6話 聖女のぶらり途中下車の旅
卒業パーティーでの『婚約破棄』と『追放』という一大イベントから、三日ほど経ちました。
わたしはまだ、『東の果て』とやらに辿り着いていません。
本でしか見たことのない『婚約破棄』と『追放』を体験出来た感動を胸にこの国を後にしたかったのですが、うまくいかないものですね。
「お嬢ちゃん。もうちょい、かかりそうだ」
「そうですか」
「すまねぇなぁ……もう少しだけ我慢してくれよ」
「えぇ、構いませんよ」
実はちょっと偉い衛兵どころではなく、第二騎士団の副団長にして、一番隊隊長だったブルーノさんとそんな会話をしながら、馬車はゆっくりと進んでいます。
何しろ、イラリオ様のあの剣幕ですから。
てっきり、手錠と足枷を付けられ、檻で護送されるとばかり、思っていたのですが……。
まさか、乗り心地のいい馬車に護衛まで四人も付くなんて。
おかしいですよね。
人の良さそうな好青年の衛兵と思っていたペドロさんも実は第二騎士団所属の正式な騎士。
お馬さんと一緒に護衛として、付いてきてくれたので顔だけではなく、本当にいい人のようです。
「でもなあ。まあ……このまま、行くって訳にはいかねえか?」
ブルーノさんの呟いた声がつい、耳に入ってしまいました。
どう言う意味なのかは分かりませんが、あまり、いい意味ではない気がしてなりません。
「隊長! 大変です!」
ペドロさんの叫び声で現実に引き戻されました。
どうやら、悪い予感は当たってしまうようです。
「待ち伏せです!!」
馬車の窓から、ちらっと見えただけでもざっと百人以上の人々が馬車の行く手を阻んでいるように見えました。
ああなるともう群衆と言った方が適切かもしれません。
小さな子供から、杖をついたお年寄りまで 老若男女を問わずといった様子。
そのただならぬ雰囲気を感じたのでしょう。
馬車を引く馬が興奮気味に前足を上下させていました。
ブルーノさんの顔色が心無し、青く見えます。
わたしの顔色も悪くなっていることでしょう。
「クソッ……こりゃ、また大変なことになるぞ!?」
待ち伏せと言うことは、わたし達を待ち構えていたのでしょう。
先日の宿場町での歓待ぶりを思い出しました。
『聖女』への信仰は王都から、離れれば離れるほど篤くなる傾向がありました。
土地と密接に結びつき、自然と暮らす方々であるからこそ、『聖女』の意味を知っているのかもしれません。
『聖女』は人を守るのではなく、大地を守るのだということを……。
げんなりとしつつも横断幕に見様見真似で書かれただろう『熱烈大歓迎! 聖女御一行様』という文字に胸の奥がほんのりと温かく、なるのでした。