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4.穏やかで献身的な優しい彼の愛情表現も歪んでいる

 そして6年経った今、初めてアリアへの同情心が芽生えてしまった時と同じ状況で泣き出した婚約者をエリオスは、労わるように宥めている……。


「アリア……。お願いだから、そんな悲しそうに泣かないで……。大丈夫だよ? 僕が君を嫌いになる事は絶対にないから。もし君が許してくれるなら、僕はずっと君の側にいさせてもらいたいと思っているのだから……」


 エリオスは、目の前で泣き崩れているアリアの頭をまるで一等大切な宝物を扱うかのように何度も優しく撫でつける。

 しかし、労わるようにアリアの頭を撫で続けるエリオスの慈愛に満ちた笑みには、どこか恍惚とした印象を含んでいた。


 この6年間、エリオスはアリアに対して同情心を抱くだけでなく、矛盾した行動をしてしまった挙句、嫌われたくないという思いから必死で自分を繋ぎとめようとしてくるアリアの難解すぎる愛情表現を受け続けた結果、アリアに対して過剰な程の庇護欲を抱くようになってしまっていた。


 しかし、必死で自分を繋ぎとめようとするアリアのその行動は、エリオスの庇護欲をそそるだけではなく、別の感情も抱かせてしまう。

 それが優越感であり、その優越感はアリアに対しての主導権がエリオスにあるという事を気付かせてしまったのだ……。


 天使のような見た目の愛らしい少女は、エリオスの一言一動で顔を赤らめたり、この世の終わりのような表情になったり、その表情を面白いくらいにクルクルと変える。

 数秒前まで自分に対して傲慢な態度でいたその愛らしい天使のような少女が、エリオスの発した、たった一言でこんなにも絶望的な様子で泣き縋ってくる状況は、エリオスに甘く中毒性のある恍惚感を覚えさせてしまったのだ……。


 特に今目の前で、自分との面会機会が減る事に恐怖とショックを受け、必死でその辛さを泣きながら訴えてくるアリアの様子は、エリオスに堪らない程の優越感を与え、これでもかというくらいに自尊心を満たしてくれる。


 その中毒性の高い優越感を得る為にこの6年間、エリオスは常にアリアに対して献身的な姿勢を取るふりをしながら、アリアの不安を煽るような言動を繰り返していたのだ。


 そのエリオスの策略にアリアは面白い程引っ掛かり、毎回面会開始時のアリアは前半に目立っていた傲慢な態度が、後半にはまるで捨てられた子猫のような不安そうな瞳で、必死にエリオスの顔色を窺うような態度に変化する。


