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第74話 ちっちゃな喧嘩とおおきな真実

少し、物語が動きます。

 部屋に戻る。外が暗いので、部屋の灯りが色濃く見える。だがそれにも増す輝き――燐光を纏った少女と、陽光に包まれた女性が、出迎えてくれた。


 コグニス様が両腕を広げながら駆け寄ってくれたので、私はそれに応えて抱きついた。後ろの方でリン様が何も言わずにニコニコしながらこちらを見ているのは、コグニス様の勢いに気圧されてだろうか。



 《お疲れ様ー、初仕事だけどよくやったじゃない!》


「ありがとうございます!」


 《あぁそうだ、もうタメでいいわよ。頼りない子だったらどうしようかって思ったけど、正真正銘の巫女様だってわかったから》


「わあ、嬉しい! 光栄です、ありがとうございます!」


 《だーから、タメでいいって言ってるじゃないの》


「あ、はい……じゃなくてうん」



 何度目かのやりとり。何回繰り返すのかとツッコミが入りそうだが気にしない。そもそも私は敬語の国・日本の生まれだもの。3人で和やかに笑い合って、ようやく、気持ちが落ち着いたというか、普段通りという気がした。


 ある程度落ち着いたので、聞いてみる。



「ねえ、コグニス様……さっきなんて言ったの?」



 私がそう問えば、コグニス様は何かバツが悪そうな顔をして目線を逸らした。リン様はといば、ジトーっと半目になって彼女を見ている。



 《えーと、そのぉ……それについて、さっき、リンに怒られたんだよねえ……》


「え、どういうこと?」


 《まー、その、ハルカが来るちょっと前に、喧嘩……しまして……》


「えー、何があったの」



 コグニス様とリン様が変わるがわる、ことのあらましを教えてくれた。


 ☆


 遡ること数十分。



 《ふいー、神託終わりおわり! いやー、あの子すごいや》


 《コグニスよ、なにゆえ、かのごときことを言いたりや(言ったの)?》



 コグニスがハルカの部屋に入るや否や、先に戻っていたリンが鋭い声で彼女を咎めた。口寄せのスキルの発動が終わってすぐ、リンは儀式の間を飛び出してコグニスを待ち受けていたのだ。



 《え? だって事実でしょ?》


 《まことなりとも、必ずしも言うべきにはあらじ。なかなか(中途半端)に告ぐるは、人を惑わすこととならん》


 《うーん、まあ、そうだねえ……だけどさ、せっかくハルカちゃんの身体を借りて儀式の場所まで作ってもらって、お告げとか大仰なことしてんのに、知ってること言わないでおいて結局神託の意味なかったーなんてなったら申し訳ないじゃん?》


 《されど……口寄せは行く末に幾度かあり。はやるはわろからん(焦るのは良くないよ)。かの者ども、口寄せによりてまことを知るこころなく、ただ安らがん(安心しよう)とするに》


 《そんなもんかねえ、それじゃハルカちゃんが可哀想でしょ。結構体力使うのに》


 《口寄せ終わりしのち、めぐり数多の者どもに不興なる気色したるを見しハルカのやさしき(肩身の狭い)こころを知らざるか?!》


 《でもー……》


 《コグニスは心をぞ読まるる。さればなお知るべし。ついには言うべきことなれど、今ならじ》


 《んー、そうだね。うん、はい。わかった。後でハルカには謝っとく。反省します》



 そうこうしているうちに、廊下でハルカの足音が聞こえてきた。


 あまりにノリの軽いコグニスを見て、初めは不服そうなリンであったが、ハルカとの抱擁を見ると思わず笑みが溢れた。よく見れば――いや、注意深く観察しなくとも、ハルカが疲労していることはわかる。死霊を呼び出す以上に、神を自らの身体に憑依させることは、多くの体力を消耗するのだ。ならば神託の回数を減らし、わかっていることは全て伝える……これがコグニスなりの気遣いなのだろう。そのことがようやく分かった時、リンの不機嫌な気持ちは解けた。


 ☆


 とりあえず、私の儀式が終わってからあったことは分かった。


 コグニス様は何かを言った。それが時期尚早だったから、険悪な雰囲気になってしまった。確かに私はそれで怖くなってしまって……リン様は、そのことを気遣ってくれている。


 だが、肝心なことがわからない。



「ふたりとも、優しいんだね……ありがと。それで、結局神託の内容ってなんだったの?」


 《そうだった、そうだった。えっとね。まあざっくり言うと、魔国が変な動きしてるから人間同士が協力しなきゃなのに、それを惑わす人がいて、今のままじゃ世界は魔物に支配されちゃうってことよ》


「えー、えっと?」


 《魔国……というか魔族とか魔物って、私の管轄外なんだよね。だから人間が魔物のこと知ってるのと同程度にしかわかんないの、ほんとはね。正直言って仲良くして欲しいんだけど、読心術もうまくいかないし》


「えっ、そうなの?」


 《そうなのよ。私はあくまでヴァイリアの人間をまとめてる神だからね》


「へえ……意外」


 《人間のことはみんな、ひとり残らず見てるのよ。で、気づいたの。王宮の側に、なんか怪しい人居るなーって》


「……え?」


 《そうそう。ヴィレム君のことはずっと見てるけど、戦おうとか言うタイプじゃないのに最近おかしいなって思ってたんだよね。それに、使用人の心とか暇な時にちらっと覗いてるけど、なんかどうも時々ノイズが入るっていうか》


「……」



 ブログ感覚で人の心を覗いたらプライバシーは大丈夫なのか、などと呑気なことを言っている場合ではない。



 《けどまだよくわかんないんだよねえ……()のように全知全能には程遠い、まあ下っ端の神だもんで》


「……そんな、ことは……」


 《……だけどね。この戦い、魔国の誰かが促してるよ、きっと。それで、そいつが人を惑わして、人間に勝とうとしてるの。まだ憶測だけど。だから、こんな戦いさっさと辞めて、人間が団結する方向に向かわなきゃまずいのよ》


「なるほどね……」



 どうやら、一筋縄では行かないようだ。確かに、この現状は早いうちに知られねばならない。厄介なことになる前に、人々が自衛することもできるだろうから。


 だが、リン様の言い分もわからなくもない。


 誰かが王国を惑わしている。しかしそれが誰かはわからない。そんなことを言っては、犯人探しも始まりかねない。王宮内で混乱しては、戦争以上に厄介なこととなるだろう。



 《んー、やっぱり戦略とかそういうのはわかんないなあ。リンの方が頭いいもんね。まあ最悪、やろうと思えば記憶操作だってできるし、もしハルカちゃんがピンチになったら全力で守るからね。前にも校舎の裏で言ったかもしれないけど》


「……頼んだよ? 私も、全力で止めてみせるから」


 《ハルカを危うからしむる(危険な目に遭わせるの)は許さじ。我はいかなりともハルカとともにあらん》


「ふたりとも、頼もしいよ。ありがとうね」



 そうしているうちに夕食に呼ばれ、また宮殿に来たばかりの時のような和やかさとともに、3人でダイニングルームへと向かった。

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