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プロローグ
柑橘系の匂いが鼻をかすめた。
ふと左を向いたその時、バイクは横転し目の前が真っ暗になった。
僕は死ぬのだろうか。意識が遠のいていく中、そう思った。
自分がもし死んでしまったら……家族や友達のこと、そして自分自身のこと。後から考えれば色々あったはずなのに、真っ先に頭に浮かんだのは「彼女」の存在だった。
ゆっくりと目を開けてみる。
どうやら命は助かったらしい。
知らない内にベッドに寝かされていて、視界には覚えのない天井、知らない人たちが映る。
そして僕を襲うのは不安という感情。
いや、待ってくれ。
――僕は一体誰だ?