第二回 仙人
歩きながら話しをしていると、公尚さんは商人で、
隣町まで届け物をしていたという。
どうやらこの世界は100以上の国があるらしく、
ここは銘真という国らしい。
(国が分かれている?そんなに大きいのか)
「ほら見えました。あれが私の住む町、路南の町です」
町にはいると不思議な感じがした。
建物などが中国でもなく、日本でもない。
(日本でも中国でもない東洋の建築物だな。
ちょっと洋風もはいってる?)
僕は公尚さんに聞いてみる。
「ああ、この仙境には昔から、
東西問わず、人間界からきた人たちがいますからね。
建造物や文化もごった煮なんですよ」
「それで......」
確かに町にはさまざまな顔つき、肌の人達が歩いていた。
さらには髪の色まで色々あった。
「でも、髪の色が違う。真っ赤や青、緑っぽい色まである。
染めているのですか?」
「いえ、どうやら、この仙境は気が満ちていて、
その影響からか、髪の色が変わるものがいるのです」
「へーそうなんだ、気か......そんなものもあるのか」
「珍しいですか、私どもには普通です。
まあ気を使うことができるものは少数ですが......
それより仙人さまにあうことのほうがまれなこと」
「そんなに仙人とは珍しいのですか?」
「ええ、少なくともこの国では、
最近、仙人さまが来たという噂は聞いておりません。
他国にはいるという話しは聞きますが......
仙人さまが統治する国もありますね。
ほら、あれが私のうちですよ」
そこには大きな店があった。店から多くの客が出てきた。
「うちは雑貨を扱う店で、中には仙人様が使ったとされる、
かなり珍しいものもあるんですよ」
確かに店の中には、鍋や釜、食器や包丁、
傘、壺などさまざまなものがおかれていた。
(お店なのか......けっこう大きいのに清潔にしてるな。
ゴミ一つ落ちてない......あれは?)
店の中央に棚があり、
一つの小さな棒が大切そうにおかれている。
(なんだあの棒?なにか気になる......)
「いらっしゃいませ、今日はもう閉店......」
そう店の奥から若い女性が現れる。
「公尚......その方は?」
「ああ、宗清、
この方は三咲さま、仙人さまだよ」
「えっ!?仙人さま!これは失礼を!」
驚いた女性は膝を曲げ頭を下げる。
「や、やめてください。
僕は仙人かどうかもわからないですし......」
僕はさっきまでの話をした。
「はぁ、ですがお話を聞く限りは仙人さまのようですが......」
女性ーー宗清さんは、
困惑したようにほほに手をつき首をかしげる。
「そうだろう。とりあえずここにいてもらおうと思って」
「そうね。仙人さまがいらしてくれるなんて、
素晴らしいことだわ」
そう宗清さんは口元に手をやり笑って答えた。
宗清さんは公尚さんの幼なじみで、
店番をしてもらっていたという。
二人と一緒に家に上がらせてもらう。
(店舗兼家か)
店の奥の居間のような部屋に上がり、
大きな机の前の座布団のようなものに正座して座る。
「三咲さま。足を崩して楽にしてください」
「あの公尚さん。
この世界のこと、もう少し詳しく教えていただけませんか?」
「ええ、では私が知る限りのことをお話ししましょう」
公尚さんの話によると、
この世界ーー仙境は、人間の世界よりも広く
人間界より来た人々によって様々な文化がもたらされた。
百を越える国があり、五十年前にあった大戦以後、
今は小競り合いぐらいで、戦争はないらしい。
しかし、多くの国の暮らしは厳しいという。
「なるほど......仙人の世界でも生活が苦しいんですね」
「仙人の世界といっても、国を治めてるのは結局、人ですからね。
金、権力、武力を求めるのは仕方ないのでしょう」
公尚さんは、
僕とほとんど違わないような年齢なのに、
達観しているようにそういった。
「さあ、そろそろ夕食時ですね。食事をしましょう」
公尚さんが席を立つ。
手伝おうとするが、待っていてくださいといわれる。
「公尚はとても料理が上手なのですよ」
そう言って宗清さんは笑いながら、手伝いにいった。
(これからどうするか......
いつまでもここにご厄介にはなれないし、
仕事といえど、さっきの話だと難しそうだな)
そんなことを考えていると、公尚さんと、
宗清さんがお膳を持ってきた。
「さあどうぞ。お召し上がりください」
おかれたお膳には、ご飯に、焼き魚や、吸い物、煮物、漬物、
炒めた野菜などが置かれていた。
(うまい!中華料理かと思ったら和食っぽいな。
やはり日本の影響もあるのか)
食事はどれも美味しく、お腹が満たされ少し不安が安らいだ。
「おいしかった。ごちそうさまでした」
「喜んでいただけてよかったです」
その日は泊めてもらい、満足して眠りについた。
それから数週間、やることもないので店の番をしたりして、
公尚さん、宋清さんと、
笑いの絶えない。穏やかなとても楽しい日々を過ごす。
(心地いい......だが、このままいるわけにもいかないよな......)
そう思い、夕食時に公尚さんに話をした。
「......それで公尚さん。
僕が働けそうな所ってないですかね」
「働く......仙人さまがですか?」
「さすがに、なにもしないわけにはいかないので、
何か出来そうな仕事を、教えていただきたいのですが」
そう僕が聞くと、公尚さんと、
宗清さんは、困ったような顔をした。
「うーん、そうですね。
口入れ屋という色んな仕事を斡旋する所はありますが......」
「口入れ屋ですか、その場所教えていただけますか?」
「それは構いませんが......
とれもすぐできる仕事はないのではないかと、
気にせず、こちらにいらしてくれればよろしいのですよ」
「そこで仕事がなければ、ご厄介になるかもしれませんが、
一応やってみたいんです」
「わかりました。とりあえずいってみましょう」
そう言って店が休みの今日、公尚さんと、
宗清さんと一緒に外にでた。
(そもそも、僕は仙人かどうかもわからないし、
なにもしないでいるわけにもいけない......
でもバイトすらしたことない僕でも、
できる仕事があればいいけど......)
「ああ、あそこです」
公尚さんが指差した大きな建物は、
見るからに普通の人とは異なる風体の人達が集まっていた。
(武器や鎧を着込んでいる......あれは日本の甲冑、中華風、
ヨーロッパの全身鎧みたいなのものもある。
剣も日本刀や西洋の剣や槍、柄の長い剣も......
こんな武装が必要な仕事もあるのか......)
彼らを横目に見て、不安になりながら建物の中に入った。