様子がおかしい
「様子がおかしい」
ヘーリエンテスがレヴィの耳許へささやく。レヴィはかすかに頷いた。
展示室は静かだ。邸の東の棟にあるのだが、ここへ来るのにわざわざ庭をつっきらされた。正面から屋内へ這入り、移動すればいいのに。
使用人が三人(と、侍女やおつき達)に目を光らせている様子なのも、なんとなくおかしな話だ。
レヴィは低声で返す。「見張られているらしい」
「なにかしら?」
「わからん。エアストには会えそうもないな」
「あのう」
純真無垢なオストは、見張られていることにも、様子がおかしなことにも気付かなかったようだ。微笑んで、侍女に手を伸ばし、鞄をうけとる。鞄には小瓶やら巾着やらがはいっていた。オストはそのなかのひとつの巾着をとりだし、そのなかからかいがらを出す。
「これ、エアストさまに差し上げたいんです」
「は……?」
使用人が口をぽかんと開けた。
レヴィとヘーリエンテスも、なにがはじまったのかと顔を見合わせる。
オストはにこやかだ。
「あの、この間、殿下のことで心配してくださったし、以前も調べものを手伝ってくださって。エアストさま、目の調子が宜しくないようだったので、目薬をつくりました」
「つくった?」
思わずレヴィが云うと、オストはぽかんとした。
侍女が慌てる。
「つ、つくらせたとおっしゃりたかったのです」
「それは、かなり意味合いが違うが? 女性が薬を?」
オストは失言に気付いたか、赤くなって肩を落とした。だが、いいわけも口にしない。
レヴィは頷く。
「成程、わかったぞ。君が厨房に出入りしているというのは、そういう訳か」
「若さま、どうかこのことは」
「それは素晴らしい」
レヴィの言葉に、オストの侍女達がきょとんとする。レヴィもヘーリエンテスも頷いていた。
「もしや、君がヴァルムを助けたのか」
「え、えっと、あのう、怪我に効く薬を、オーシェニさまに渡しただけです。あの、オーシェニさまがそれをつかったかどうかは、わたしは……」
「君は友人の恩人だ」
オストははずかしそうに首をすくめる。ヘーリエンテスがはげますように、オストの腕を軽く叩いた。
ふと、オストが顔を上げる。きょとんとしていた。「あら?」
「どうしたの、オスト?」
「……シュタインが居ます。あの子にあげた香水の匂い」
「え?」
オストはドレスの裾をからげ、ひょこひょこと走って行ってしまう。
エアストの使用人が悲鳴をあげてそれを追った。「そちらはだめです!」
「やっぱり! シュタイン、さがしたのよ」
オストは絵画のひとつ……と見えた扉を開け、とびこんだ。レヴィ達はぽかんとする。こんな仕掛けがあったなんて知らなかった。
ふたりは顔を見合わせ、そこへ飛びこんだ。




