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9話 忍び寄る災厄の足音

(三人称視点)


 真紅の女王ヴェルミリオンが飛び去ってから、シュルトワ王国に暗い影が落ち始める。

 最初はささいな違和感に過ぎなかった。

 やがて、それは確信へと変わっていく。


「雨が降らないよな」

「全くだ。どうなってるんだ?」


 王都はその日も朝から雲一つない快晴だった。

 それなのに、まるでバケツをひっくり返したような豪雨が突如として降り注いだ。

 それも一日中、ずっとである。

 しかも単なる雨ではない。

 まるで血のように紅く、ドロッとした液体が絶え間なく、天より降り注いでいるのだ。


「一体……何なんだ?」


 しかし、人々は気付かない。

 これが大いなる竜の呪いであることに……。




 王都の異変に呼応するように王国の南部を激しい大地の揺れが襲った。

 都市部では多くの家屋が倒壊し、巻き添えとなり、多くの命が失われた。

 この地方では長らく、地震が無かったこともあり、木造の家屋が多かったことも影響していた。


 しっかりとした石造りの城塞も被害を免れなかった。

 頑丈な城壁が崩落し、多くの見張り塔が倒壊した。

 街道を寸断するように地が割れ、底の見えぬ闇が口を開けている。

 だが、真の恐怖はまだ、訪れていない。


 震源はダンタルト山の直下。

 人々が最も怖れる最悪の事態が今まさに起きようとしていた。

 長い時を静かに眠っていた眠れる悪魔ダンタルトがついに目覚めたのだ。

 遥か彼方にまで響き渡る轟音とともにマグマと黒煙が噴き上がった。


 王国の歴史において、噴火は決して、珍しいことではなかった。

 むしろ、ダンタルトとの戦いの歴史であったと言っても過言では無いほどだ。

 しかし、今回の噴火の規模はこれまでの比ではない。

 大海原すら、干上がらせるのかと思えるほどの膨大な溶岩流が麓を目掛け、押し寄せた。


 それはさながら、地獄絵図である。

 逃げ惑う人々の悲鳴と怒号が木霊する中、ついに地獄の蓋が開いた。

 火山弾がまるで血の雨のように降り注ぎ、大地を染め上げていく。

 灼熱の炎はまるで生き物のように地を舐め尽くさんとばかりに広がる。


血の雨(ブラッディ・レイン)じゃ……神がお怒りなのじゃ」


 語り部の老人は降り注ぐ、炎の礫に全てを諦めた絶望の色を瞳に浮かべ、そう呟くのだった。




 ダンタルトの麓は絶え間なく、流れ出る溶岩と降り注ぐ火山弾に加え、火砕流と土石流にも襲われ、ほぼ壊滅した。

 命のある者を探す方が困難なほどに過酷な状況になっていたのだ。

 だが、溶岩などの被害が出ていない地域でも恐ろしい事態が起きていた。


「うわあああああ!」


 悲鳴と共に兵士が一人、逃げ惑っている。

 その背後には細かく、鋭い牙を備えた恐るべき口を開いた巨大な魔物の姿があった。

 その姿はミミズをそのまま巨大化させたといっても過言では無いほどに良く似ている。

 手足が無い環形動物の一種であるワームだ。

 ワームの中で最も凶悪とされる全長二十メートルを超えようかという巨大種ギガント・ワームだった。

 本来ならば、地中深くに生息するギガント・ワームが急激な地殻変動により、活動を活発化させ、地割れから出現したのだ。

 逃げ惑う人々を次々とその胃袋に収めていく、巨大な魔物相手に天災に打ちのめされた者達は抗う術を持っていなかった。


 そんな彼らにとって救いとなる出来事が起きた。

 突然、天より飛来した光の矢が、ギガント・ワームの頭部を貫いた。

 次の瞬間、光り輝く粒子となって消え去る巨大なワーム。

 生き残った人々は何が起こったか分からず、呆然としていたが、すぐに我を取り戻すと歓声を上げた。


「助かった! 助けが来たんだ」


 だが、彼らが目にしたのは更なる悪夢のような光景。

 空にあるのは救いではなく、絶望だったのだ。

 上空を旋回しているのは無数の飛竜の影だった。

 彼らは地上に降り立つと、獲物を見つけた猛禽類の如く、人間に襲いかかった。


 大いなる災厄の足音は着実に近づいていた。

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