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第3話 俺、魔王城を現代知識無双で清掃する

「しかし、だいぶ馴染んだようだな」


 俺のジョークに辟易したのか、骸骨魔王は話題をそう変えてきた。俺は肩をすくめる。


「馴染むしかないでしょうが。帰れないんだし」


 そう、帰れないのだ。魔王曰く、魂を元の世界に戻すことは召喚魔法を逆用した転送魔法を使うことで可能らしい。だが、


「むこうの肉体が死んでる以上、魂だけ帰っても元の人生には戻れん訳で」


 魂だけで戻っても俺の前世の身体は末期ガン。恐らくあの最後の記憶の後に亡くなっていると考えて妥当だろう。

 妻と娘と息子を残して――。


「――と、なればこんな魔王さまの性癖ドバドバ属性マシマシの身体にぶち込まれた第二の人生でも、余生代わりに楽しむしかないでしょうが」

「性癖うんぬんは納得できんが……同意なくこちらの世界へ召喚したことはすまなく思う。客人として好きに過ごすとよい」


 おどけて笑う俺に、この骸骨魔王はあくまで自身の性癖を否定しつつ、そう居住まいを正して陳謝した。まだ短い付き合いだがこの魔王のこういう礼節と律儀さには、呆れや感心を通り越して可愛さを感じてしまうから不思議である。骸骨なのに――……は! まさかこの骸骨、俺のメス堕ちを狙って――、


「しかし貴様のその格好の方が、よほど性癖うんぬんの話に沿うように思えるのだが……」


 恐るべき直感に俺が背筋の芯から打ち震えているところで、魔王が俺の服装――禁欲の象徴たる黒のワンピースに、清楚さの象徴たる白いフリルエプロンを身に着けながら、解放の象徴たる腰の翼と性欲の象徴たる尻尾の蛇を出すために背中から尾てい骨にかけてのラインを広く露出させた最強にエロい童貞を殺すメイド服――を指差してそう言ってきた。

 俺はこれに自信をもって答えた。


「家事をするならメイド服でしょう!」

「わからん……」


 魔改造キメラとして異世界にTS転生した俺は、ぶっちゃけやることがなかった。好きにしていいとは言われたものの、右も左もわからない異世界でいきなり好きなことをやる難しさたるや、二桁連勤中に人事部からの圧力による代休消化のために明日休めと突然言われた社畜が、充実した休日を過ごすのと同じレベルの難易度であった。独身時代に度々あったこんな休みはすることも決まらないまま、とりあえず溜まった家事に手を付けて一日をやり過ごしたものである。

 つまり、俺は家事を始めた。

 これでも前世は二児のパパである。妻との共働き育児だったため大抵の家事はお手のもの。特に掃除はどうせやるなら塵一つ残さないレベルで徹底してやりたい性分である。この魔の城の名にふさわしい埃とクモの巣の魔窟であった魔王城は、俺が暇を潰すには適当に不浄な空間であった。

 しかし、さすがに城は広い。一人では掃除にも限界がある。そこで俺は現代知識無双でシステマティックに魔王城の清浄化に挑んだ。


「入室!」


 パンパンと俺が手を叩くと、扉からホウキにハタキに雑巾と布を巻いた細い棒を装備したメイド服のスケルトンたちが続々と入室してくる。

 ここは剣と魔法のファンタジー世界。現代知識に魔法を融合させた結果、自我がなく指示に従順なアンデッドは人力の機械化に最も適した魔物であることが判明した。そして生まれたのが死霊魔法でスケルトンに清掃動作をプログラムし、さらに現代文明の利器であるマツ〇棒を装備させ細かいところの掃除にも適応させた、全自動で部屋のお掃除をする清掃スケルトン集団「ル〇バ隊」である。

 骨だけのスケルトンは清潔であり、また肉がないために軽量で高所の清掃を得意とし、さらに骨だけの細い腕は狭いところの掃除にも力を発揮するなど、素晴らしい清掃適性で彼らは瞬く間に魔王城の浄化を達成してくれた。ただ、たまに隙間の掃除を深追いし過ぎて手が嵌まり動けなくなっているのはご愛嬌だ。

 俺はズラリと並んだこの「ル〇バ隊」を背に、魔王にむかってにっこりと微笑む。


「とりあえず掃除の邪魔なのでそこをおどきください、ご主人様」

「別に主人になった覚えは」

「そういうプレイなのです」

「わからん……」


 首を傾げながらも素直に椅子から立ち上がった魔王様は、立ち並ぶ「ル〇バ隊」に対して概して当然の疑問を口にした。


「しかし、いつも思うのだが何故スケルトンにメイド服を……」

「お城のお掃除はメイドの仕事と決まっているのでございます、ご主人様」

「わからん……」


 俺のまっすぐな回答に首を傾げながら部屋を出ていく魔王様。

 そういう仕草ガチで可愛いんですけど、絶対メス堕ちなんてしてやんないんだからねっ!

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