異界の迷子と精霊5「水浴び」
「ふあ〜っ、気持ちイイー!ね、リクト?」
「うん…すごくとっても」
スーシアがご機嫌で話しかけて来るが、リクトは何となく目を逸らしていた。
「なーにシケたツラしてやがる?もう音を上げたか」
「ダグワット、昨日現れたばかりの«迷い人»だぞ。初日から狩りではきつかったろう、明日はゆっくり休んで疲れを取るがいい」
「グリストは甘い。甘やかすとロクな事にならんぞ」
「ねぇねぇ«迷い人»さん、どうやったら矢があんなに飛ぶの?«迷い人»さんはどこから来たの?魔法使える?」
「ちょっとノーツ、«迷い人»さんはリクトと言うのよ。そんなに質問責めにしたらリクト困ってるじゃない」
「でもニーナ、あの力の秘密を知りたくない?」
「そ、そりゃ…」
「おいおい、お前らその辺にしとけ。リクト、俺の当番は3日後だが、一緒に行くか?」
「は、はい。タミルさんも弓使いでしたよね。よろしくお願いします!」
「タミルでいい。敬語もいらん。畏まられるのは苦手なんでな」
「わかりまし…っと、わかった。タミル、よろしく」
リクトは守備隊の面々と共に湖の一角、温かい水の湧く場所にいた。いわゆる温泉である。リクトが期待…もとい心配した通り、男女が分けられる事もない天然の露天風呂だ。
ただし、全員服を着たままだった。リクトも昨日ナタリーに貰ったエルフの服に着替えている。
エルフの服は特殊な加工で、水を吸って透ける事も重くなる事もない。表面に付着した水は空気に触れるとすぐに乾いてしまうため、そのまま水に入って身体が濡れても大丈夫。雨の日も安心だ。水洗いも出来ないのだが、汚れも付きにくいし、もし汚れたら別の方法で綺麗にするので問題ないそうだ。無念。
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この日の夕食は里の人々が広場に集まり、肉をふんだんに使った豪華な料理が振る舞われていた。酒もあるようだ。
今日の狩りでたくさん獲れたので、里のみんながお祭りムードではしゃいでいる。ダグワットが獲って来たような大物はそういつも獲れるものではないのだ。保存用の干物にする分を別にして、しばらくは肉をたっぷり食べられるとみんな嬉しそうだ。
「皆に言っておこう」
大きくはないが張りのある声に、騒がしかった広場がすっと静かになった。手を挙げて言葉を発したのはクロディーヌ様だ。
「スーシア、リクトをここへ」
好奇心に満ちた目がリクトに向けられる。
「既に知っている者もいるだろうが、昨日現れた«精霊の迷い人»、リクトだ。今日から守備隊と共に行動してもらっている。エルフの弓を扱えるそうな。皆もリクトが困っていたら手助けしてやるように」