20話 賢者の石の謎
(三人称視点)
「カーミル様。どう思われますか?」
レイチェルとの会話を終えたサラが周囲を窺いながら、小声でカーミルに話しかけた。
「彼女の力は本物だ……。どう思う?」
「そうですよね。ありえませんよね」
二人のやり取りを聞いている者は誰もいない。
視線の先には大地にお尻を付け、腰掛けている巨人の姿がある。
後方に手を置き、体重を支えているその姿はとても、リラックスしているように見えた。
その正体はオアシスで『砂漠の民』と行動を共にしていたからくり仕掛けの巨人だ。
鋼に覆われた全身は鈍く光るダークグレーの色をしている。
武骨でありながらもアンバランスな美しさを備えていると言っても過言では無い姿。
表面が赤茶け、錆びつき、歩くだけで関節部が軋み、耳障りな音を立てていたモノと同じとは思えない。
「まさか、直ってしまうとはな」
「予想外ですよねぇ」
腰掛けていても数メートルは軽くありそうな巨体にも関わらず、その周囲で遊ぶ子供達が怖がったり、怯えるような様子は見られない。
彼ら『砂漠の民』にとって、鋼の巨人は身近に感じられる守護者であり、目に見える神でもあった。
二人は声を潜めながら話を続ける。
その面持ちは非常に真剣でどこか、悲壮感すら感じさせる物だ。
「でも、これでハッキリしましたねぇ」
「ああ……」
「『賢者の石』は実在したんですねぇ」
「そうだな」
二人の間に沈黙が流れる。
それはまるで嵐の前触れのような静寂だった。
「あの子は大丈夫なんでしょうか?」
「分からない」
「ですけど……」
「ああ、分かってるさ」
不安げな表情を浮かべるサーラに対し、カーミルは努めて冷静な口調で答えた。
「あの子にはあまり、時間が残されていないのだろう?」
「うぅ……そうですよねぇ」
「それに……レイチェルの力があれば……『賢者の石』があれば、この先何があっても切り抜けられるかもしれない」
「確かに、そうかもしれませんねぇ」
カーミルとサーラの視線が前を歩く二人に注がれた。
目の前にいる幼い少女――アーヤは相変わらず、無邪気な笑顔を振りまいていた。
彼女と手を繋ぎ、隣を歩くレイチェルも朗らかな笑みを浮かべている。
「…………」
「…………」
再び訪れる沈黙。
しかし、今度のそれは先程までの物とは違い、何処か重苦しい雰囲気を帯びているように思える。
そんな空気の中、カーミルが口を開いた。
「だが、それでもやはり、心配だな……」
「えぇ……本当に」
「もし、彼女が倒れた時、一体誰が彼女を支えるというのだろうか?」
「!?」
芝居掛かった仕草で天を見上げると嘆いて見せるカーミル。
その目は真っ直ぐに前方を行く、二人の背中に向けられたままだった。
「もしも、その時が来たら……」
「その時は?」
「俺達の手で支えよう」
「はい。もちろんです!」
拳を突き上げ、高々と宣言するカーミル。
それにつられるかのように彼が突き上げた拳を見上げたサーラは、その拳に太陽の光が差し込んでいるのを見て、砂漠の民の行く末を思うのだった。




