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第61話 人の闇と神の光

「えっ……ハルカ?」



 コグニス様へ祈りを捧げ、振り返ると、ユーリが目を見開いてこちらを見ていた。



「どうしたの?」


「いや、何でもない」


「……そっか」


「今日って魔法陣数学の授業あったよな。ちょっと確かめたいことがあるんだが、協力してくれるか?」


「え? いいけど」


「ありがとう。あと、放課後、一緒に図書館に行こう」



 ユーリの様子が普段通りなのが、あまりにも意外だった。



「……ねえ、なんでそんなに冷静なの? 戦争があるっていきなり言われたのに」


「俺ら一般人は平和に暮らしてるが、ヴァイリアとグローリアの戦争のことはしょっちゅう聞くからな」


「え?!」


「王国軍だけで数日で片付けるみたいな小規模の戦争……というか紛争だったら、年に1回ぐらいはやってるらしい。本当に小さいから、国境から離れたところにいると物価ぐらいしか影響を受けないが」


「そうなんだ……仲悪いんだね」



 いかに私が何も知らないことか。



「ただ、今回みたいに、国民にあらかじめ知らせておいたり学生を巻き込んだりするのは初めてだ。きっと大規模になるんだろう」


「……ナントカ山脈の奪還が目的だって言ってたね……なんか他にありそうな言い方してたけど」


「ああ。まあ、裏があったとしてもろくな理由じゃないだろうが」


「だけど、帝国も何かしら動いてるんだよね? ほら、去年のスパイとか、帝国が王国を攻撃してた……」


「多分あれは攻撃っていうより自己防衛だろう。普段から王国に圧かけられてるから。さっき言った紛争も、どっちかというと帝国の反乱の鎮圧って感じなんだ。おそらく、王は帝国の……そういう抵抗を見てキレたんだろう。叩き潰して全部支配してやろうって感じじゃないか?」


「えぇ……」


「憶測だけど、あの王だったらやりかねないから」



 この国の王様は、国民に……少なくともユーリには、散々嫌われているようだ。軽く笑いながら話す彼の言葉に、普段の彼にない棘を見た。



「そんなことより、もうすぐチャイム鳴るぞ?」


「あっ、そ、そうだね」


「ほら、行こう」



 私は、彼に手を引かれながら廊下を全力疾走する。


 滑り込みで教室に入り、程なくしてチャイムの音と同時にクレンが来ると、早速ガイダンスが始まった。



「……まあ、決まってしまったことだから仕方がない。じゃあ、今年の予定を説明しようか。……正直、お前らが無闇に動いて命を落とすようなことにはなって欲しくない。だが、真面目に動かないと罰がある。だから、対人戦の立ち回りとか、そういうのを徹底的に学んでもらう。――」



 彼が黒板の前に立って、予定表を書き始めた。みんな、流石に危機感があるのか、一声も漏らさず耳を傾け前を見ている。魔物討伐実習が2ヶ月に1回にまで減るらしくて残念だが、そんなことも言ってられないのだろう。ある程度カリキュラムを説明し終えると、次の話題に移った。



「――さて。一応、現時点での戦中の予定を言っておこう。リヒトスタイン全体で、第五部隊を担当することになっている。王や軍師の命令を部隊に伝達するのは、ここの卒業生で今は王国の騎士団長をやってるアレックスだ。その第五部隊の中で、クラス単位でグループに分かれる。クラス担任がグループを取りまとめることになる……つまり俺だな」


「……」


「第一学年はグループごとに決められた種類の武具やら回復薬やらを作ることになるだろうし、第二学年は遠距離攻撃の魔法陣の構築とかをするのかな。第三学年……お前らは、他の部隊で戦ってる大人たちの補佐とか、場合によっては一緒に戦うこともあるだろう。もう戦争が始まる頃にはお前らも成人だしなぁ……時が過ぎるのは早いなぁ……」



 最後、クレンがしみじみと言ったとき、少し抑え気味の笑い声が静かに教室に響いた。



「いや笑ってる場合じゃないんだ、すまん。まあとにかく、今日からこんな感じで進んでいくから、理解しといてくれ」


「「「イェッサー!」」」


「……急に軍人みたいになったな、お前ら」



 こんな時でもクラスのノリがいつも通りなのが、私にとってはかなりの救いだった。


 ☆


 魔法陣数学の時間だ。


 私は、ユーリの言葉を思い出す。



「ね、ユーリ。確かめたいことがあるって、言ってたよね?」


「うん。ハルカ、今描いたその魔法陣に手をつけてみてくれ」


「え? ……わかった」



 何も起こらないはずだ。だって私の体には魔力回路が――



「えっ……何これ?!」



 突然、私の指先が光を帯びる。


 その光は激流のように、私が描いた黒い線の上を走る。



「いっ、痛っ……」



 手先から腕にかけて串で刺されたような痛みが走り、思わず手を引っ込めてしまった。


 何も起こっていない他方の手で庇いながらうずくまる。気が遠くなりそう。


 やがて、手の痺れが治まった時、うっすらと目を開ける。


 そこには。



「え、これって……」



 魔法陣の上に、小さな竜巻が出来ていた。


 渦を巻く風は、どこか光を帯びている。


 風というより、透き通るガラスが回っているようだった。……そうだ、今描いた術式では、風魔法に氷魔法を少し付与したんだっけ。


 教科書の演習問題で指示されたそのままの現象が、そこに起こっていた。



「……ユーリ、いつの間に魔力流したの?」


「いや、これはハルカの魔力だ!」


「えっ?!」



 私が彼の言葉をよく飲み込めず呆然としているうち、次の瞬間、彼は私の手を握っていた。


 編入してすぐの、あの時のように。



「やっぱりそうだ……いつの間に魔力回路が出来たんだ?!」


「嘘?!」



 私は、急いでギルドカードを取り出して見た。



『ギルドカード (リヒトスタイン支部発行)

 氏名:ハルカ・カミタニ

 年齢:17歳

 種族:ヒューマン

 職業:巫女〈B+〉

 適性:光

 職業スキル:【神の光=5+2】【精霊使役=7】【神楽舞=5】【口寄せ=2+2】【加持祈祷=4】

 追加スキル:【光の矢=1】【光の壁=1】【光の盾=1】【光の加護=2】

 未取得スキル数:3』



 ……よく分からないが、スキルが急に増えている。


 ひょっとして――これがコグニス様のご加護?

プロローグを覚えてくださっている方は、何かにお気づきかもしれませんね……

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