第58話 新しい日々
珍しく平日に上げてみました。
前回言い忘れていましたが、このお話から新しい章がスタートいたします。
新学年が始まった。
第三学年。最終学年だ。……一応は。
「ハールカ! おはよー!」
「おー、ステラ! おはよう!」
新学期最初の朝とはいえ、教室が変わる以外は何ら特別なことはない。今日もいつものように廊下でステラに会って、挨拶を交わす。
「今年はどんなクラスになるかな?」
「そっか、こっちの学校でもクラス替えってあるんだ」
「そりゃあ、3年間も同じメンバーじゃやってらんないわよ!」
「ほんとにねえ……今年こそ、同じクラスに女子いるかな……」
「あー、ハルカのクラス男ばっかりだったもんね」
「そうなのよ!」
定期考査前以外だと滅多に人の集まることがなかった、廊下の掲示板。そこに人だかりができている。
ここに名簿が貼り出され、クラスが発表されるのだ。
「えーっと、私は……」
口ではそう言いながらも、気づけば目はユーリの名前を探している。すっかり盲目になってしまったものだ。
しかし、何も問題はなかった。ふたりの名前を同時に見つけた――同じクラスで、名前の位置がすぐ隣だったからだ。なんだか、ただ同じクラスというよりも嬉しい。
「……あっ、私A組だ!」
「まじかー、あたしまたB組だよ……」
「クラス違っても今年も仲良くしてね!」
「もちろんよ! ……って、あれ?」
ステラが名簿を見て、何かに気づいたような声を上げる。
「これ、メンバー変わってなくない?」
「あれ? ……確かに、そうだね」
「先生の間違いかな?」
「けど、『新第三学年クラス名簿』って書いてる」
「じゃあ間違いないね。……ふーん、よかったじゃない?」
「何が?!」
ステラの意味深な言葉。私が聞き返すと、彼女はニヤニヤしていた。顔を耳元に近づけて、私にしか聞こえないほど小さな、それでいていたずらっぽい声で言う。
「だって、大好きなユーリ君とまた一緒のクラスじゃん」
一気に私の顔が熱くなる。
「ちょっ、や、やめてよぉ……!」
「ふふ、ハルカも乙女だねぇ」
「というかなんで知ってるの?」
「セレーナから聞いたわよー。また楽しい話聞かせてね?」
「えぇ……」
ちょうどいいタイミングと言うべきか、予鈴が鳴った。
私はA組の、ステラはB組の教室に、それぞれ入る。
ドアを開けながら、彼女は私にウインクを飛ばしてきた。
日本にいた時から……恋バナほど、苦手なものはない。
☆
教室が変わる以外は特別なことがない、と思っていたが、本当に変わったのは教室の場所だけだった。
教室に入ってしまえば、今までいやというほど見てきたメンバーが、今まで通りに騒いでいる。
座席の配置まで一緒。何もかも、今まで通りだった。新学期の高揚感など、つゆほどもない。
《ハルカよ……そなたが想いたる男は、未だ来ざるか?》
「うん、いつもそんな早く来ないし……教室来る前に図書館で勉強してるからね」
《あな、いと寂しかるらんそ、待ち人の来ざるは》
「ちょ、神様までそんなこと言うの?!」
さっきのステラといい、神様といい、年頃の女の子はみんなそんなに恋愛の話が好きなのか。……いや待て。神様は、見た目こそ等身大の少女だけど、千年以上前に生まれたという彼女は果たして年頃の女の子なのか? ……まあ、それは触れないことにしよう。
そうして、ガールズトーク――と言っても、傍目には私がひとりでギャーギャー喋っているようにしか見えないだろうから痛い――で盛り上がり、再び顔を赤くしていたところに。
「おはよう、ハルカ」
「あ、お、おはよ……」
噂のユーリの登場である。
神様は、クスクスと笑いながら少し離れたところに立った。
「顔、赤いけど、大丈夫か? 風邪ひいたりしてないか?」
「だっ、大丈夫、全然大丈夫!!」
