表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

67/119

第64話 新しい力を手にするということ

「うわぁ、まじか……!」



 精霊術師の最高スキルと言われている【精霊の加護】を習得してしまった。精霊術師ではなくて巫女なのに。きっと届かないだろうと思っていたものに、案外あっさりと手が届いた気がして、高揚感とも拍子抜けともつかない、なんだか変な気分だ。


 その後、他の属性の精霊でもやってみたり、魔法の遠隔操作の呪文を色々試してみたり、()()()みたり――いや、撫でるのはいつも通りだけれど。


 下校時間が近づいたので、もう一度、ギルドカードを見てみる。



『ギルドカード (リヒトスタイン支部発行)

 氏名:ハルカ・カミタニ

 年齢:17歳

 種族:ヒューマン

 職業:巫女〈A〉

 適性:光

 職業スキル:【神の光=7】【精霊使役=7】【神楽舞=5】【口寄せ=4】【加持祈祷=4】【精霊の加護=2】

 追加スキル:【光の矢=1】【光の壁=1】【光の盾=1】【光の加護=2】

 未取得スキル数:2』



 未取得スキルがまだある。もうだいぶ、スキルを覚えたような気がしていたけれど、まだまだらしい。


 でもランクがAにまで上がっていた。ユーリと同じだ。隣に居ていいと言われたような気がして、嬉しくなって、ふたり顔を見合わせて笑い合った。



「ユーリ。今度は、光魔法を教えて欲しいな。せっかく、魔力を得たみたいだから」


「あぁ、そうだな。……でも、俺の適性は氷だから、光魔法のことをうまく教えられるかわからない。俺より適役はいるかもしれないが、俺でいいか?」


「当たり前よ! 適性じゃないって言ったって、ユーリはこの学校で一番魔法が出来るんでしょ? それに……大好きなひとから教わることなら、なんだって覚えられると思うもの」



 私はニヤリと笑ってそう言った。遅れて顔が熱くなり、視線を逸らせる。視線を元に戻せば、ユーリも頭を掻きながらどこか別の方向を向いていた。ややあって。



「わかった。ハルカのためなら」



 ☆


 ユーリの魔法講座は、やはり効果覿面だった。


 1週間も経てば、光の矢でもって木に穴を開け、光の壁や盾である程度の攻撃を防ぐことができるようになった。また、【光の加護】というのは簡単な回復魔法らしく、治癒師に比べれば効果はかなり弱いとしても、【加持祈祷】では治せない、魔物の絡まない切り傷や擦り傷が治せるようになった。おかげで、実習やその他の時に怪我をしても、すぐまた普段通りに動けるようになった。


 傷口に光が集まり、やがて塞がっていく様子は、何度見ても不思議だ。本当に浅い傷でなければ治せないが、赤い糸筋はするりと消え、アザはふわりと溶けるようだ。そして、回復する瞬間のじんわりとした暖かみはむしろ心地いい。尤も、慣れない魔力操作で少ない魔力を非効率的に使うので、その後の疲労は周りの子たちよりも大きいけれど。



「慣れたらすぐ、効率よく魔法が使えるようになる。魔法陣を描く時だって、ハルカはいつも勘がいいから」


「だといいなぁ……これからもよろしくね、先生!」


「あぁ、もちろんだ」



 とにかく、私は着実に様々なスキルを覚えていた。これだったら、いずれセンソウが始まっても、少しぐらいは戦力になるだろう。少なくとも、足手まといにはなるまい。


 そんな時だった。神様の様子が、何かおかしいと思ったのは。



「……ねえ、どうかした?」


 《……》


「やっぱり、何かあるんだよね……?」



 いつもの明るさが、彼女から消えていたから。寮にふたりで居ても、沈黙が流れることが増えていた。


 答える声はない。話したくないことかもしれない、と思って、私は図書館で借りた本に目を移そうとした。



 《……ハルカは、争いを好むか?》



 目を伏せながら、そう、私に問いかける神様。



「え? そりゃ、好むはずはない、よ……?」


 《されど、戦うがための力を得るを、楽しみたるに見ゆる》


「……あぁ、それは……」



 確かに、それについては反論できない。けど。



「あんまり、戦争って実感湧かないんだよね。意識してないっていうか。だから、今まで通り、新しいこと覚えるのが面白いなって」


 《……まことか?》


「ん……まあ、正直、自分でもわかんないや。でもさ、この世界じゃ、魔物とか魔族とか……結局、戦わなきゃ生きていけないじゃん。戦闘系のスキル覚えたら、ちょっとこの世界に馴染めてきた感じがするっていうか……強くなった気がするような……」


 《……ことわりなり。されど……強きことは、必ずしも良きことにはあらず》


「うん、それぐらいわかってるよ。力があっても、要は力の使い方、だよね」


 《……しかり》


「神様だって、……神が持つ力が強過ぎるから、人間界では制限かけられてるんだった……よね?」



 私がそう聞けば、彼女はコクリと頷く。無言で。


 何か他にあるのだろうか。今までの神様が、ここまで沈んだ様子を見せたことはない。けど……無理に聞き出して良いものではない。神とはいえ、人の……少女の心を持っているのだ。それぐらい、今までの付き合いでわかっている。パートナー、主、しかしその前に、ひとりの親友だから、傷つけたくない。


 とはいえ他に何か話すことがあるでもなく、私はそわそわした気分で口をつぐみ、借りてきた本を再びめくる。


 そうしているうち、しばらく時間が経った。突然、神様の、いつものように美しい、しかしいつもとまるで重さが違う、そんな声が部屋に染み渡った。



 《我はかつて人の子なりき。……はかなくなりて、目を閉じ、また目を開きしかば……我は神の世に居たり》


「……それは……いつ?」


 《ちとせの(さき)……いづれの帝のしる世なりしかは、おぼろげなれど……猛き者ども東の国を統べたりける日々は、我が知らざる時なり》



 鎌倉時代の始まる前……平安時代、神様は人間として生きていた。その時代に死んで、それから女神として崇められるようになったのだ。


 なぜ、突然その話になったのだろう。そう思ったが、私が口を開くより前に、彼女は話を続ける。



 《我、戦を厭うは、ただ戦の恐ろしきのみがゆえならず。……この国、この街……戦いあらば、いみじうありさまになりなん。後の世、我には視ゆる。神の持ちたる力によりて……》


「……そう、だろうね」


 《……我には視ゆる。この街の、我がふるさとがごとくなりたるが。おんな子どもの、在りし日の我がごとくなりたるが。我の、人なりし日の最期、重なりて視ゆる……》


「……えっ。どういうこと?」



 想定外に重い言葉が突然聞こえてきて、飲み込むのに時間がかかってしまう。



 《我が神になりけるは、戦で失せにし女を神とまつらんことで、後の世にて皆平らかに暮らすを祈るため。ハルカ……初めて、この話を語るべき時ぞ来にける》



 千年も昔の、神様の過去……親友かつ従者である私が、彼女をいかに知らなかったのか。


 それを、思い知ることとなる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