 そんな不安で押しつぶされそうな状態に追い込まれたアリアを、その張本人であるエリオスが全力で労わり、慰め、そして甘やかしながら宥めすかすのだ。

 そうやってアリアが抱く自分への依存性を更に高める行為をエリオスはこの6年間、嬉々として行っていた。


 自分に過度に依存し、距離を取られそうになっただけで大粒の涙を流す程、悲しみながら絶望してくれる天使のように美しい少女。

 その堪らない程の魅惑的なアリアとの関係性は、エリオスの心を歪んだ方向で大きく満たしていく……。


 そんな哀れなアリアだが、何故初対面の頃からエリオスに対して、絶大な好意と執着に抱いたのか……。

 婚約をしてからのしばらくの間は、その事がエリオスにとって謎だったのだが、それは10歳の頃に二人で参加した子供メインのお茶会の時に解明される。


 今現在ではエリオス以外の人間に対しては、分別ある淑女としてふさわしい社交マナーを披露し、その美しい容姿も手伝って、社交界では注目視されているアリアだが……。

 幼少期の頃は、誰に対しても傲慢で生意気な態度を取っていた為、同世代の令息令嬢からは避けられていたのだ。


 そんなアリアの婚約者は、同じ年齢であるのに落ち着いた雰囲気をまとった大人の対応が出来る穏やかな印象が強いエリオスだった。

 自身が生意気な事を言っても滅多に怒らず、困った笑みを浮かべながら受け流してくれる。

 構って欲しくて騒げば、優しく宥め、甘やかしてくれる。

 初の顔合わせの時にエリオスのその部分を見出したアリアは、その一瞬で絶大な信頼感をエリオスに抱き、そして執着するようになってしまったのだろう。


 その当時は、そんなアリアの存在に心底嫌悪感を抱いていたエリオスだったが、今ではそんなアリアが一等愛おしい存在となってしまっている。

 だが、そのアリアに対するエリオスの愛情は、世間一般で認識されている甘く、とろけるような甘酸っぱい恋愛感情とは、程遠い物だった……。


 エリオスがアリアに抱く愛情は、ドロリとした粘着性のある重く、どす黒い愛情だ。そのどす黒い愛情は、アリアを完膚なきまでに自分に溺れさせ、自分がいないと何も出来ない存在にアリアを仕立て上げたいという欲望を促してくる。


 今回、敢えてアリアの事を号泣させるまで追い込んだのも、来年から本格的な社交の場へ二人が参加する事を懸念しての事だった。今まで参加していた若者向けの社交場とは違い、今後参加しなければならない夜会等では、打算的な駆け引きと策略、そして人生を崩壊させるかもしれない程の甘い誘惑が渦巻く場所でもある。


 そんな野心渦巻く社交場では、アリアのように不器用な程一途過ぎるタイプは、すぐにいい様に利用されてしまう。ましてや人目を引く華やかな彼女の容姿は、色欲を孕んだ輩にも目を付けられやすい……。そんな状況にアリアが晒される事は、エリオスにとって我慢ならない程の耐えがたい状況なのだ。


 『ならば、もう自分以外の人間には目もくれない程、自分に依存させ、どっぷりと溺れさせてしまえばいい』


 年を重ねるごとにエリオスのアリアに対する庇護欲は、重苦しい程の独占欲に変わってしまっていたのだ……。


 そしてその対象であるアリアは、そんなどす黒い愛情をエリオスに抱かれている事に全く気付いていない。それどころか、この6年間で自分はエリオスに良く思われていないと誘導的にエリオスに思い込まされていたのだ。


 そんなエリオスは、『アリアに不快な思いをさせないように』と献身的な接し方をする体で、敢えてアリアと距離を取ろうとする素振りを繰り返した。

 そうやって何度もアリアに自分への執着心を確認させる事で、更に自分への依存性を高めさせていったのだ。


 恐らく自身の愛情の注ぎ方は、アリアの難解な愛情表現とは比べものにならない程、歪んでいるのだろうとエリオス自身も自覚している。

 だが、アリアに抱くこのどす黒い愛情は、エリオス自身でも歯止めが利かなくなる程大きく育ちし過ぎてしまったのだ。

 その結果、婚約期間中はこうやって何度も何度もアリアの不安を煽っては、自分への依存性を高めるような行為をし続けてしまうだろう……。


 だが、本当に問題視しなければならないのは婚約期間が終わり、アリアと夫婦になってからなのだ……。アリアを法的に自分の物にしてしまったエリオスは、今以上にアリアに対する愛情の注ぎ方が歪む事は確実だ。


 今は精神的な部分でアリアが抱く自身への依存性を高めようとしているエリオス。

 しかし将来的に妻となったアリアは、合法的にエリオスが満足するまで貪ってもいい存在へと変化してしまう。

 そんな近々訪れるであろう未来の事を思うと、今目の前で不安に駆られ、必死で自分を繋ぎとめようとしている婚約者が、エリオスには一層愛おしく感じられた。


 今は精神的な追い込みで自分への依存性を高める事しか出来ない状態だが、夫婦になればドロドロに甘やかして、精神的どころか肉体的にも自分に溺れさせてしまえばいい。


 盲目的に自分に好意を向け、執着してくる天使のような容姿の一途で不器用で意地らしいアリア。

 そんなアリアは、自分が抱くエリオスへの愛情が重く歪んだものだと思い、いつかエリオスに見捨てられてしまうのではと常に怯えている……。


 だが、アリアが愛情を抱くエリオスは、アリア以上に重く歪んだどす黒い愛情をアリアに対して抱いている事を彼女は、まだ知らない……。


「アリア……。もう泣かないで?」


 テーブルに突っ伏して泣きじゃくるアリアの隣にしゃがみ込んだエリオスは下からアリアの両腕を取り、身体を起こさせてから、自分の方へと抱き寄せる。

 すると、6年前と同じようにアリアがエリオスの身体に腕を廻し、しがみ付いてきた。そんなアリアの背中を宥めるように撫でながら、エリオスは優しく深くアリアを抱きしめる。


