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第十七話 第二試合、チャド・ゲーンズボロ戦が始まる

「それでは夕方に来ますザマス」

「あたしのドレスは決められらんないの?」

「テュールさんにぴったりのドレスをこちらで選ぶザマス、信頼して欲しいザマスよ」

「うおお、何か楽しみ、それにおごりなのが良い!!」


 もうテュールはちゃっかりしてるわね。


 そろそろ時間だから甲胄に着替えよう。

 私は馬車の中でスケイルメイル(鱗鎧)を着込んだ。


 馬車から降りるとウォーレンが槍を四本抱えていた。

 試合用の槍とパルチザン(三角槍)だわ。

 そうね、念の為、本槍もいるかも。


 ウォーレンは甲胄ではなくて、ランスボーイの制服を着ていた。

 とても目立つオレンジ色の服で不慮の事故を防ぐのだ。


「良く似合ってるわウォーレン」

「今日は任せてくださいっ、アガタ先生っ」

「さて、ワシは賭け屋に行ってくる」


 テュールがジャラジャラと金貨を箱の上にぶちまけた。


「私はガッチンが帰ったら行くよ、ガッチン賭札買って来て」

「留守番はわしかい?」

「私はアガタの口上をやらないといけないから」

「そうか、それならばしかたがないのう」


 テュールが口上を述べてくれるのね。

 楽しみだわ。


 係の兵隊が来た。

 なんだか目に殴られたような跡があるわね。


「アガタ、時間だ」

「わかりました、いくよユニコ」

『おう、まかせろ』


 ……、他の人にはユニコの声は聞こえて無いみたいね。


 私はユニコを馬房から出して引いた。

 私の後ろをウォーレンが槍を抱えて付いてくる。


 待機所から出て競技場に踏み込むと観衆が沸騰したように騒いだ。


「アガタ夫人~~!!」

「今日も頑張って~~!!」

「平民の意地を見せてやれーっ!!」


 平民人気が凄いわね。

 二階席でも貴婦人たちがハンカチを振ってくれていた。


「これからは女性の時代よ~~!!」

「ゾーイとの決勝戦を見せて~~!!」

「奥さんの力を見せましょう~~!!」


 もう、みんな勝手な事を言うわね。


 ゴツイ騎士が馬上で拳を天に突き上げた。

 あれが、チャドらしい。


「我に秘策あり!! 牧童の嫁アガタはこの俺の筋肉の前に惨めな敗北を喫するであろうっ!! まだ間に合う掛札は俺に賭けておけ、アガタには致命的な弱点があるのだっ!!」


 朗々とチャドは観客にアピールした。

 致命的な弱点? 何かしら。


『何言ってんだあのデカブツ、俺のアガタたんに弱点なんざ存在しねえぞっ』


 待機所からテュールが走って来て回転ジャンプで中央柵の上に立った。


「わはははっ!! 牧場の奥さんアガタは戦場帰りのユニコーンライダーですっ!! 私の親友なんだっ!! 人妻なのにユニコーンに触れる乗れるほど清い心の持ち主で、はっきり言って大陸で一番強い女性だと思いまーすっ!! 賭けるなら今だぜっ、きっと準決勝、決勝と割率悪くなるからさあっ!! さあっ!! アガタに賭けて、みんなも儲けようぜっ!!」


 やっぱりテュールは口上が上手いなあ。

 一瞬で観客の心を掴んでしまった。

 観客席から賭け屋の方に駆けていく客が見える。

 まだしばらく仕合は始まらないのよね。


 テュールはくるりと回転して下りてきた。


「んじゃ、観客席で見てるから」

「テュールありがとうっ」

「うへへ、勝てようっ」


 テュールはたたたと観客席に走っていった。


「いいねえ、彼女は華がある」


 旗振りのおじさんがしみじみと言った。


 私はウォーレンが差し出した仕合槍を受け取った。

 ランスボーイがいると助かるわね。

 彼は走路の外を走って反対側に向かった。


 主審が笛を二回吹いた。

 中央旗が振り上げられる。

 おじさんが馬止旗を前に出した。


 中央旗が振り下ろされた。

 おじさんが旗を上げた。


 私はユニコに拍車を掛けた。


 ドン!


 と、体全体に加速度がかかった。


『ありゃ』

「あらあら」


 チャドは走路のレーンの左側ギリギリを襲歩(ギャロップ)で走っていた。


 ……。

 いえ、確かに端っこを走れば槍は届かないけれど……。

 向こうの槍は長大だった。

 一方的に攻撃するつもり?


 とも思ったけど、槍の先がゆらゆら揺れていた。

 それじゃ当たらないわよ。

 

 すれ違いざまに槍で狙ってきたが、明後日の方向に振られた。


 一本目はどちらも攻撃が出来ないまま、柵の端まで到達した。

 観客が怒ってブーイングをしていた。


「ああ、そうか、徒士(かち)戦闘狙いね」

『ああ、ユニコーンの性能が思っていた以上に良かったからか、ガタイのわりに腰抜けだ』


 トーナメント(馬上槍仕合)のルールでは馬上で決着がつかなかった場合は地面に下りて武器で戦うのだ。

 甲胄を着込んでいるので試合用の武器では無く本物を使う。

 そのため、年に何回かは徒士(かち)戦闘で死亡事故が起こるのだ。


 ウォーレンが寄って来た。


「典型的な徒士(かち)戦闘狙いです、奴は大剣使いです、大丈夫ですか、アガタ先生」

「平気よ。どうってことないわ」

『ハゲめ、お前の先生を信じろい』


 ぶひひんとユニコは笑った。


「汚えぞーっ!! 正々堂々やれーっ、弱虫チャドーっ!!」


 テュールの声は良く通る事。

 観客も一斉にチャドに向けてブーイングを放った。

 チャドは気にするそぶりも見せないでレーンを変えた。


 二本目。


 私は走っている間になんとか身を乗り出して突こうとしたが、チャドは大きく避けた。

 駄目ねこれは。

 あまり乗り出すと今度は逆襲されそうだし。


 三本目も同じ。

 チャドは馬上槍試合を捨てた。


 観客席の最上階を見るとゴーバン伯爵がにやにやと笑っていた。


 チャドは馬を乗り捨て、ランスボーイから身の丈ほどもある大剣を受け取って、抜いた。


「がっはっは、降参しろ、アガタ夫人! しょせん乗馬の上手いだけの女がトーナメントに勝つことは出来ないのだっ!! 殺されたくなければ命乞いをしろっ!!」


 チャドに目がけて、観客がトマトや卵を投げつけていた。


「やめろっ!! これはルールにのっとった正当な勝負だっ!! 牧場のかみさんが参加するのが間違いの……」


 チャドが喋っている間に私はユニコから下り、ウォーレンからパルチザン(三角槍)を受け取った。


「チャド、テュールが私を戦場帰りって言ったでしょ、私は槍も使うわよっ」

「な、なんだって!!」


 さて、楽しい楽しい徒士(かち)戦闘の始まりだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] まあ落馬で死ななければそのまま徒士で戦闘何だから戦場帰りが弱いわけが無い 何なら騎兵ともやり合うわけだし
[一言] チャドさん、馬上から落とされていた方がまだマシな目にwktk
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