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018 強く在れ

「嘆き喚け劣等――おまえに与える慈悲はない」



 間合に侵入した騎士の首が地面に転がり、続く刃が手前の騎士を真っ二つに両断した。

 


「……へ?」


 一秒にも満たぬ時の流れで二つの惨死体を作り上げた俺は、恐怖を浮かべ硬直した騎士へ向かって腕を伸ばす。

 重量のある甲冑と男の体重などもろともせず首を掴み宙にあげた俺は、鎧の隙間から刀を差し込んだ。



 これで三体。廊下に男の落下音が響いた。



「な……何で、だよ……! 嘘だろ、雑兵じゃないんだぞ……! おなじ騎士だぞ……!!」



 余裕の笑みはどこへやら。わずかに怯えを滲ませたエルザ・エリトンは、悠々と歩を進める俺を見遣り、後退る。

 


「どうした、惚けている暇はないぞ。命令を飛ばせ。檄を飛ばせ。剣を構えろ。身命を賭して、俺を殺しに来い」


「ッ――こ、殺せ!! 躊躇うな、全員でいけ全員でッ!!」



 エルザの声で我にかえった騎士たちは、戸惑いながらも剣を振り上げ――しかし、間合に入った奴らから順に膝を折っていく。

 相手にならなかった。

 鍔迫り合いにすら至らない。

 俺はまだ、一度たりともスキルを使用していないのにも関わらず。



「かの【ガリーザ・エルトス】が聞いて呆れる」



 首が転がり、剣ごと上半身を斜めに切り落とし、大将首エルザへ近づいていく。

 彼が用意した騎士たちは、死した者以外すべて戦意を消失し、膝をついて震えている。俺に立ち向かおうとする気概のある漢は、だれ一人もいなかった。



「親父から何を学んだ? あの背中のいったい何を視てきた? 期待はずれも甚だしい」


「あ、あ、あ……っ」


「この調子だと、ほんとうに喰らっちまうぞ――親父」



 立ち止まり、随分とちいさくなったエルザ・エリトンを見下ろす。まだ一度たりとも剣を結んでいないのにも関わらず、彼は尻を突き、恐怖を隠すこともなく全面に押し出し震えている。涙が溢れている。



 すっかり興醒めとなってしまった。

 あんなに恐れていた騎士団が、その実取るに足らない雑兵の群れだとは。

 こんなものの庇護下にあったのか。かつての俺は。

 そう思うと笑えてきた。

 刀を、振り下ろす。



「っ――ヒィぃぃぃっ!?」



 間抜けな悲鳴をあげて驚愕するエルザ。甲高い剣戟をかせて、刀はエルザの目前で受け止められていた。

 


「まあ、そうだわな。かわいい孫を見殺しにするあんたじゃあねえ」


「ほっほ。お久しゅうございまする、若様。少しばかり見ぬうちにこれまた大きく成りおおせましたなあ。この爺や、背筋のゾクゾク感が止まりませぬ」



 俺の真横に立ち、エルザを庇うように剣を差し込む白髪の老紳士は、片眼鏡モノクルの奥で静かに煮える炎をみせた。

 


「お、お祖父様……! なぜ、ここへ!?」


「エルザ、私のかわいいエルザ。このお方を前にし、その姿はまあ仕方がないとはいえ……それでも先立つ老師としてこう言わざるを得ない。――騎士ならば、命令に忠実であれ。死を恐れるな」



 老紳士の姿がブレる。刀が弾かれ、天井スレスレを舞った老紳士が音速の刺突を繰り出した。

 年老いているとはいえ、技のキレは一切の衰えをみせていない――感嘆と共に、都合十二の刺突を捌き切り、着地と同時に肉薄する。



 左下から刀を袈裟に滑らせるも、まるで水に流されたかのような手応えのなさ。スキルを使っていないとはいえ、殺す気で振り抜いた一撃が、いとも容易く捌かれる。

 

 

 続く剣撃も同様に、静謐さをまとう流水を相手にしているかのような感覚をおぼえ、俺は一旦距離をとった。



「……さすが、親父の右腕だ。おまえの受けはもはや神業の域だよ。その歳でまだ健在か」


「ほっほ、若様にそう言っていただけるとは、至極光栄ですな。しかし……枯れ枝のごとく老体の心を滾らせる剣技を、かような歳で体現なさるとは……。

 若様、素敵な御仁()となられおおせたこと、再三と喜ばせていただきたい」



 目を真一文字に結び、悦びにも似た面貌を浮かび上がらせた老紳士――ザリシュ・エリトンは、半歩身を引いて、剣を擬す。

 痩せ衰えた肉体から、戦意が発露する。



 これまで感じたことのない威圧感、敵意、そして興奮を全面に押し出したザリシュは、恍惚と嗤う。



「さあ、若様。あなた様の成長を手向けに、この爺やを満足のもと逝かせていただきたい」



 自身の興奮をそのまま戦闘力に換算するスキル。噂に聞いていたが、厄介なことこの上ない。

 卓越した受けの技術に加え、攻めにまで手を広げはじめる老紳士。ザリシュの興奮度が、いったいどこまで上がるのかはわからないが、下手すると親父に匹敵するかもしれない。



 俺の今の剣技では、あの卓越した受けを越えれない。

 それは先の差し合いでわかった。

 このままだと、俺は親父の右腕――ザリシュ・エリトンには勝てない。



「——く、は」



 自然と、無意識に。

 喉から迫り上がってきた愉悦が、屋敷を衝いた。



「ハハハハハハハハハハハハハハ——ッ!!」


「どうか……しましたかな、若様?」



 腹を抱えて笑う俺に、老師は訝しく警戒する。



「いや、純粋に嬉しくて。まだまだ俺は、強くなれるんのだと実感できた」



 そう、今のままでは勝てない。

 久方ぶりに現れた堅牢な壁を前にして、俺は強く願う。

 


 まだ強くなりたい。強く在りたい。強く在り続けたい。

 何者にも負けぬ、強靭な強さを。



「加減は、できそうにない。死力をもって引き摺り下ろしてやる」



 ニヤリと頬肉を釣り上げて、刀を構えた。

  




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