「僕にとって君は一等愛おしい存在なんだ……。だから僕が君を嫌っているだなんて、そんな悲しくなる事を言わないで?」


 エリオスの心からの言葉であっても、それは今のアリアには本心だとは伝わらない……。6年間、不安を煽られ、エリオスへの依存性を高められたアリアは、今この瞬間に極上な程甘やかしてくれるエリオスの接し方でしか、不安を静められない状態にされてしまったからだ。


 そんなアリアの状態を知りつつも、エリオスは尚も婚約期間中はアリアの不安を煽る接し方をし続けるつもりだ。

 婚約期間中は飴と鞭を交互に使い分けて自分への依存性を高め、夫婦となってからは飴のみを与えドロドロになるまでアリアを自分へ溺れさせる。


 そんなエリオスは6年前に自分を妄信的に求めてくるアリアの虜になってしまった事には、気付いていない。いつの間にか庇護対象だったアリアが、最愛な存在になってしまっただけという認識なのだ。


 それでも自身が抱くアリアに対する愛情が異常なものだと自覚しているエリオスは、腕の中に閉じ込めたアリアを洗脳するかのように耳元で優しく囁く。


「アリア……。大好きだよ」


 そう囁かれたアリアの方は、その言葉が政略的に結ばれた婚約者に対する社交辞令的な意味合いとしてでしか受け止められていない。

 たとえその言葉には、アリアが抱く愛情とは比べものにならない程の重い愛情が込められていたとしても、その事をアリアが知るのは二人が正式に結婚した後だ。


 その状況をエリオスは、故意に作っている。

 アリアがエリオスの愛情の異常な重さに気が付いた時……もうその時には、アリアはエリオス無しで生きられない程、身も心もエリオスに依存しているだろう。


 そんな近い未来を想像したエリオスは、今日も穏やかで優しい笑みを浮かべながら、我が儘令嬢と言われる最愛の婚約者を献身的に宥め、彼女の依存性を煽るように自分へと深く溺れさせていく。

これにて『穏やかで献身的な優しい毒』は完結になります。

初めは迷惑レベルなツンデレヒロインの話が書きたいと思って書き始めたお話ですが……。

そうなるとヒーローの方もそれなりに歪んだ愛情を抱くか、あるいは規格外の慈愛精神に満ちたでっかい心の器がないと受け止めきれないなーという考えになってしまいまして……。


そんな感じで考えていたら、何故か歪んだ愛情の方での展開が頭に浮かんできてしまい、結果とんでもないヤンデレヒーローが爆誕してしまいました……。

しかも書き手の作者でも、かなりドン引くレベルで。(笑)


なのでなろうの方だと、地雷になる読者様が多すぎる気がして、アルファポリスさんでしか投稿してなかったのですが……。

しっかりタグ付けして、冒頭に注意書きすれば大丈夫かなーと思い、こちらでも公開してみました。

恐らく二人に関しては、色々と考察ご意見あるかと思いますが……。

かなり好みが別れやすい作品だと思いますので、仕方ないかなーとは思っております。


それでも合わない人には本当に地雷の作品になるかと思います。

ですが、タグおよび冒頭にしっかり注意書きしているので、もし読まれて気分を害されてもそれは自己責任でお願いいたします。(^^;)


そんな賛否両論になりやすい作品でしたが、最後までお付き合い頂き、ありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 破れ鍋に綴じ蓋のカップル、良かったです。 アリアがエリオスに依存させられて駄目になりそうな所も、そもそもエリオスが腹黒ヤンデレになってしまったのも、全部アリアとその親の自業自得なので、幸せ…
[一言] 最高です。(性癖) これぞよきヤンデレ×ツンデレ。 モラハラ気味ツンデレは、相手に愛情をわかられていてナンボであり、腹黒ヤンデレはわからせなくて(最終的に色々わからせてw)ナンボだと思います…
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