見舞い
翌日になっても、王女は戻らない。宮廷でも一部の人間だけが知っていた王女の失踪は、誰かがもらしたようで、なんと新聞に載ってしまった。それも、失踪直前にヴァルムが王女を怒らせたこと、王女が豊穣祭の最後のパーティという場でとりみだして暴れたことまで書いてある。
レヴィとヘーリエンテスは薬院を訪れ、頭に包帯をまいているヴァルムを見舞った。
「ばかをしたな」
人払いをしてから云うと、ヴァルム、それにヴァルムと片時も離れないというオーシェニが、首をすくめた。ヘーリエンテスがオーシェニの腰に腕をまわし、妹の頬を優しくつねる。「おばかさん。どうしてあんなことをしたの?」
オーシェニは答えず、項垂れた。レヴィの目には、オーシェニは陰気で、気弱で、おとなしい娘だとうつっている。だが、ヘーリエンテスに云わせると、本来のオーシェニはそういう娘ではないらしい。王都に来てからこちら、元気がないそうだ。社交界が好きではないのかもしれない。
今、彼女が黙っているのは、意味がわかる。騒動がここまで大きくなると思わなかったのだろう。王女が居れば、幾ら婚約者を奪われたとはいえ扇が壊れるほど叩かれた娘に同情する向きはあったろうが、実際のところ王女は居なくなった。ヴァルムとのことがショックで自ら姿を消したのでは、と思われている。ヴァルムとオーシェニは、これで一方的な悪人になってしまった。
姉妹は外で、少し歩いてくるそうだ。侍女達にきちんとみているようにいいつけてからふたりを送り出し、レヴィはヴァルムへ向き直る。
「なにか申し立ては?」
「ないよ」
ヴァルムは声を掠れさせていた。「俺はばかをした」
「わかっているのならまだ救いようがあるな。だが、バラはどうなる? 彼女はシュタインと結婚することになるかもしれないぞ。あいつのダンスを見たことがあるか? 酷いものだ」
「そうでもない」
おや、と、レヴィは意外に思う。こいつはシュタインを評価しているのか? それとも単に、自分が王女に与えた損害がたいしたものではないと思いたくて、いいわけをしているのだろうか。
ヴァルムは煩わしげに包帯へ触れた。「俺よりもここに寝ているべき人間が居ると云うのにな」