻る。

 広場には明るい照明石のランタンが灯り、夜になったと言うのに賑やかなことこの上ない。人々はお祭り気分でいつまでも騒いでいる。

 今日はここに泊まっていくことになったみたいだ。ポラス殿はいろいろと付き合いがあるのだろう、デュモン卿と酒を()み交わした後、馬車を呼んで帰って行った。


 夕食後は延々と、ジェマおばさんと若き頃のデュモン卿の冒険譚(ぼうけんたん)を聞かせてもらった。デュモン卿は十二で冒険者になるべく家を出たらしい。

 十二才……そんな若い頃……まだ子供じゃないか。何か事情があったのだろうか?

 その話はおいおい聞いてみよう……


 夜中、夢の中で何かが爆発したような乾いた音を聞いた気がする。だが、夢の中のことだ……昼間のジェイドの笑顔を思い出し、ニンマリしながら深い眠りに落ちていった。


 翌朝目を覚ますと、何だか外が騒がしい。祭りの喧騒(けんそう)とも違う緊迫感が混じっている気がして起き上がった。窓の外を見ると、人々が川の方へ向かって急いでいる。

 今日は何か『河での催事』でもあるのかと、ぼんやり眺める。


 着替えて食堂に降りて行くと、デュモン卿とジェイドがもう朝のお茶を飲んでいた。

「おはようございます。今日は何か河で催事でもあるんですか?」

 と尋ねた。

「おはよう、オリィ。昨日の夜はよく眠れた?」

 ジェイドが明るく(こた)えてくれた。

「あの音が聞こえんくらい、よく寝ていたんだろう」

 デュモン卿が隣でボソリと(つぶや)く。

「父さん、そんな言い方ないでしょう!」

「え、何かあったんですか?」


 夜中に聞いた音は、夢ではなかったらしい。

 大河に浮かぶスリ・ロータスの船の上で夜中突然、花火が暴発した。船には当直の航海士が乗っていただけで、怪我人もなく船の一部が損傷しただけだったらしいが、王城から兵士が駆けつけ、野次馬が詰めかけるなど、(いまだ)だ混乱しているそうだ。王城も警備体制を強化しているらしい。


「王城へ戻るのはしばらく様子を見た方がいいかもしれないわね」

 その通りだろう。まあ、ここにいれば行事に関係なくのんびりできるので、いいかもしれない。セレさんとヘリオスのことが心配ではあるが……

 ゆっくり朝食を取っていると、入り口の呼び鈴が鳴り、ジェマおばさんが対応に出て行った。帰って来ると、何やら手に白い封筒のようなものを持っている。


「あんたたちに手紙みたいだよ」

 おばさんが、デュモン卿にその封筒を手渡した。


 封蝋(ふうろう)には、いつもヘリオスが指に着けている指輪の紋章が押されている。

「ヘリオス殿下からのようだな……」

 デュモン卿はジェイドとオリィにも見えるように、手紙をテーブルの上に開いた。手紙にはこんなことが書かれていた。


 前略

 火急の件により、礼儀を失するのを許して欲しい。


 昨晩、聖なる河に繋がれた我が国の船が、何者かによって爆破された。

 被害の規模は大きいものではなかったが、使われた火薬は昨日街中で起こった花火強奪事件で奪われたものだ。

 問題はそれだけではない。実はその船の事件の裏で、別の場所である施設の破壊と盗難事件が起きた。

 取り急ぎ、デュモン卿とオリィは迎えの馬車を差し向けるので、それに乗って来て欲しい。行き先は彼らに伝えてある。

 またこれはジェイド嬢にお願いなのだが、宮殿でセレに付き添ってもらえないだろうか? 別の馬車を迎えにやろう。


 用件のみですまないが、よろしく頼む。


                               草々(そうそう)


 ヘリオス・ベリル


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