34話 新たな出会い
置き去りにされたということはチャンス?
それなら、今の内に脱出すべきかも……。
でも、手足が動かせません。
どうしましょう?
そう思っていたら、袋ごと持ち上げられました。
「動くな……。動くと狙いが外れる……」
「!?」
囁くような小声でやや不明瞭。
不明瞭なのは片言の王国語のせいかもしれません。
でも、わたしには分かりました。
この声の主は冗談で言っているのではないのだ、と……。
それに動こうにも自力では動けないのでジッとしているしか、ないのです。
シャリンという軽い金属音がして、閉ざされていた視界がようやく、開かれました。
ふと気付くと手足の圧迫感もありません。
どうやら、袋から解放してくれただけではなく、手足を縛っていた縄まで切ってくれたようです。
「また、つまらぬ物を切ってしまった……ケロ」
先程の『動くな』という言葉と『切ってしまった』という言葉。
今更のようにわたしを恐怖が襲ってきます。
袋の上から、切りつける必要ないと思うんです。
わたしが動かなくても危ないじゃないですか!
「あ、ありがとうございます。助かりました」
内心は複雑な思いが嵐のように吹き荒れていますが、結果として、助かったのです。
お礼はちゃんと申し上げないといけません。
立ち上がって、礼をしようとしたところ、紳士的に手が差し出されたのでその手を取って、立ち上がります。
「わたしは……レイチェルと申します」
一瞬、驚きのあまり、言葉が途切れてしまいました。
背丈は見上げるほどもあり、均整の取れた肉体の持ち主であることが見て取れました。
しかし、そこに驚いたのではありません。
彼の顔が人のそれではなかったからです。
「驚かせてしまった……ケロ」
横長で扁平な顔立ちに裂けたように大きな口。
目の間が離れていて、白目が無く、大きな瞳がギョロッとこちらを見つめていました。
肌の色はどことなく灰を被ったような燻ぶった灰の色をしていて、ぬめりを帯びているようです。
そう、どこかで見たような……カエルさん!
わたしよりも大きなカエルさんが二本足で立っていて、言葉を喋っているのです。
おまけに服まで着ています。
これに驚かない人がいるでしょうか。
日中の明るい光で見たら、もっとびっくりしていたかもしれません。
「い、いえ……」
まさか、この目で見ることが出来るとは思っていませんでした。
本でしか、見たことがない伝説の一族・蛙人が実在したのです。
わたしが学者であれば、声を大にして叫んでいたことでしょう。
「我……いや、俺の名はオリヴィ……いや、ガエルだ……ケロ」
「あの……助けていただいて、ありがとうございます」
「あ、ああ……」
思わず、じっと見つめてしまっていたようです。
ガエルと名乗った彼は居心地悪げに身を捩り、わたしの視線を逸らそうとしました。
もしかしたら、恥ずかしがり屋さんなのかもしれません。
寡黙な方という可能性もあるのかしら?
「それで……君はどうしてこんなところに?」
「え、ええ。えっと……」
わたしはこれまでのことを話しました。
王都での出来事から、砂漠で体験した出来事までを簡単にまとめ、気が付いたら、袋に押し込められていたこと。
そして、この場の騒動に巻き込まれたこと。
最後に自分が何者かということを話しました。
「そうか……それは災難ケロ」
ガエルさんは相槌を打ちながら、聞いてくれます。
相槌は打ってくれますが、いまいち表情が掴みにくいですし、口数も少ないので何を考えているのかはよく分からないのですが……。
ただ、ガエルさんは悪いカエルさんではない気がします。
「詳しい事情はそこの二人に聞くとしよう……ケロ」
「「ひえ」」
ギロリとガエルさんの双眸が一点を睨みつけました。
小柄な人間なら、十分に隠れることが出来そうな木の影から、はみ出して見える男性が二人います。
わたしを袋に詰めて、運んできた二人組でしょうか?
あれ? ここは……
それで気付きました。
見おぼえるがある場所だと思ったら、どうやら、オアシスだったようです。




