すべてはあるべきところへ
王女は宮廷へ戻った。元気になったトートと、秘密裏に結婚してからだ。そうまでされては陛下も反対はできず、また期待していたシュタインが王女との婚約を断固拒否したので、トートを認めた。ただし、結婚については、きちんとした式典を行うとのことで、ふたりの婚約が発表されたのみだ。
ヴァルムとオーシェニは正式に婚約し、ヴァルムは辺境伯家へ将来婿入りすると決まった。ふたりとも社交界にたいした未練はないので、例の騒動についても特に弁明はしない。
オーシェニはヘーリエンテスとレヴィに、口外しないという約束で、打ち明けてくれた。彼女は社交デビューしてすぐ、素行の悪い貴族の若者達に、狼藉を働かれたらしい。それをヴァルムが救った。
自分の知るオーシェニが、大概沈んだ様子なのの理由がわかった気がして、レヴィは彼女になんと云ったらいいかわからなかった。オーシェニはけれど、それまでにないような晴れやかな顔で、喋ったらすっきりしたと云った。レヴィは姉妹をふたりきりにし、ヴァルムに礼を云いに行った。
辺境伯は「賢い」というよりも「軽率」、そして「勇敢」な婿を迎えることになった訳だが、ヘーリエンテスとオーシェニが手紙でヴァルムのよさを伝え、説得したので、渋々認めたそうだ。
オストはあれから、書庫へ度々顔を出すようになり、エアストと親しくしている。エアストの目にいい薬を差しいれたり、本を扱うためにかさついてしまう手をどうにかするものを用意したりと、献身的だ。
エアストも、王女失踪についての犯人捜しを陛下に命じられたオストを心配して様子を見に来ていた辺り、憎からず思っているのだろう。いずれふたりは婚約するのではと、レヴィは思っている。さいわい、エアストはまともな人間で、オストの身長を気にしていない。
レヴィとヘーリエンテスは、エアストの邸の展示室で、絵を見ていた。
傍にはシュタインも居る。シュタインは王女との婚約を蹴ったことで、王女に同情を寄せていた令嬢達から総スカンをくらっているらしい。結婚の望みは絶たれたようなものだ。
しかしなにも気にした様子はなく、この集まりにやってきた。
「皆、わたくしの手伝いをしてくれて、ありがとう」
バラがやわらかい笑みで云う。隣にはトートが居て、ふたりは腕を組んでいた。トートのほうが背が低い。ふたりの婚約が発表されて数日経ち、異を唱える者もなく、波がだいぶ落ち着いたところだ。あらためて礼を云いたいと、バラが云い、エアストが場所を提供した。
そのエアストはオストと並んでいるが、距離はあった。が、オストがにこにこしてエアストを見ている。「僕らはひっかきまわしただけみたいだな。オスト嬢に礼を云わなくては」
「え? いえ、わたしはたいしたことはしてません」
「ヴァルムさまも助けてくれたわ。ありがとう……」
オーシェニが小さな声で云う。包帯のとれたヴァルムがその横で、大きく頷いた。ヴァルムは王女よりも背が高く、その点でも釣り合いがとれていたと陛下がこの間嘆いていた。シュタインも背が高いので、陛下は期待を寄せていたらしい。
娘に少しでもしあわせになってほしい、はじをかかせたくないという親心での選定だったが、陛下はバラの気持ちを考えることを忘れていた。
「いえ、わたしの薬を信じてつかったのはあなただから」
「それでもありがたいの」
「ええと……じゃあ、どういたしまして」
オストはふにゃっと笑う。オーシェニもつられたみたいにわらった。
ヘーリエンテスが云った。
「ねえ、エアスト、気になっていたのだけれど。あの隠し扉は? あの部屋はなんだったの?」
「ああ、俺の何代か前のじいさんの、娘だか息子だかがとじこめられていた部屋だよ。あの扉は前は内側からは開かなかったんだけど、俺が内側からも開けられるように改装させた」
誰かが溜め息を吐く。成程、以前居たという、「様子がおかしかった」ひとの為の、座敷牢だったのか。
沈んだ空気を、シュタインがぶち壊した。
「ああ、そうだ、殿下にまっさきに云おうと思っていました。俺、結婚するかもしれません」
「え?!」
「なんですって?」
エアストとオストが即座に反応する。シュタインは頭をかいた。
「詩人をしている女性なんですが、ハイアーンの貴族の傍流の娘なんです。気があうんで、結婚してくれないかと云ったんですよ。問題ないならいいというので、法典を調べたんですけど、今はもう他国の貴族を迎えても問題はないでしょう? 閣下達はくわしいですよね? 調べた限りは問題ないようだったんですが、大丈夫かどうか知りたくて」
「まあ、そういうことだったの、シュタイン! あんたって子は!」
オストがシュタインを強めに叩き、シュタインはいてえと叫んだ。そのやりとりに、レヴィとヘーリエンテスがまず笑い、笑いが全員に伝播する。どうやらこの国は先々まで安泰らしいぞ、とレヴィは思った。




