涙のお茶会
宮廷のなかには、高位の貴族達が滞在する為の部屋もある。レヴィは侯爵令息だし、将来父の跡を継いで軍のトップになることはほとんど決まっているので、その区画をつかってよかった。
王女やヴァルム、それに悪名高いトート、それからトートとは正反対にいい噂しか聴かない朴念仁の若い侯爵・エアストとも親しいので、誰も文句はいわない。ヘーリエンテスも、王女のお気にいりということで、宮廷に入り浸っていても誰もなにも云わなかった。
「じゃあ、こっちにこれを足して、こっちはこうして……レヴィさまはお砂糖たっぷりね」
「かしこまりました、お嬢さま」
侍女が微笑みでお茶の準備を始めた。ヘーリエンテスはにっこりし、礼を云う。ふくふくした頬が愛らしくて、レヴィはそれに触れたくなったが、自重した。
オストは肩を落とし、椅子に腰掛けている。王女の背の高さがわかりにくいようにと、体格のいいご婦人達が付き添いに選ばれたので、オストもなかなかに背が高い。レヴィよりも大きいかもしれなかった。
「オストさまは?」
「はい?」
「お砂糖とミルクと……レモンもありますけれど」
「あ、それじゃあ、レモンをたっぷり……我が領の特産で、飲み慣れてるんです」
オストはもごもごと云い、溜め息を吐いた。
侍女がお茶を用意し、テーブルを離れる。オストはレモンティを飲んで、砂糖のかかったクッキーをかじると、唐突に泣きはじめた。
ヘーリエンテスが侍女に手を振り、手巾を用意させる。オストはそれをうけとり、慎み深く泣くのをこらえようと頑張った。が、無理だったらしく、えぐえぐと泣いている。
「殿下、どれだけお悔しかったでしょう。ずっとご一緒だったヴァルムさまに裏切られて、あんな女……あ、ごめんなさい、ヘーリエンテスさまの前でこんなこと」
「ううん、わたしもそう思います」ヘーリエンテスは目を伏せて頭を振る。「オーシェニ、どうしてあんな愚かなことをしたのかしら。ずっと考えているけれどわからないの。わたし、てっきり、あの子はトートさまを好きなのだと思っていたから」
レヴィは婚約者の手をとり、肩を軽く叩いた。オストは小さく音をたててはなをかみ、お茶を飲む。
「……姉であるヘーリエンテスさまに、なにか相談はなかったんですか?」
「なんにも」
ヘーリエンテスは頭を振り、レヴィを見た。レヴィはオストを見る。
「俺もなにも聴いていない。オーシェニはこのところ、着飾ってトートとでかけていたから、俺もトートと一緒になるのだと思っていた。トートはそろそろ身を固めるべきだと思っていたし、オーシェニならあの難物相手でもうまくやっていけるだろうと……」