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転生仙境記《てんせいせんきょうき》  作者: 曇天《どんてん》
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第七回 旅立ち

 山を越え、高遷こうせんの町につくと、

 もう日も暮れて暗くなっていた。


(どこだ......あれか)


 町を歩くと、すぐ大きな屋敷が見える。その屋敷を影から覗くと、

 大きな門の前に二人の門番らしき男が立っている。


「あいつら前に町でさいの後ろにいたやつらだ。

 やはりこの屋敷か......どうやって入るか」 


 屋敷の周りを見ると高い壁に囲まれている。


(よし!月も雲がかかっているな!)


 屋敷の横に周り、水如杖を使い、

 気を伸ばして先を鉤状に曲げると、

 それを壁の屋根にひっかけてから縮め屋根に登る。

 

(よし!うまく登れた。あとは.....)


 同じ様にして、家の中庭に降りると、

 壁にあるいくつかの小さな小窓から中の様子を伺った。

 そのうちの一つの部屋で、

 さいと男が話しているのが見える。

 

(いた!さいだ!)


さいさま、公尚こうしょうは首をたてにふりません」


「ふん!全く強情なやつだ!やつの父親そっくりだな!

 あの小娘を使って脅すか......明日さらってこい!」


「はい、わかりました」


さい......宋清そうせいさんを使うつもりか......)


 腹立たしさに杖を持つ手に思わず力が入る。

 

(いや、まずは証拠だ......どこにある)


 座椅子にもたれながら、

 酒を飲んでいるさいの部屋を確認する。

 壺や皿、木像など高そうな物が並ぶ。

 目を凝らしてみるが、他にはなにも見つからない。

 

(ない......必ず近くにあるはずなのに......

 この場所からじゃ見えない死角にあるのかな......

 外に行くときは懐にいれているだろうし......あれは)


 さいの机の上に扇が置いてある。


(前に町で会ったときも、扇を持っていた。

 あれなら常に持ってても不自然じゃない......よし)


 さいがうとうとしだすのを待って、

 小窓のすき間に気を液状にして中へと入れ、窓を中から開ける。

 そして、細くした気をどんどん伸ばして、

 机の上の扇を巻き取ると、小窓から扇を手に入れた。


(よし取れた!これは紙の扇か......

 表面の紙をナイフ状にした気で......)


 扇を切って開けてみると、 

 中から重ね合わせた証文のような取引状が出てきた。


(証文を扇にしてたんだ!

 後は公尚こうしょうさんを探し出せば......)


 ゆっくりとその場から離れ、屋敷をぐるりと回ると、

 屋敷の裏手の方に大きな蔵が立っていた。


「閉じ込めるなら......」


 周囲を見回し蔵の前に行く。扉には錠がかけられている。

 中に小声で話しかけてみる


公尚こうしょうさん......聞こえますか......」


「えっ?まさか三咲みさきさま......」


「やっぱりいた!よかった無事だったんですね」


「ええ......三咲みさきさまお願いです!

 私が殺されても、この脅しを飲むことはできないのです!

 ですが次は宋清そうせいが狙われるはず、

 そうなっては飲まざるをえません!

 宋清そうせいを助けてはもらえませんか!」


(自分より宋清そうせいさんか......)


「大丈夫......宋清そうせいさんをさらうのは明日ですから、

 さっきそう話をしてました」


「そ、そうですか、でもお逃げ下さい!私のことは構いません!

 私が殺されれば、さすがに役人も動くはずなのです!

 宋清そうせいのことだけお守りください!」


「大丈夫ですよ。心配せずとも、今、錠を......」


 そう話していると、後ろから声がした。


「貴様!何をしている!!おい侵入者がいるぞ!」


 振り替えると、男が仲間を呼んでいる。


「ミ三咲みさきさま!早くお逃げ下さい!」

 

 公尚こうしょうさんが叫ぶ。何人かの男が走ってくる中、

 さいが胸をかきながら現れる。


「なんだ騒がしいな、賊か......うん? 貴様......

 確か公尚こうしょうと一緒にいた......」


公尚こうしょうさんは返してもらう」


「そうか公尚こうしょうを助けに来たのか、バカな奴だ。

 人の家に侵入したのだ。

 賊として捕らえても、殺しても許されるのだぞ!」 


「人さらいが言えたことか」


「ふん!さっさと捕らえろ!手足をへし折ってもかまわん!やれ!」


 そうさいが命令すると、

 大柄な男たちは棒を持ち僕を囲んだ。

 一人の男が棒をこちらに向ける。


「抵抗するか......しないならば腕一本で許してやる。

 ......が抵抗するなら手足全てへし折る!」


 そうにやつきながら凄んだ。


「やってみればいい」


 僕は挑発した。魔獣と戦って死線を乗り越えたことで、

 人など怖くもなくなっていたからだ。


「なめるなよ小僧!!」


 男たちは全員で殴りかかってくる。


(前は気を集めきれなかったから、あの程度ですんだけど、

 今、気を手にまとわせて殴ると殺してしまうか......)


 そう思い、水如杖すいにょじょうで気を液状に変えると、

 地面に拡げ、全員の脚に纏わせ固めた。


「な、なんだこれは!?」


「動けない!!」  


「これは気か術か!?」


 男たちはその場でもがいている。

 それを一人一人棒で殴って気絶させた。


「なんだお前!?それは封宝具ふうほうぐか!!

