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第83話 運命の歯車が軋み始める

 念の為、酒に浄化をしてから、夕食をとる事になった。今日は宴会だ。また立食パーティ。そして、ルナも居る。


 リン様が、ルナを見張ってくると言うやいなや彼女のもとへ静かに近づいた。入れ替わりで、コグニス様がそっと私に耳打ちする。



 《今日の儀式の時間、口寄せをしなくていいわ》


「……え?」


 《ルナをなんとかしなきゃ、この状況は絶対よくならない。で、リンの未来視によれば、あいつは明日になるまでに、この王宮全体に強い呪いを一気にかけようとしてるみたい。ハルカでも浄化できないほどのね。だから体力を温存しておいて、今日のうちに片を付けとくの。この未来を変えるために》


「……なるほど」



 コグニス様は、いつもの金色に輝く瞳に、いっそう強い光をたたえている。それに気圧されてか、この後待ち受けるぶつかり合いを思ってか、自ずと身がすくむ。


 そんなときだった。



「あなたが、ハルカさん?」


「……えっ」



 突然声をかけられる。振り向けば、ちょうど話題に上がっていた人物だった。心臓が跳ね上がる。



「さっき、いきなり手招きなんかしてごめんなさいね。だけど、急だったとは思えないほど、わたくしの踊りにあわせてくだすって……。これが、踊りで会話するってことですのね。素晴らしい踊り子さんと一緒に舞えて本当に光栄ですわ!」


「……え、えっと……どうも」



 ルナと、仮面越しに目があった。やはり三日月のようで、笑っている。だが、次の瞬間。



「……ああ、ハルカさんは踊り子ではなくて巫女さんでしたわね。この後の儀式、楽しみにしておりますわ」



 その瞳が、声音が、突然鋭い光を帯びた。


 何か返事をしようとするが、息が詰まってしまってうまく声が出せない。一拍遅れて頷こうとした時には、既に彼女は別の場所へと踵を返していた。人魚の踊りのように、軽く滑らかな足取りで。


 しばらく、彼女から目を離せずにいた。リン様はずっと見張ってくれているが、私も聞き耳を立てる。



「わたくし、旅の踊り子でして、ついこの間は東の帝国で公演させていただきましたの」



 その言葉は、聞き捨てならない。それは周りの者たちもそうだっただろう。



「帝国に関して、何か情報は持っておられるかな」


「ええ。演技とは、このような厳かな城で開くこともあれば、人々の言葉の飛び交う前でそっと披露することもございますから。噂話、機密情報、さまざまに耳に入りますわ。……それで、どうして、帝国のことを聞こうとなさるのです?」


「隣国であるゆえ、これより手を取り合わねばならぬからな。よく知るに越したことは無かろう」



 ああ、この話し相手は、ルナに戦争のことを漏らしてはならないと考えているのだろう。


 むしろ、彼女が始めさせているようなものなのに。


 そして、案の定――



「そうですか。僭越ながら、わたくしは、あまりお勧めしませんわ。何でも、魔族や魔物を味方につけてこの世界を支配しようと密かに目論んでいるとか」



 ――呪い抜きで、敵意を煽る情報を流す。ちなみに、コグニス様いわく、この情報は真実らしい。ただし、もちろん、味方につけているという魔族はルナの仲間だし、魔族に唆されているという方が正確なのだが。つまり、この王国と同じだ。


 もちろん皆、そのことを知らない。一瞬、彼女の周りにざわめきが起こる。ルナは、そんなこと気にしないという風な様子で、更なる情報を告げていく。ある意味、魔力なしで、帝国への敵意を喚起する呪いをかけていたのだ。



「そうか……」



 誰かがそう言ったあと、かすかに私の方へ向かう視線を感じた。私は視線を逸らし、再び食べ物へと目を向ける。


 左手には、いつでもスキルを発動できるよう、密かにお札を握りしめていた。


 宴会中、彼女の周りに紫色の靄が現れることもなければ、彼女が雲隠れすることもなかった。人の目があるからだろうが、この間に私の力を使う場面がなかったのは救いだ。体力を温存しようと、いつもより多く料理を食べた。この美しい料理にも、すっかり慣れてしまっていた。


 ☆


 神託の時間になった。私は、いつものように、祭壇の上に立つ。


 しかし。コグニス様との打ち合わせ通り、口寄せのスキルは使わない。



「本日は、火急のお告げがございますゆえ、神を召喚することはいたしません。ですが」



 私がそう言ったすぐ後、私の背後に黄金色の光の球が浮かぶ。



 《『神の声は聞こえるので私の口から代弁する』!》


「神の声は聞こえますので、私の口から代弁させていただきます」



 私の身体に憑依させるのではなく、コグニス様が後ろから耳打ちする言葉を私が座ったままで代弁する。そうすれば、少しでも体力や魔力を温存することができるのだ。



「まず初めに――皆様、騙されてはなりません。あのルナという踊り子は、いずれ我々の敵となる者です」



 言ってしまっては混乱を招くだろう。だが、それと、皆を守ることができる可能性を天秤にかけた。コグニス様も私も、そしてリン様も、全ての真実を話すという結論に一致したのだ。


 儀式の間がざわつくことは、避けられない。その空気に、私はまた怖気付いてしまった。しかし、コグニス様がそっと私の肩に手を触れる。大丈夫、と言わんばかりに。それでまた落ち着いて、さらに言葉を続けた。


 彼女が魔族であるということ。長年、葡萄酒に呪いをかけ、皆の心を操って対帝国戦を唆してきたこと。先ほどの舞にもその呪いが乗せられていたこと。その狙いは人間対魔国の争いを魔国側に有利に進めることであり、だから帝国にも魔族がついて同じように惑わせているということ。……等々。


 ここまでの謎の数々が、ルナの出現によって繋がった。


 だが、それを私の中で完結させてしまっては意味がない。


 なんのために、私はここにいるのか。神様の言葉を人々に伝え、この戦いを止めるためではないか。



「いま、コグニス様の憑依を受けてはいませんから、信じるか否かは皆様にお任せします。ですが、パフォーマンスの時、彼女の周りに紫色の靄を見た人も少なくはないでしょう。彼女の舞は確かにこの上なく美しかった。しかし美しいものには棘があるとはよく言われております」



 私は、()()()()()()()、さらに続けた。



「かつての勇者パーティで、あの時代の巫女が活躍したのをご存知でしょう。たとえ周りの皆が彼女と異なる意見を持っていたとしても、最終的に従ったからこそ、数千年の平穏が保たれた……と。皆様の耳には痛くとも、これが神の言葉と知り、受け止めてはいただけませんか」



 そう締めくくって、口を閉じる。


 一瞬の沈黙。半ば冷たい空気が、その場に張り詰め、支配する。


 だが、ややあってそれは破られた。ルナの、鈴のような声によって。



「いいえ。実はわたくし、言い出せていなかったのですが……あちらのハルカさんこそ、偽物ですわ」

敵キャラとぶつかり始めて、いよいよ状況が動いてまいりました。一応プロットは組んでありますが、筆者の頭は沸騰寸前です……

わかりにくいところ、論理の破綻、等々あれば教えていただけますと嬉しいです。引き続き、感想欄はなろうユーザー様以外にも開放しております。また、ブクマや評価、レビュー、応援をいただけると、飛び上がって喜びます!! よろしくお願いいたします。

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