第六回 水如杖《すいにょじょう》
それから一ヶ月、店の方は順調らしかった。
今日は両替商に返金しに、
公尚さんは笑顔で出掛けた。
僕はもう一度口入れ屋に来ていた。
「もう少し稼いでおこう。どうもあの崔という男、
これで諦めるとは思えない......」
受付嬢に依頼書を見せてもらう。
(やはり高額なのは魔獣の討伐だな。普通の人間では武器を使って、
数十人とかでやっと倒せるらしいし......)
「じゃあこの依頼を」
「わかりました。
ではこの嶺洗河に向かってください」
僕は地図をもらい、
町の北にある嶺洗河という河にきていた。
それほど深くなく澄んだ水が緩やかに流れ、
小さな魚たちも見えた。
(きれいだな....あっ!そういえば)
「魔獣を見つける前に、ちょっと、この棒、
水如杖を試してみるか、
公尚さんの祖先が、
助けてくれた仙人からもらったっていってたけど」
「家宝を売ってしまっていいのかですか?
かまいません。祖先は使えたらしいですが、私には使えぬもの。
それより人を救えるお金の方が私には必要ですので」
と公尚さんはいっていた。
「どうやって使うんだろ?
とりあえず気に関係するんだろうし、気を使ってみるか」
握ってた杖に気を流してみる。
すると、杖から気が水のように流れ出る。
「おわっ!なんだ!?液体みたいにどんどん気が流れる!!
ヤバイ止めないと!」
止めようとすると杖の先に気が固まった。
「なっ!?止めようとしたら固まった」
触ってもプラスチックのように光が固まっている。
(さっきは水みたいに、止めようとしたら固まる......もしかして......)
僕は気を入れて集中する。
杖から気が出て延びると長い棒のように気が固まった。
「やっぱり!気を好きな形に操作できるのか!
水如、水の如き杖か、なるほど」
僕は色々な形や固さを作ってみる。
「これはいい!思ったような形や固さ、長さに出きる!
でも少しつかれたな......
なんか杖の気も徐々に小さくなっている......」
どうやら使った気は時間がたつとなくなっていくようだ。
それに加えて使えば使うほどつかれていく。
「気を使いすぎると疲れるってことか......現実と同じだな......はは」
練習して疲れたので河のそばに近づき、
水を飲もうとすると水中に小さな影が見えた。
それは一瞬で水面まであがる。
「なっ!でかい!」
とっさに離れようとするも、水から出てきた何かにくわえられ、
河へと落ちる。
「がぼっ!」
(な、なんだ!?水に引きずり込まれたのか!)
見るとねじれた一本角のはえた大きな魚が、
僕をくわえて河を潜っている。
(これは!?まさか隻角魚!!
こいつ、討伐対象の魔獣か!くそっ!はなせ!)
僕が気を腕にため暴れるもびくともしない。
(こいつの皮、鉄なみに固いんだった!
それに水の中じゃ踏ん張れないから、
力が入れられずうまく殴れない!
ま、まずい息が!早く何とか......)
僕が手に持ってた杖に気づくと気を入れ、鋭く固める。
そしてそれを、僕をくわえている口元に刺した。
すると魚は口を開け、そのすきに急いで泳ぎ水面まであがった。
「ぷはっ!!やばかった!」
息をすい下を見るとさっきの魔獣が迫ってくる。
(また引き込むつもりか!させない!)
魚が迫り口を開けた瞬間、中に入り、
杖を気で伸ばして口の上下につっかえさせると、魚は暴れた。
僕は口の中にはいると気をため頭の方に中から殴り付ける。
すると、魚は動かなくなった。
(ふう、やったか)
口から出て杖を紐状に伸ばすと魚に巻き付け、
水からでて魚を引きあげる。
「はぁ、はぁ、なんとか倒せた......あんなに深いなんて......
透明度が高すぎて浅く見えてたのか......」
とりあえず口入れ屋に戻ると、
報酬十二万貴をもらい、
公尚さんの家に帰る頃には夕方になっていた。
「ああ、三咲さま......」
宋清さんが慌てて、店を閉めようとしていた。
「まだ早いですよね?どうしたんですか......まさか!?」
「ええ、公尚が、
朝からでてったきり帰ってこないんです。
昼には帰ると入ってたのに......私探してきますので!
部屋でお待ち下さい!!」
焦る宋清さんを止める。
「僕がいってきます。
宋清さんはこちらで待っていてください。
もし勘違いで、行き違いになると面倒だ」
そういって宋清さんが、
朝に向かったという両替商のところに急いで向かう。
宋清さんに聞いた両替商を訪ねた。
「公尚どの......
ええ、融資のお金を返金に来て帰りましたよ」
「いつ頃ですか!」
「昼前には......どうかされましたか」
年老いた両替商に、
公尚さんがいなくなったことを伝える。
「それは......まさか崔どのが......」
「崔はどこにいるんですか!」
「あの山の向こう、高遷の町に、
お屋敷をかまえていますが......まさか行かれるおつもりですか!
お止めなさい!」
両替商は行こうとする僕を止めた。
「どうしてです!公尚さんが危ないんですよ!」
「あなたが店に押し入れば、
用心棒たちに襲われ命もありますまい」
「僕は仙人ですから大丈夫」
「なっ!仙人さま......」
そういって水如杖で気を操って見せた。
老両替商は驚いて言葉もでないようだった。
「本当に仙人さまでしたか......だが心配なさらずとも、
命は奪われますまい。公尚どのは、
その父の代からの商人仲間も多い。さすがに殺せば、
商人は従わなくなるでしょう。崔どのも商人のはしくれ、
そのぐらいは理解しております。
ですから、今まで協会を強引には追い出せなんだのですから」
「だから、ほうっておけと」
「仙人さまとて荒事を起こせば、
逆に公尚どのが襲ってきたのだと、
開き直りましょう。彼の仲間の証言で、最悪あなたは無事でも、
公尚どのが罪に問われるやもしれません」
「そんな、では、どうすれば......」
「ふむ...... 証拠ですな。
おそらく大手の問屋との不正な金銭のやり取りがあるはず、
その帳簿や証文があれば、
悪事の証拠として言い逃れはできますまい」
「それをどこかに、隠していると......金庫ですか」
両替商は首をふる。
「いいえ、金庫ならば盗まれる可能性もありますから......
ましてや崔どのは他者を信じぬお人。
しかも屋敷ならば、身に付けてる訳でもない......
ですから、目の届く自らの近くに隠してあるはずです。」
「なるほど......」
「仙人さま、私からも勝手ですが、この通りお願いいたします。
他の店との融資をやめさせるとおどされ、
公尚どのに、
融資の返却を求めざるおえなかったのです......」
そう両替商は頭を下げた。
「公尚さんは誰も責めてはいません。
だからあなたが気にやむことはないです」
そういって、僕は崔の住むという、
高遷の町向かった。