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第55話 春風が吹くとき

 結局、例の事件は解決し、冒険者活動が冬休み前に解禁された。


 私たちのことはバレなかった。ユーリとウィンクを交わす。彼の体の傷はすっかり治っている。ポーション、使ってくれたのかな……?


 そんなわけで、至って平和に冬休みへと向かっていく。


 獣は倒すな、と念を押されたのも含めて、夏休みと同じように長期休暇が始まる……


 ……はずだった……のに……。


 何か、おかしい。



「冬休みが明けたら、また授業だな。といっても、お前らは春祭りで頭いっぱいなんじゃないのか?」


「「「……」」」



 クラスが急に静かになる。静かといえど、夏休み前の、あのピリッとした静寂ではない。



「まあー、例年通り春祭りは行う。進級試験の次の週だ。もう準備を始めてもいいが、試験も控えてるから、ほどほどにな。……ああ、ハルカは知らないか。まあ、他校では学園祭って名前で行われてるな」



 学園祭、か。


 リア充大量発生の場の代表格ではないか。私は苦手だ。まあ、日本では同じような非リア女子で集まって一緒に行動していたけど。祭り自体は楽しかったけど。


 問題は……なぜ、みんな静まってしまったのか。


 ――その理由は、放課後に明らかとなった。



「……ハルカ!」



 帰り際、ユーリに呼び止められる。



「今、ちょっと……時間あるか?」


「え、えっと……何?」


「その……来てもらいたい場所があるんだ」


「えと、どこ?」


「……体育館の裏、だが……」


「……いい、よ」



 薄々、なんの話かわかってしまった。


 ――そして、予想は部分的に的中する事になる。いや、想定外も多かったけれど。



「……ハルカ。フランマ・ドラーク討伐の時、青い光出して俺たちを守ってくれたの、お前だろう?」


「……」


「その後の実習でも、そのスキルを使ってた。【神の光】だったよね。あれを見たときにピンと来たんだ。ハルカが、俺の命の恩人だった……ということ」


「……そんなの、……」


「いや、実際そうなんだ。あの時も、俺の悪い癖が出て、でしゃばって……結果、危ない状況になったんだ。話を聞く限り、自覚はしてないようだが……その時、命を救われたんだ。お前のおかげで、今の俺がある。この間も言ったけど……何度も、お前に助けられた」


「……」


「その上、俺はお前の存在によって強くなれる。どっちにしても、俺にとって、お前は……いや、ハルカは、なくてはならない存在なんだ……!」


「……何も、そんな……」


「だから、ハルカ。よければ、俺と……俺とっ……」



 そこまで、珍しく照れたような赤い顔をしたユーリが言った、その時だった――



「「「「「ちょーーーーーっと待ったーーーーー!!」」」」」



 ――何人もの男子の、そう叫ぶ声が聞こえたのは。



「なんだよユーリ、抜け駆けするなよー!!」


「そうだ! ハルカさんと学園祭を回るのはこの俺だ!!」


「違うよー、僕だよー!」


「俺だってはっきりわかんだね」


「少なくとも兄ちゃんだけは違うよー」


「あぁん?!」


「俺であってお前ら兄弟じゃねえよ!」


「「「「「いーや、俺だ!!!!!」」」」」



 ああ、なんだ。そういうことか。


 結局、みんな、ただ彼女が欲しいのだ。


 学園祭のために。



「ハルカ! 俺と、付き合ってください!」


「「「「「「「お願いします!」」」」」」」



 そういって、同時に頭を下げて私に手を差し出してくる男子たち。


 なんか、こういうテレビ番組があった気がする。なんて名前だっけ。


 そして、その番組では決して許されないことが、ここでは許される……はず。


 それは。



「えっと……返事は、待ってもらっていいですか?」


「ええーっ!」


「俺は待つわ、いつまでも待つわ」



 いや、最後。


 ……ではなくて。



「私にも、好きな人が居るの」


「えっ……」



 ここにいた男子たちが、顔を青くする。


 言葉選びを間違えたか。



「えーっと、この中に、ね。ここに居ないって意味で伝わっちゃってましたか……?」


「「「おおお?! それは誰だ?!」」」



 一気に、目の前の人たちが熱を帯び直す。



「でも、今は言えない。私から、誘わせて」


「「「っしゃあーー!!」」」



 こんな、ノリと勢いで付き合いたくはない。


 今は、言えない。恋愛とは、ただ学園祭デートとかではなくって、もっと本気でするものなのだ。


 ――私は、過去に大失敗をしているから。中学生の時、親友たちの前で散々流した涙を、もう一度流すなんてしたくないから。


 あの日々、あの時、ほんのわずかな時間に感じたあの甘酸っぱい高揚感が、忘れられない。そして、それと同じ感情が、今、蘇っている。


 だからこそ――同じ、苦味を味わいたくない。


 だから……だから、ちゃんと言おう。私が、自分で好きになった人に、私の言葉で。


 だから……だから、今は駄目なのだ。


 私の想い人は、この中にいる。


 真っ先に、真っ直ぐに、自分の気持ちを私にぶつけてくれた彼。この中の誰よりも早く、私の力を見つけてくれた彼。


 今なら言える。だけど、今ではない。


 せめて、大事なテストが終わってから。進級試験。これに合格しなければ、彼の隣に立つことさえ許されない。


 だけど、私にだって下心がない訳ではない。だから……学園祭が始まるまでには想いを伝えたいな。


 ふわふわとした気持ちで、何となく、考えを巡らせる。


 私が彼を誘ったら……彼の青い瞳は、どんな感情を乗せるだろう。



「だから、またいつか……その時は、よろしくね」


「「「……待ってるぞー!」」」



 その言葉を合図に、静かに去っていく男子たちを、ただボーッと眺める。


 最後にユーリが、じっと私を見つめてから立ち去る。

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