異界の迷子と精霊2「里の長」
ふと小さな明かりが灯る。と、周りに同様の小さな明かりがいくつも現れてふよふよと浮かんでいる。なにか魔法のようなものだろうか…ともかく明かりは有難い。
長いハシゴを登りきると広場があり、幾つかの建物が建っている。広場を囲むように伸びた太い枝が道となっているらしい。
スーシアは広場に面した大きめの建物へリクトを案内した。集会所だろうか、ログハウス風の建物の中は思ったより広い。先に登っていたスーシアが話を付けていたのだろう、そこにいたのはエルフとしては年配と思える人たちで、その中央に座っていた女性が立ちあがる。
「なるほど、確かにこの者は«精霊の迷い人»のようだな。しかし…」
スーシアや周りの長老風の人たちの態度を見るに里の長だろうか、年齢不詳の美しい女性は眉をひそめて言葉を切った。内心まで見透かすような目でリクトを見詰める。
「クロディーヌ様、この者は」
「うむ。分かっている」
「«精霊の迷い人»よ、我らエルフは掟に従いそなたを歓迎する」
クロディーヌ様と呼ばれた女性は何か言いたげな長老を制し、リクトに向き直って言ったが、言葉に反してその表情は歓迎している雰囲気ではない。
しばし沈思した後、クロディーヌ様が顔をあげる。長たるもののカリスマというやつか、誰にも何も言わせないという迫力に満ちている。
「スーシア、そなたが見付けたのだ。守備隊と共にそなたが面倒を見よ」
「はい、クロディーヌ様」
「守屋のひとつが空いていたな。案内してやれ。後で食事を運ばせる」
「他の皆は残れ、話がある」
「ありがとうございます」
リクトは深々と頭を下げた。何にしても、右も左も分からない状態では安全そうな寝床と食事は有難い。
「…変ねぇ?クロディーヌ様、いつもはあんな風じゃないんだけど」
「まぁいいわ、付いてきて!」
建物の外へ出るとスーシアは元気に駆け出そうとして思い留まり、ゆっくり歩き始めた。
「クロディーヌ様はエルフの長、この里だけでなく全てのエルフを治めているの。さっき集まっていたのは里の長老たちで、過去に現れた«迷い人»の事を知っている人たちよ」
スーシアの明るい笑顔がリクトの緊張を解してくれた。