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28話 獣欲を持て余す狂犬

(三人称視点)


 最凶の捕食者と救い主による激闘が砂漠で行われていた丁度その頃、北でも異変が起こっていた。


 オスワルドに率いられた近衛騎士団の精鋭はすんなりと領都に辿り着いていた。

 ブレイズ辺境伯家の騎士団は精強をもって、知られる王国屈指の強兵である。

 強さだけではなく、勇猛にして忠誠心篤き心から、模範とすべき理想の騎士の姿として、称えられるほどだ。


 当然のように激しい抵抗が予想され、激しい戦いが繰り広げられるものと思われていた。

 ところが蓋を開けてみれば、一切の抵抗がない。

 領境の砦からして、もぬけの殻である。

 オスワルドは何かの策なのかと訝しんだが、街道沿いに領都を目指す途上においてもまるで人の気配がない宿場町が続いたことから、既に気を緩めていた。

 ブレイズ家の騎士は張子の虎に過ぎないのだ、と。

 己の力を過信する彼らしい判断だった。


 そして、それは落とすべき目標である領都でも変わらなかった。

 ブレイズ家の城塞都市は固く門を閉ざしたまま、罵詈雑言を並べ挑発しようとも一切の戦闘行為に応じないのだ。


「臆病者どもが。何だ!」


 門を閉ざしたままの城塞を包囲したものの埒が明かない攻城戦に元々、堪え性がないオスワルドは苛立つ心を抑えられなかった。

 鬱屈とした満たされない怒りが心を燃やすように急かすのだ。

 それを満たそうと本陣として、設置された陣幕の中で狂宴に明け暮れる日々が続いていた。


 オスワルドは現地調達で全てを補うつもりだった。

 それは物だけではなく、人もである。

 ところが何もなかった。

 道すがら、反逆に与する愚かな民をあてがおうと思っていた皮算用がご破産となったのだ。


「くそっ!」


 オスワルドは腹立ちまぎれに酒を煽り、そのグラスを投げつけ、粉々にした。

 どこか、満たされないままの彼を後目に陣幕の中では目を疑いたくなるような所業が行われている。

 彼の信頼する友であり、部下達――近衛騎士が狂った宴に興じていたのだ。

 下半身を露出した騎士の上に薄絹だけを纏った肉感的な美女が跨っていた。

 繋がった部分を他の者に見せつけるようにしながら、行為を続ける騎士と女が上げる声が陣幕に響き渡るが、非難する者は誰もいない。

 皆、同じように女を抱き、獣のように交わっていたからだ。

 嬌声を上げる女達の態度はどこか、空々しいものがあるが滾る性欲のままに欲望をぶつける男達は既に骨抜きのようだった。


「つまらん……この怒りは……収まらんのだっ」


 目の前で繰り広げられる性の宴を前にオスワルドの雄としての本能が反応していない訳ではない。

 その証拠に男の部分は元気に反応しており、美しい女を蹂躙し、犯し尽くしたいとする思いが隠れていることは明らかだった。

 しかし、彼にとって、性欲よりも抑えがたき獣性が牙を剥いていたのだ。

 剣を手に取り、命を奪う。

 その手で命を奪いたくて、抑え切れない。

 やがて、人知れず陣幕を出たオスワルドは未だ、何の動きも見られない城壁を憎々し気に睨んだまま、暫くの間、動こうとしなかった。




 その頃、領民を収容すると固く門を閉ざしたまま、貝の如く沈黙を守る城塞。

 致し方ない状況とはいえ、籠城せざるを得なかった現状に憤懣やるかたない様子の騎士達がいた。

 当主であり、常に陣頭に立っていたデボラには彼らの気持ちが痛いほど分かっている。

 しかし、意志に反してでも籠城をしなければならなかったのだ。


 武は外なる敵と戦う為にある。

 その教えを頑なに守り、勇猛果敢な部門の家柄として、名を馳せたのがブレイズ家だ。

 破落戸(ごろつき)のような輩しかいない近衛騎士団とはいえ、同じ国の民であり、刃を交えるべきではない。

 また、落ち延びて来たレジェス第二王子を守らなくてはいけないというのが理由の一つではあった。

 しかし、籠城を選んだのにはもっと大きな理由がある。

 騎士団の主力を欠いていたのだ。

 王国の混乱を機と捉えた北の異民族が突如として、南下を始めた。

 これに対処すべく、トビアスが主力を率いて、向かっていた。


「皆の気持ちは分かっている……。しかし、今は耐えてくれ。今少しの辛抱だ。間も無く、機会が訪れよう。その時こそ、雪辱の時だ!」


 デボラの言葉に騎士は皆、決意も新たに拳を天に突き上げ、気合を入れるのだった。

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