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第53話 野蛮な者たち

「これをお願いしたい」


「えっ……それは……」



 ガラ空きのカウンターに、余っていた依頼を持っていく。Aランク以上の個人冒険者推奨の依頼。



「……例の事件のこと、お聞きになっていらっしゃらないのですか?」


「さあな。最近街に出ていなかったから知らない。そんなことより、子供たちに食わせるだけの金がいるんだ」


「……死んだら、隣の奥様が悲しみますよ? お子様がいらっしゃるなら尚更ですわ」



 隣の奥様……って……わっ、私か?!


 と言うか、ユーリの大人役がサマになっている。こんなセリフ、自然に吐けない。



「え、えと……私は、大丈夫デスノ。しゅ、主人と行動を共にしますワ」



 一応、打ち合わせた通りのセリフ。こっぱずかしいったらありゃしない。



「それに、何かあればこの通信石で子供たちに連絡を取るさ」


「……は、はあ……」


「そんなことより、早く受理してくれ。俺らは急いでいるんだ」



 ユーリが凄む。



「……承知いたしました。では、ギルドカードを出していただけますか?」


「……ああ、失くしてしまったんだが、仮発行は出来るか?」


「はい、可能でございますよ」



 ユーリのお陰で、訝しげな顔をされながらもなんとか申請を終えた。


 さあ、ダンジョンだ。



「……さすがに、ここにクラスの奴らが来ることはないだろうが……変装は魔法石の魔力だし、戦闘には差し支えないだろ。念のため、このまま行こう」


「う、うん」



 後ろを見る。


 ちゃんと、燐光を纏った少女がついて来ている。



「神様。何か考えがあるって、言ってたよね?」


 《……ハルカ。口を閉じ、動きを止めよ》


「……?」



 神様の言葉をユーリにも伝え、指示のまま、全員静止した。



 《……》



 一瞬、神様の姿がぼやけた。そうして、そこら一帯の空間に広がったように見える。



 《……木々は語りたる。ここで起こりけること。地は伝えたる。犯人の迫りたること……ハルカ。笛の音、響く時、懐より札を出せ》



 私は、小さくうなずいた。



 《……彼らは、隣国より出で来たる猛者なり。合わせれば十とふたり。この国で猛き武者を倒すことを秘かに命じられけり。されば、依頼によりて強き冒険者らをいざない、この地にて、戦を挑み……人の見ぬ間にあやめけり》


「……!」



 と、そこまで話を聞いた時。



 ヒュウッ。



 ああ、これは鏑矢の音。だが、時間は無い。



「神様っ!」


 《任せよ!》



 札を出す。私とユーリの周りに、燐光の壁。



「こ、これは何だ?!」


「おっそろしい魔力量だ。さては一流の魔導師にちげえねえ。おい、隠れてねえで、手合わせ願おうじゃねえか」


「ああ、良いだろう!」


 《ハルカ。ユーリの戦いたる間、舞を舞え! されば、我はそなたらを守らん》


「了解!」



 私は、舞を舞う。


 意識が暗転する。


 ☆


 ハルカが舞を踊れば、ユーリの戦闘力が倍以上になった。


「神様」の加護を受け、防御力は無限大になった。


 一瞬で、槍を振り回す男を氷漬けにしてしまう。


 これまで何人ものAランク冒険者を切り刻んできた金属の棒を、彼はものともしない。ふたりの敵のうち、あっという間にひとりを倒した。



「お、おい。やべえ奴がいるぜ! 仲間にも伝えてやれ!」



 援軍を呼ばれれば、一気にこちらが不利になってしまう。



「ちっ!」



 通信が始まってしまった。まもなく来るだろう。敵が増えてしまう。


 だが今の俺には関係ない、とばかりに、彼は攻撃を続けざまに繰り出す。



「なかなかやるじゃねえか。だがな」



 猛者のひとりが、笑みを浮かべながら言う。既に、敵は8人まで増えていた。ユーリが倒した4人を除いて。全部で12人。そう、神様が言っていた。とすれば、これが全てだ。


 次の瞬間。



「……なっ?!」


「俺らはな。魔物とはちげえんだよ」



 莫大な魔力と共に、炎が爆発する。


 ユーリの氷魔法は全て、無に帰する。


 同時に。



「あ……れ。は?」


「魔法が使えなくてビビってるってか? マナ・キャンセリングってのがあんだよ。それで……なんだ、お前、ガキだったのかよ?」


「……!」



 ユーリは、二重で驚いていた。ひとつは、変装が解けてしまったこと。もうひとつは、マナ・キャンセリング。魔力を近くの空間から消滅させる技術。読んで字の如くと言うような名前がついた――Sランクの魔導師の中でも才能に恵まれたものにしか扱えないもののはずだ。



「さあて。この後、どんな戦いを見せてくれるかね?」



 ユーリは、ちらとハルカの方を見る。


 ☆


 私の舞が、自動的に止まった。


 何が起こったのか?


 私が立ち竦んでいるうちに、ユーリが動き出していた。


 剣を手に取り、大男たちに斬りかかろうとする。やはり、私にその剣が見切れることはない。



「おぉ、剣も結構うめえじゃん」


「今まで戦ったクソな大人たちよりよっぽどつええよ」



 大男たちは上機嫌で褒める。だが、当たらない。易々と避けている。それどころか。



「あぐっ!」



 ちょっと剣を防がれるだけで吹き飛ばされる。



「……!」



 それでも、ユーリはすぐに立ち上がって、多勢の強敵に立ち向かおうとする。


 何度か攻撃を食らった。何度も何度も、吹き飛ばされた。



 《……やめよ!》



 神様の声を――



「ユーリ、やめて!」



 ――巫女として、責任を持って伝える。



「ほお、ここでリタイアは許されねえぜ。どっちがが全滅するまでやる。それがスジだ」


「……くっ」



 ユーリは、まだ立ち上がって相手を睨みつけようとする。


 8対2。こちらは実質ひとり。



「……少しだけ、時間をいただけますか? 必ず、あとでもう一度戦いますから」



 私は、ユーリの傷だらけの体を見る。



「ねえ、神様。私が念じたら、あの人たちを一網打尽にできる?」


 《……ハルカの念ずる力によるなり》


「……任せて」



 私は、札を手に持つ。


 胸の前で握り締め、意識を集中させる。


 じっと、札を見つめていた。


 ここに来てしまった後悔など、そんな雑念は、消えていた。ただ、命令とはいえ、何の躊躇もなくむしろ楽しげに、たくさんの冒険者をその手にかけてきた非道の大男たちを、許すわけにはいかなかった。


 今、私は。


 文字通りの天誅を加えるのかもしれぬ。


 憎しみを、私の瞳に込めて。


 ただじっと、札を見つめていた。


 やがて、視界に文字が浮かび上がるようになった。


 空中に浮かぶ、燐光の文字。


 次の瞬間。


 私の口は勝手に動き、文字を読み上げていた。


 白昼夢のように、自分の口が自分のものでないように、ただ一続きの音を発していた。


 最後に、こう締め括った。



「我が神よ……かの非道なる男どもを、討ちたまえ!」

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