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金烏玉兎の王と姫  作者: てちこ
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隣の国の王子様

『太陽の国』王子、エファエル は隣国『月の国』王女 エルナ との政略結婚が決まる。


今回は、エファエル王子と(エイミー)のとある1日についてのお話。


ーエイミーは『ある決意』をするがー



隣国の王子様

陽の光が大地を力強く照りつける。

「眩しいな。」


『天井を見上げて呟く。せめて木々に囲まれてたら良かったのに。』


都市の中心部に位置するここ、ウィオラ城は木々が少ないため、日光を遮ることができない。ウィオラ城は窓だけでなく、天井もガラス張りになっていて日光の光が降り注ぐ。窓から吹く微風が少年の白髪を揺らしている。この国は一年中夜が来ることもなく、燦々と太陽が照りつける。雨は滅多に降らない。今までは溜池を作って凌いできたが、月の国と同盟したため、川から水を引くことが許された。


「僕、結婚するの?」


少年は母親であるメアリ王妃に問いかける。母は不思議そうな顔をしてから、口にマカロンを含んで答えた。


「ええ。昨日も言ったでしょう?」


「そうだったね。」


嗚呼、僕結婚するんだ。

わかってるよ。僕の結婚がどんなに重要なのか。これでも僕は王族の人間だ。僕は「国を守る責務」を果たすために生まれてきた。

僕が結婚すればもうこれ以上、国民が血を流す事はない。

 

「キファエル、嫁いできてくれる王女様を幸せにしてあげなさい。それが国を平和にする事に繋がるから。」


メアリ王妃は少年に微笑みながら言った。 「王女様を幸せにする=国の平和に繋がる」の等式をまだ理解することが出来なかった。

王女様が不満を持ったら国同士がまた争いになるということだろうか。考えてみたが、さっぱりわからない。


「だけど、会ったこともない相手を一生愛して添い遂げることが僕には出来るだろうか?」


頭に浮かんだ疑問が無意識に言葉になって響いた。


「ふふっ。」


メアリ王妃が嬉しそうに笑って、紅茶を啜った。

母の笑い声が何を意味するのか、まだ僕は分からなかった。


季節は巡り、とうとう婚礼が行われる秋になった。城の中では花嫁の部屋の掃除から、花嫁へ贈呈するのドレスやら


ネックレスやらを用意する慌ただしい日々を送っていた。


花嫁の部屋は城の中でも一番景色が綺麗に見える部屋だ。春はミモザが美しく花開き、ほのかに甘い香りを放つ。

夏は庭園のバラが赤、ピンク、黄色、白色とそれぞれが誇らしげに咲き誇り、秋は下町で紅葉する木々を一望することができて、冬は草木に雪がちらつき、庭園を白く染める。


太陽の国は夜を与えられなかったが、美しい四季を与えられた。

四季が巡っていく姿は美しいけど、僕は夜が欲しかった。

空一面に数多の星が広がる風景はどんなに美しいだろうか。

数多の星が流れていく姿はきっと、息を呑むほど美しいのだろう。


太陽の国には星にまつわる伝承がある。

幼い頃に聞いたことがあったはず。

確か小さい頃に母上様に読み聞かせてもらった星の話、思い出せない。

キファエルは自室に戻り、ベッドへ勢いよく飛び込んだ。


「太陽の匂いだ。」


シーツを干した時につくいい香りだ。シーツに顔を埋めて『スーッ』と息を吸うと、とてつもない安心感に包まれて

知らぬ間に深い眠りへと落ちていった。



『ん、、フッグッ!!』


なんとも言えないずっしりとした感覚が身体に響いた。

びっくりして目を開くと陽光と共に、妹の顔が視界に入った。


「お兄様っ!!起きてくださいっ!」


「メイリーか、お兄様は今とても眠いんだ。もう少し寝かせてくれ。」


「お兄様は昨日、私と一緒に乗馬に出掛けてくれると約束してくださいました。」


威圧感を今とてつもなく感じた。

恐る恐る目を開くと、腕を組みこちらを凝視する妹の姿があった。

これは起きないと後々、面倒なことになるな。

妹のお願いに従わないと、一週間は口を聞いてくれなくなる。

母上からお叱りを受けるのは僕の方だ。嗚呼、眠いのに。

仕方なく起きることを決意して、目を擦りながら体を起こした。


「おはようございます。お兄様」


メイリーは先程の様子と一転して、満足そうに笑みを浮かべながら

ひらりとドレスの裾を持ちお辞儀をしてみせた。


「おはよう、ところでエイミー。もう少しお兄様に気を遣うことは出来ないのかな?」


「充分使ってます。逆にこれ以上どうすればいいのです?」


 ため息混じりに即答したエイミーは

 『お兄様こそ、わたくしに気を使ってください。』と言わんばかりの顔をしていた。

エイミーは『キファエルに気を遣ってるか、遣ってないか論争』などどうでも良かった為


「さあ!お兄様、そんなことよりも早く乗馬に参りましょう!」


キファエル返事を聞く前に、乱暴に手を引き部屋を共に後にした。

城の階段を降りると城の門の前で馬番のエレンが白馬を二頭引いて、キファエルとエイミーを待っていた。


「キファエル様、エイミー様!お待ちしておりました!」


「こんにちは、エレン。待たせてすまなかったね。調子はどう?」


「まあまあってところです。キファエル様達はどうですか?」


「僕たちはいつも通り、元気だよ。」


「よかったです!」

昨日の街での祭りの話、朝飛んでた小鳥の話、花は何が好きかなど、いつもたわいのない会話をしながら門をくぐり、橋を渡る。


「ではエファエル様、エイミー様!いってらっしゃいませ。」


「いってくるね。」


エイミーとキファエルはそれぞれ馬に乗り、高原を駆けて行った。


「お兄様!どうです?勇ましい騎士に見えますか?」


エイミーは乗馬鞭を勢いよく空に突き刺して、笑いながら問う。


「ああ。美しく、勇ましい騎士姫だ。」


「ふふっ。そうでしょ!」


エイミーは嬉しそうに、キファエルに便乗する。


「ただ、エイミーは一国の王女様だ。それを忘れてはいけない

よ」

キファエルはエイミーに言うと


「いえ、わたくしは騎士になります!そして、お兄様よりもずっと強くなって見せます!」


キファエルは声を張り上げて、騎士になる事を宣言した妹を見て


「じゃあ、野菜もしっかり食べようね。」


と言って軽くあしらった。

エイミーは触れられたくない話題に触れられて、頬を膨らませて下を向いた。

キファエルはそんな妹、エイミーが可愛くて仕方がなかった。

 

1日が終わるたびに政略結婚が近づいてくる。

僕が国を守るためにできるのは政略結婚だ。

好きでもない女性を愛せるかはわからない。それでも愛せる様に努力しよう。

可愛い妹を守るために。愛しい人々を守る為に。


「どうしたの?お兄様。難しい顔して。」


エイミーが不思議そうに顔を覗き込む。


「なんでもない。それより、もっと遠くへ走って行こう。太陽に一番近いところまで。」


「望むところです!」


二人はただ前へ前へと駆けて行った。




 


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