35話 レイチェル、親分になる
二人組の男性が観念して、姿を現しました。
しっかりと前髪を上げ、整えられた髪型の男性が『兄貴』と呼ばれていた方のようです。
もう一人の男性は頭髪がなく、この砂漠で諸肌を脱ぐという中々に大胆な格好をしていて、背も高く、筋肉質の剣闘士のような肉体をしています。
恐らく、この方がわたしを担いでいた『やんす』という語尾が特徴的な人なのでしょう。
カエルさん…ではなく、ガエルさんの無言の圧力で大柄な男性二人組がわたしの前で身を縮ませて、項垂れています。
少々、気の毒に思えてきました。
装束といい、わたしを簡単に連れ去ることが出来たことといい、お二人が『砂漠の民』の一員であることは間違いないでしょう。
ちょっとした欲望で心が揺らぎ、悪いことをしてしまう。
人であれば、誰しもあることです。
お母さんだったら、『ね? だから、言ったでしょ。人間はこんなものよ』と言いそうです。
その時の姿が容易に想像出来て、思わず、クスッと笑ってしまいそうになりました。
危なかったです……。
この緊張した場面で吹き出すと確実に変な子と思われてしまいます。
「すまなかったんだぜ~」
「すんませんでやんす」
お二人が地面に頭が付きそうな勢いで平伏しました。
あまりの勢いにわたしの方が反射的に謝りそうになります。
どうも、いけませんね。
「いえ、いいのです。わたしは何ともありませんから……ほら、怪我もしていませんし」
「「くぅぅ、聖女様は女神様じゃああああ」」
「ち、違いますけど?」
「親分なんだぜ~」
「は、はい?」
どう見ても年上に見える男性に本気で泣かれて、拝まれるとどうすれば、いいのでしょう。
助けを求めるようにガエルさんの顔を窺うとどこを見ているか、分かりにくい瞳が明らかに視線を逸らしたと感じました。
そして、現在。
わたしは馬上……ではなく、駱駝上(?)の人となっています。
オアシスでお二人から、長々と懺悔のような告白を聞いて、許すことにしました。
いわゆる魔が差しただけで根っから、悪い人達ではないと思ったのです。
ただ、欲望に抗えない心の弱さをお持ちのようですが……。
『兄貴』と呼ばれていた方がスハイルさん。
『やんす』喋りの大きな人がハッサンさん。
怪しまれることもなく、わたしを簡単に誘拐出来たのはスハイルさんがサラさんのお兄さんだという意外な事実があったからということも分かりました。
スハイルさんが手綱を引いて、先導してくれ、ハッサンさんが駱駝の隣で周囲の様子に気を配っています。
わたしだけ、ラクダに乗っては申し訳ないと歩こうとしたのですが、全力で断られたのです。
ガエルさんもちょっと後ろから、ついてきてくれます。
お二人が妙な行動を取らないか、まだ、怪しく思っているのでしょうか?
妙な威圧感を背後から、感じます……。
ガエルさんは相当に腕が立つ剣士なのでしょう。
たった一人で武装した戦士複数を相手にしながら、傷一つ負っていないのですから。
背負っている大きな剣はグレートソードなのでしょうか?
わたしの背を超える大きさをしていて、背負わないといけない剣というとかなり重量があるはずです。
それを軽々と担いでいるのです。
オアシスに倒れていた大勢の戦士もグレートソードで倒したのに違いないのですが……。
只者ではありません。
蛙人ですし、色々とお話を伺いたかったのですが、微妙に避けられている気がするのです。
残念です……。
もうすぐ集落に付いてしまうのでこのまま、お別れということになりそうです。