 道士!いや仙人さま!?」  


 さいは驚きながらそういう。


「そうだよ仙人だよ」


 後ずさりするさいの前に近づく。


「仙人さま!これは違うのです!私はこの国の商業の決まりを、

 公尚こうしょうに教えていただけ!

 従わぬ公尚こうしょうが悪いのです!」


「............」

 

 僕は無言で近づく。


「わかりました!いくらでしょう!いくら払えばよろしいのですか!

 もちろん公尚こうしょうの店にも安く品をおろさせます。

 ええ、そうですとも、そうすれば皆もうけられる!

 そうでしょう!」


 僕が更に近づくと、さいは尻餅をつきながらあとずさる。


「い、いくら仙人さまでも、人間の世界には法があるんですよ!

 国に申し出れば軍が出てくる!

 あ、あなたが仙人といえど、ただでは済みませんからな!」


「そうか......」


 僕はさいの前で止まる。


「お分かりいただけたようですな!そうです!この世には法がある!

 例え仙人とて侵すことなどできはしないのだ!」


「うん、そうだね!法を破っちゃっダメだね!」


 にっこり笑い、僕はさいの顔面を殴りぶっ飛ばした。


「ぶはっ!!」


 さいは無様に地面を転がる。


「はっ!な、なにをなされる!?仙人とて、こ、このような暴挙!

 許されることではありませんよ!」


 鼻血をだし、そういって訴えるさいに、

 僕はさいの扇を見せる。


「ふはっ!?それはわたしの!!なぜ!?」


「あんたの悪事の証拠は手に入れてるよ。法に従うんだよね!」


 水如杖すいにゅじょうを剣のように変え、

 さいの頭上に振り上げた。


「ひぃぃいいい!!」


「じゃあ、さよなら......」


 剣を振り下ろし、当たる瞬間液状に変えると、

 さいは白目を向いて失禁した。


「あれれ、やりすぎたかな。まあいいか」


 蔵に戻ると、公尚こうしょうさんが逃げてください、

 と声をからして叫んでいた。


「もう終わりましたよ」


「へ?」


 錠を壊して、公尚こうしょうさんに肩を貸し外に出す。

 服は汚れていて、顔に殴られたあともあるが、

 深い傷ではないので安心する。


「とうやら、それほど痛め付けられてはないね。良かった」


「は、はいなんとか、ですがこれは一体......」


 公尚こうしょうさんへ庭の惨状を見て絶句している。


「ま、まあ、帰りながら話しますよ。

 あまり遅いと、宋清そうせいさんがこっちに来てしまう」


 そう僕はいいなから肩を貸し二人で帰る。


 空を見上げると雲が晴れ月が浮かんで地面を照らしていた。

 

「本当にありがとうございました。三咲みさきさま」

 

 次の日の朝、部屋に正座した、

 公尚こうしょうさん宋清そうせいさんが、

 改まり僕に礼をいう。 


「い、いえ、確かにさいは捕まったようですけど、

 なにもしなくても捕まってたようですし」


 昨日、さいは捕まった。どうやら、

 あの老両替商が公尚こうしょうさんが、

 捕まったことを話したことで、商人たちの我慢が限度を超え、

 役所に直訴しに押し掛けたらしい。

 

「お節介してしまったようですね」


「いえ、そんなことはございません。

 三咲みさきさまが、手に入れてくれた証文がなければ、

 しらを切られ通したでしょう。大いに助かりました」


(そういえば、さいと繋がり値段を不当に吊り上げ、

 強制的に買わせていた大手の問屋たちの悪事も露見して、

 捕まったんだっけ)


「これで、小規模の店とも自由に取引ができます。

 皆を代表して本当にお礼を申し上げます」


 そういって公尚こうしょうさんたちは頭を伏せた。


「頭はあげてください。僕はちょっとだけでも、

 役に立とうとしただけですから」


 僕がやめるようお願いしてやっと頭を上げてくれた。


「それに、恩返しもしときたかったですし......」


 そういうと、公尚こうしょうさんは真剣な顔をして、

 こちらを見据えた。


「やはり......ここをでて行かれるのですね」


「......ええ、僕は仙人として昇天した意味、

 それを旅をして考えようと思います」


「......そうでしたか、ならばお止めしても困らせるだけですね......」


 少し沈黙したあと、公尚こうしょうさんは僕の手をとる。


「本当にありがとうございました。

 何かあれば必ず訪ねてください。

 私にできることがあればなんでもしましょう」


 そういって大粒の涙を流した。

 宋清そうせいさんも泣いている。

  

「......はい、ではお二人もお元気で、何かあれば必ず駆けつけます」


 僕はそういって公尚こうしょうさんの店をでる。

 二人は見えなくなるまで手をふっている。


 二人が見えなくなると少し止まり、歩くのを躊躇した。

 

(二人と離れることにまだ迷いがあるのかもしれない......

 短い間だったが、この二ヶ月とても幸せに思えたからだろうか)

 

「さあ、いかないと!」


 そうやって後ろ髪を引かれる思いをふりきると、

 僕は後ろをみないように歩きだした。


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