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第75話 意外な再会

「皆のもの、よくぞ集まった。今代の巫女の出現とコグニス神のご降臨を祝し、乾杯!」



 ヴィレム王の音頭。今夜はどうやら、諸侯を招いて祝宴を開くらしい。赤茶色の絨毯の上、純白のシルクのクロスがピンと張られた小ぶりなテーブルがあちこちに置かれ、それぞれの真ん中でグラスのぶつかる音が甲高く響く。不協和音が咲き乱れた。


 立食パーティなんて初めてだ。大きなお皿の上に、豪勢な料理が盛り付けられていて、好きなものを取っていくスタイル。しかしその盛り付けもまた美しくて、とても崩すのが惜しい。それに、何より、周りの人たちはみんな王族か貴族。私などが手をつけていいものやら。


 ついでに言えば、いま手に持っているグラスに注がれているのはお酒。


 この国で、18歳は成人。ここに籍を置いている以上、もう飲酒は許可されているのだ。しかし、もしハタチになるまでに日本に帰ることがあって、それまでに私がお酒の味を覚えてしまったら。というか、そう深く考えなくとも、やはり抵抗感しかない。葡萄酒だろうか。深い赤紫色の液体。濃厚な甘い香りは、それだけでこの飲み物の素晴らしさを物語っている。だがそれに混ざるアルコールのツンとした匂いに阻まれ、どうしても口をつけることができない。



 《……これ、飲まない方がいいかもしんないねえ》



 突然、コグニス様が背後から私の手元を覗き込んで言った。



「あ、やっぱり?」


 《ん? ハルカも気づいた?》


「……え? 気づいたって、何に?」


 《あー、ただ抵抗あるってだけだったか。うーん、いや、何でもない》


「いや、言ってよ」


 《リンも気づいたよね……って、あれ?》



 少し話をするうちに、リン様の姿が忽然と消えていた。


 パーティ会場の出入り口をふと見れば、燐光をまとった少女が大急ぎで駆け出しているのが見えた。



 《あの子、案外行動派なんだねぇ。……あ、ハルカはついていかない方がいいよ。多分普通に帰ってくると思うし。私の下手くそな未来視がそう言ってる》


「……分かった。でも、なんなの?」


 《後で部屋で言うね。さっきの話の続きかな。あぁ、食べ物は好きに食べたらいいと思うよ》


「……そっか、じゃあ後でちゃんと教えてね?」



 テーブルにグラスをそっと置き、未だ落ち着かない気分のまま、白磁の取り皿を左手に、フォークを右手に構えた時。



「ハルカ殿、楽しんでいるかね」


「ユリウスさん! ……ええと、その、どう振る舞えばいいかわからないです」


「ははは、素直でよろしい。そうか。しかし、腹が減っては戦ができぬとも言うから、気兼ねなくお食べ。君は普段から礼儀正しいし、少しぐらい所作が悪くても誰も咎めぬだろう。何より、今日の口寄せの儀式、誠に素晴らしかった。このパーティの主役は君なのだから、堂々としていなさい」


「お気遣い、ありがとうございます」


「なに、気にせずとも良い」



 やはりいい人だ。すっかり浮いている私を気遣ってわざわざ話しかけてくれるなんて。


 少し気持ちがほぐれたので、改めて、料理の数々に視線をめぐらせる。


 どの料理も、既に半分ほどになっていた。初めに比べて無秩序な見た目なのが惜しいやら、逆に気兼ねなく食べられるのに安堵するやら。これまでの生活では馴染みのないような料理も多かったので、直感で選んで少しずつ取り皿に取っていく。


 いずれにせよ、その美味しいことは言うまでもない。王宮というだけあって、王国で最も腕の立つ料理人が専属となって、高貴な身分の方々の召し上がるものを作り上げているのだろう。盛り付けの見た目だけではない。味覚や食感すら、もはや芸術と言えるかもしれない。


 あれやこれやと気になったものを口に運んでは目を輝かせていると、背後に突然、どこかで聞き覚えのある声を感じる。私と同じぐらいの年齢の少年……だろうか。


 反射的に振り向くと、その声の主もこちらに気づいたらしい。目が合うや否や、「あれ?」と声をあげる。



「ねえ、君、もしかしてユーリの彼女かい?」


「えっ? ……あ」



 腰には虹色の光を纏った剣。ツンツンとたった金髪に碧眼。確か、去年の体育祭の剣戟で出会った……



「ルイ……くん、でしたっけ?」


「やだなあ、敬語はやめてよ。僕たち友達だろう?」


「えっと……1回しか会ってないような」


「同級生だし、仮にも1回剣を交えたんだから友達だよ。まあ、君も女の子だから、僕の手にかかればすぐ友達じゃなくって恋人にしちゃうかもだけどねっ」


「いいえ、既にユーリの彼女なので」


「冷たいなあ。冗談、冗談さ。いやあ、お幸せにね」



 ……思い出した。見た目はイケメン、中身は女たらしの勇者様だ。彼の口説き文句のような何かを全否定しても、へらりと笑って真っ白に輝く歯を見せる。



「あら、ハルカさんじゃない?」


「あ、ヘレナさん!」



 続いて、ルイと一緒にいた何人かの少女が駆け寄ってきた。そのうちのひとりは、B組の魔導師、ヘレナだ。紋章のついたローブを見てすぐに分かったが、今日はそれを頭から被るのではなく羽織って身につけていた。彼女もまた、剣戟で初めて顔を見た少女。真っ直ぐに伸びた艶やかなブロンドヘア。端正な顔立ちに、瞳が紫色に輝いている。



「わあー、クラス違うけど覚えててくだすったのね」


「そりゃあ、B組は実習でよく一緒だったから!」


「ハルカさん、もう学校中の有名人ですわよ。またお会いできて嬉しいわ!」


「こっちのセリフ! まさかここでリヒトスタインの人に会えるなんて」



 僕だってリヒトスタインの生徒なのになぁ、とつぶやくルイをすっかり無視して、フレアはうんうんと頷いて口を開く。



「ハルカさんはここで暮らしていらっしゃるのね。わたくしは今日、ソレイユ家の者としてお父様と一緒にお呼びをいただいて」



 そうか、この宴会には諸侯を招くと聞いていたが、ヘレナは貴族の令嬢としてここに来ていたのだ。一気に遠い人のような気がしてしまう。だが、次の瞬間にはまた懐かしさが蘇ることとなった。



「ソフィアもステラも、みんな元気ですわよ。王城から戻ったらすぐ会いたいって、今日移られたばかりなのにみんなそう言っていますの」


「わぁっ、本当? よかったあ……! あの子たちによろしくね」


「ええ、もちろん。伝えておきますわ」


「ありがとう!」



 そんなやりとりをして暖かい気持ちに包まれているうち、ひとり、少し小柄な少女が別のテーブルからこちらに駆け寄ってきた。

久々なキャラクターを何人か出してみました。

ルイのことは『第49話 仲間と一緒に』、ヘレナのことは、第一章の閑話『2人の太陽の子』で描かれています! 誰だっけ、となった方はそちらを見ていただけると嬉しいです!

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