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第十話 腹黒そうな糸目役人ジョーイがやってくる

 ガッチンがハンマーを握り、テュールが見えない位置でナイフを抜いた。


「ど、どういう事かっ!! 先ほどのアレはどう考えても伯爵閣下が悪いのだぞっ!!」


 ウォーレンが兵士の槍の前に立ち塞がった。


「私はジョーイ、法務官をやっている者です。アガタ夫人、お見知りおきを」


 兵隊の後ろで名乗って来たのは、なんだか腹に一物を持っていそうな糸目の男だった。


「ウォーレン君、何があろうと御領主さまを脅迫したら罪に問われるのですよ、そんな事も解りませんか?」

「し、しかし、伯爵閣下も間違いを認め……」

「何があろうともです、領民が領主さまを脅すなんて前代未聞なのです」

「ぐううっ」


 ウォーレンは押し黙った。


「さあ、アガタ夫人、ご同行願いますよ」

「一つだけ聞かせて、これは伯爵の命令?」

「これは異な事を言われます、領法に照らして法務官たる私が動きました、別に伯爵の命は受けておりません」

「それは良かったわ。じゃあ帰りなさい」

「何を言っているのですか、私は法を……」

「私はゴーバン伯爵と戦争中よ、トーナメント(馬上槍試合)が戦場よ、理解いただけたかしら」

「あなたは領民としての自覚が……」


 テュールがジョーイの前に出て彼の足を蹴飛ばした。


「うるせえぞクソ役人、ぐだぐだ言うとてめえらを兵隊ごと皆殺しにするって言ってんだよ、ご理解頂けたかっ!!」

「なっ、なにを言うのですか、なんですかこの子供はっ」

「テュール様だ、覚えとけ、クソ役人」

「さ、逆らうというなら容赦……」

「おめえよ、手練れのユニコーンライダーと、ドワーフ、それからたちの悪いハーフリング相手に、この人数の兵隊で足りるとでも思ってるのかい?」

「私は異常にたちがわりーぞ」


 ジョーイは黙った。

 ユニコがのっそりと馬房から出てきて私に寄り添った。


「し、しかし、法の正義が、その……」


 頑張るなあ、ジョーイ法務官。

 頭の固いお役人なんだろうな。

 こういう杓子定規な人は戦争で一番先に死ぬ。

 だから、私は彼のような役人が、そんなに嫌いでは無い。

 だが、今回は連行される訳にはいかない。

 牢で何をされるか解らないし、たぶん、人知れず毒で始末される。


「やめろ、ジョーイ法務官」


 黒騎士が待機所の入り口に現れた。


「く、黒騎士どの、しかし、領法では」

「あれは脅迫ではない、交渉だ。問題無い」

「ですが、御領主さまが舐められると統治に支障が……」

「俺が全責任を請け負う、だから警邏部は手を引け」

「……し、仕方がありませんね、アガタ夫人、今回だけですからね」


 そう言って、ジョーイと兵隊たちは待機所を去っていった。

 テュールがイーっと歯をむき出した。


「助かったわ、黒騎士」

「礼には及ばん、あなたと乱戦で戦ってもつまらないと思っただけだ。それでは」


 そう言って黒騎士は去っていった。


「ちーっ、すかしてやんなーっ、というかどっかで見た顔じゃない? アガタ」

「さあ、会った事無いわよ」

「そうかなあ」


 テュールの記憶にあるという事は、あの戦場で黒騎士と会っているのかもしれない。

 なにしろ、広くて酷い戦場だったから、覚えてなくても仕方が無いな。


「ふわー、テュールさん可愛いのに凶暴~~」

「えー、普通だよゾーイ。ハーフリングってこんなもんだよ~~」

「そうなんだ、コワイね」

「こわくない~こわくな~い」


「俺はなんの役にも立たなかった、俺は幼女以下だ……」


 ウォーレンが隅っこで苦悩していたが、まあ、放っておこう。


「アガター、お昼ご飯食べにいこー、賭けで儲けたからおごるよー、ゾーイも」

「あら、ありがとう」

「わあ、ありがとうっ」

「お、俺はっ!」

「ハゲはガッチンと留守番してろっ」

「ひどい……」

「なんか買って来てやるよ」

「腹に溜まる物とエールを買って来てくれ」


 ガッチンはテュールに注文を入れた。


「あいようっ」


 私はテュールとゾーイと一緒に待機所を出た。

 

 競技場を中心としてこの丘には色々な施設があった。

 小綺麗なホテル、食堂、立ち飲み屋、沢山の屋台。

 そして領民たちがたくさん訪れてそれぞれ楽しんでいた。


「いやあ、流行ってるねえ」

「この領、一番の娯楽だからね。トーナメント(馬上槍試合)の時期は仕事を休んでみんなで楽しむのよ。夏と秋はお祭りもトーナメント時期にやるし」

「金が動いてんなあ」

「領外からもトーナメントに参加する貴族やその家族も来るし、馬の生産もこのトーナメントで潤っていたわよ」

「ぎゃっはっは、あの黒甲胄がこのトーナメントビジネスの頂点にいるわけだ、それをアガタがぶっつぶすと」

「単に黒騎士を倒して賞金を貰って牧場を救うだけよ、後は知らないわ」

「なかなか楽しい仕事だなあ、うんうん」

「アガタは黒騎士を倒してチャンピオンになって君臨しないの?」

「まさか、ユニコーンライダーに馬で掛かって勝てる騎士はいないわよ」

「そんなに違うの?」

「腐っても霊獣だからね、馬力と戦闘力が違うわ」


 知能も高いし、最近はコミュニケーションも取れるようになったわ。

 前から、騎乗するとユニコと騎馬一体になって考えが通じてる感じはあったけれどね。


「それは有利ね、なんでユニコーンライダーはあまりいないのかしら」

「処女しか乗れないから」

「処女しか乗れないから。アガタは特別なんだな」


 全部、ユニコーンの嫌な趣味が良くないのだわ。

 まあ、誰でも乗れると、彼らは狩り尽くされてしまいそうだけれども。

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― 新着の感想 ―
[一言] 見た目から入り見た目で判断する、ウォーレンそういうとこやぞ
[一言] まあ一見するとただの処女厨だけど本能みたいなもんだろうしねぇ ライオンにヴィーガン食強要してもねぇ、って感じ?
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