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第54話 垣間見える闇と光

 目を開ければ。


 そこには、団子になった大男たちの姿があった。


 正確に言えば、何やら青白い光を帯びた縄のようなもので全員まとめて生きたまま縛られている、8人の猛者……いや、動きを完全に拘束されている今、彼らは猛者ではない。


 何人かは、魔法で脱出しようとしている。だが、彼らの悪あがきは無駄だった。その縄に、魔法は効かない。



「……なぁ。もう、俺らの負けだよ。抵抗できねえ以上、完敗だ。はよう俺らを殺せよ」


「そ、それ、は……」


 《……我は……人の命を、絶やすを嫌う……》


「……そ、そうだよね」



 天誅なんて、思い上がった言葉を使ってしまったことを後悔する。私は神様とタッグを組んでいるだけ。私はただの学生にすぎないのに。


 それに――人の命を奪ったからと言って、その人を殺してしまっては、何にもならない。


 初めて魔物を討伐したときのことを思い出す。「この感覚、忘れるなよ」と、クレンは言った。魔物でさえそうなのだ。


 命は何にもかえられない。だから今は奪わない。


 それが、神様の考えなのだ。


 ふとユーリを見る。全身傷だらけだが、平然としている様子だ。座って、こちらをじっと見ていた。



「……えっと……ユーリ、大丈……夫?」


「……あぁ。これくらいは、慣れてる」



 神様は、賊たちに罰を加えた。身柄を拘束すると言う罰を。さらに聞けば、あらゆる尋問に対して素直に答えるよう、魔法をかけてあるらしい。いずれ誰かの取り調べを受けたときに、その国の作戦があらわになるように。


 ここに来たとき、神様が言ってた言葉。彼らは、他国に内密に命令されて、この国の強い冒険者の命を奪いに来ている。


 では、その国の狙いは?


 もしかすると、その国にとってこの男たちは、「一流だけど超一流ではない」戦力なのかもしれない。敵の戦力を奪うための機密な少人数の作戦に任命されるだけの信頼と実力がある。でも、超一流だったら温存しておきたいはずだ。


 そして、もしもその男たちに何かがあれば。秘密兵器かスパイのように使われていた彼らに。


 国民は何も知らないとしても、きっとその国のトップ、命令を出した本人には伝わるはず。


 そうなった場合――



「ね、ねえ、ユーリ! 今すぐ変装指輪をつけてっ!」


「……?」


「あぁー、しまった。ねえ、神様、記憶改変とかワープとかって出来る?!」


 《……出来ぬ訳にはあらねど、なにゆえ?》


「できるんだよねっ? お札使えばいい?!」



 ――大男たちの口から、自分たちの存在を知られたらまずい。


 彼らの国にとって、脅威とみなされるかもしれないから。


 いや、場合によっては、王国の誰に知られてもまずいかもしれない。


 どういう経路で伝搬するかわからない。


 最悪のケースでは策略に嵌められたり暗殺のターゲットになったりというのもありえるかもしれない。いくら神様がついていたとしても、怖い。


 ついでに言えば、学校の勧告を破ったのが知られるのもまたまずいのだ。



「――だから、今日のこと、絶対人に知られないようにしなきゃ!」


「……そう……だな……」


 《ことわり(もっとも)なり》



 変装を済ませ、お札を取り出す。


 と……



「不明な魔力を発見! 捜索中の殺人鬼の可能性あり! 全パーティ包囲せ……あれ?」


「うわ、ヤバイ。王都のパーティだ!」


「神様っ、頼んだよっ!」



 私はお札を握り締め、念じる。


 私とユーリ、ついでに周囲の人たちの頭部が、青い光に包まれる。


 私は、その眩しさに、目を閉じる。


 ☆


 目を開ければ、そこはギルドだった。


 大人の姿をしたユーリが、私の横で、活気に溢れるギルドを見つめている。


 体の傷は見るからに痛々しいが、彼自身はやはり平然とした様子だ。


 ふたり、人目につかない場所で指輪を外した。



「ハルカ……あの。いつも、助けてくれて、ありがとうな」


「……え?」


「俺が何か無茶をしたとき……何度も危険にさらされて……いつも、ハルカが助けてくれた」


「……え、何、言ってるの……」



 ユーリが、俯き加減に、呟くように言った。私は、照れるというより戸惑って、反射的に否定してしまう。



「……あっ、そうだ。ギルドに行ったら、ポーションってもらえるのかな?」



 ポーションは、回復薬のこと。私に、彼の怪我は治せないから。



「いや、持ってる。ハルカが呪文唱える直前に、自分のを使った」


「……だから、今も普通に立ってられるんだね……」



 納得。まあ、重傷を受けておいてそのままにするのはあまりに危険だし、そりゃそうか。



「とりあえず、ポーションをサックから取り出すだけの体力は、いつも計算してるからな。……まあ、高いから、最小限しか使わないが」


「だったら私買ってくるよ!」


「……いや、それは面目ない」


「そんな……こと……」



 彼にはたくさんのことを教えてもらった。世話になったのはこっちだ。彼に拾ってもらっていなかったら、私は今、こんな時間を過ごしていない。


 何より。



「ユーリ、というか私たちを守ってたのは神様だよ、私は何にも……!」



 私は、ただ、強大な神様の力のごく一部を開放しているだけ。……と、思っていたら。



 《さにあらず! ハルカが願いの力なり!》



 神様にまで私の力だと言われた。本人が言うならそうなのか、とも思ってしまう。



「……ハルカがよく言ってる『神様』って、もしかしてコグニス?」


「え、誰?」


「コグニス様って言わないと叱られるな。この国で信仰されてるらしい神だ。正直、俺は宗教に興味がないからなんとも言えないがな」



 その言葉を聞いた途端、私の隣の神様の顔が明るくなる。どうやら知り合いっぽい。それと、いかにも初耳という顔をしている。あの()()がここの世界を治めてたんだ、まじか、と彼女の顔に書いてある。



「いや、違うよ。私の生まれた地域で信仰されてた神様。今は、精霊のトップみたいな感じで一緒に戦ってるかな」


「……なんだかわからないが、そうなんだな」



 そこで、私は何を思ったか。



「あっ、一応ちなみに女の子だよ! それもとびっきりの美少女! 私にしか、というか巫女にしか、本来の姿は見えないらしいんだけど」



 なぜ、私はこれを付け足そうと思ったのだろう。それも、こんなに焦り気味に。


 ☆


 結局、ユーリの制止を振り切ってポーションを買いにギルド併設の店に入った。彼を外で待たせておいて。


 なんと言っても、私にはフランマ・ドラークで稼いだ大金があるのだ。ポーションくらい……そう思って売り場に直行しようとする。


 が、人が多すぎる。


 みんな、例の殺人鬼集団が逮捕されたことで話が持ちきりだったのだ。


『王都のSランクパーティによって無力化され捕らえられた』と。


 そして、この騒動に、隣国である「グローリア帝国」が関わっていたことも、噂されていた。


 私たちのことがばれてなくてよかった。一安心。


 ――いや、今はポーションだ。

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