私は手をぶんぶんと振りながらそう言ったのだが、彼はおもむろに手を私のほうに近づけてきた。あのひんやりとした、繊細な手を。そうして、指が額に触れるかどうかという時。
チャイムが鳴る。
「おーうみんな揃ったな」
「「揃ったぜー!」」
クレンが教室の前のドアから入ってきた。
私は急いで体を前に向け、彼も手を引っ込める。
《……いと口惜し》
教室の一番後ろから、神様の声が聞こえてきた。他人に聞こえないとはいえ恥ずかしいからやめてほしい。
今年もまた、私は一番後ろの席。またもや彼の……ユーリの隣。
その喜びを再確認し、気持ちを切り替えてクレンの言葉に耳を傾ける。
というか、クラスメートだけでなく担任も変わらないとは。
「まずはみんな、進級おめでとう。クラス名簿見てびっくりしたんじゃないか?」
「「またむさ苦しいクラスになっちまった!」」
「またミハイルと同じかよ!!」
「それはこっちのセリフー。なんでまた愚兄と一緒なのー」
「ミハイル、流石に辛辣すぎねえか……?」
「あはは、いつものノリだよー」
「その通り。今年も同じメンツ、ハルカを除けばまた男ばっかだな。実は、今年はクラス替えをしないことになったんだ」
「「何故だー?!」」
「今年こそハーレム期待してたのに!」
クラスはいつもの調子で盛り上がる。だが、それと裏腹に、クレンの口からツッコミが飛ばない。クレンが真剣な顔をする。ひとりの男子のボケは、急に張り詰めた空気の中でふわりと溶けていく。
「それも含め、大事な話がある。この後体育館で始業式をするが、その時に校長から話があるはずだ。話はそれからとして、だな」
「……」
「じゃあー、毎年恒例の個別面談といくか」
「「「うわあああやめろおおお」」」
毎年恒例と言われても私にはわからなかったので、ユーリに聞いてみた。
進級試験の結果を踏まえた面談がこの間あったが、それはあくまで進級前。話題はもっぱら、前年度の振り返りや現時点での自分の位置だ。それとは別で、毎年春、新学年が始まってすぐ、簡単な個別面談がある。例年ならば、新しいクラス担任との顔合わせと引継ぎがメインである。
「まあでも、もう俺らは卒業に向かっていくから……卒業したら何をしたいとか、そんな話し合いもするんじゃないか? それによって、今年しなきゃいけないことも変わってくるから」
「卒業後の、進路……かぁ」
元々私が通っていた学校は、自称ではあるがそれなりの進学校だった。だから、進路といえばおおよそみんな大学進学。模試の結果や定期テストの成績をもとに、志望校を決めるためによく面談があったものだ。ここに来ていなければ、今は高3。本来なら、本格的な受験勉強が始まっている。そっか、もう最終学年、か。
だけど、この世界で大学というものの話を聞いたことがない。それにリヒトスタインは冒険者養成学校だ。だとしたら……
「……みんなって、卒業したら何するものなんだろ?」
「ん? そりゃあ、一流冒険者として身を立てていくんじゃないのか? 貴族はよくわからないが」
「ユーリは?」
「俺か? 俺は……魔術師として冒険者を続けていきたいが……魔法の研究もしたいな。ただ、そうなると国の研究機関に入らなきゃいけない。……国に縛られるのは嫌だな」
「……凄い。よく考えてるんだね」
「まだ漠然としてるけどな。ただ、ひとつ、確実な将来がある」
「え?」
聞き返した次の瞬間、彼が茶目っ気たっぷりに柔らかく微笑んで放った言葉に、神様は笑い、私はまたもや顔を赤く染める羽目になる。
「ハルカと共にいる未来だよ」
この後少しだけシリアスになるかも。(どっちみち今の私にこれ以上のイチャイチャ(??)は書けないです泣)
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