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 アオツキ博士は無事にギルベイ市まで戻り、トニックとの再会を果たした。金網越しに指先だけは触れることができた。

 それから月に二回、アオツキ博士は欠かさず面会に行った。手土産は塀の外の話。嵐のように変化していく世の中、二度と出ることはないと知りつつ、トニックは外で起こっている出来事に興味を抱いた。

 次はどんな話が聞けるのかと胸を躍らせながら面会の日を待つ。百度目にはさぞ面白い話が聞けることだろう。

 ……しかし百度目が来ることは永遠になかった。

 ある日を境に体調を崩したトニックは、医療刑務所に移送され、あれよあれよと衰弱し、刑の執行を待たずに息を引き取った。白血病だった。

「花火が見たい」

 そんな彼の最期の言葉を聞いて刑務官は「自分の罪を理解してないのか」と激怒したという。

 トニックの死後、アオツキ博士は世界中を回って『とある芸術家』の作品展を開いた。素朴な作風のちぎり絵が徐々に話題を呼び、ほんの少しだけ有名になった。受付席に座る彼女の傍らにはいつも、緑色の右瞳が特徴的な女の子と、小さな骨壺。ヘンテコな三人組のささやかな旅だ。

 旅と言えば、ブランデー公国で作品展をやった際にはこんなことがあった。

 いつも通り、満員とはとても言えない客入り。

 入り口に車椅子でつっかえている女性が居た。

「サンゴ、押してやれ」

 アオツキ博士に言われて、緑瞳の女の子『サンゴ』が車椅子の女性を手助けする。他に客も居ないのでそのまま一緒に作品を見て回った。鑑賞しながら女性は身の上話をし始めた。

 いわく彼女は昔から身体が弱く、よく兄に面倒をかけていたらしい。非常に妹想いの兄で、外出もままならない彼女の代わりにあちこち旅をしては、その話を面白おかしく聞かせてくれたそうだ。まるで少し前のトニックとアオツキ博士みたいな関係だなとサンゴは思った。

 女性が帰った後アオツキ博士にそれを話すと、驚いた顔をして、トニックの遺品の中から一冊の手帳を引っ張り出した。そしてそれに貼ってある写真を見せながら「この人か」と尋ねるので、サンゴは「多分そうだ」と答える。詳しいことはサンゴには分からないがどうやら何かの縁があったらしい。

 手帳は無事、在るべき場所へ返された。

 ……そんなこんなで終戦から十三年。

 トニックの死からちょうど十年。

 アオツキ博士とサンゴは墓参りに戻ってきた。

「助手ぅの遺品を整理していたらサンゴから貰った孔雀石が出てきてな」

「ずっと持っててくれたんですねトニックさん」

「ああ、変なところで律儀な奴だよ。……そういうわけで、その孔雀石で花火を作った」

 ランタンを墓の前に置いて上部のツマミをひねる。すると灯火の上に火薬がサラサラと流れ落ちて、小さな花火になった。『花火付きランタン』である。

 青い火花に照らされながら二人は目を閉じ合掌する。

「私がそっちに行くのはまだ先になりそうだ。もう少し待っていてくれ、トニックよ」


 世界の片隅で、花火が上がる。

 また誰かが過去になっていく。

 これはそんな『夏』の終わりの物語だ。

『戦場の枕花』ー終ー

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