第52話 刺激が欲しくて
それからの数ヶ月は、特に変化もなく過ごした。
変化があったとすれば、実習や放課後の冒険者活動を通して全体的にスキルがレベルアップしたことくらいか。
現時点で、私のギルドカードはこんな具合だ。
『ギルドカード (リヒトスタイン支部発行)
氏名:ハルカ・カミタニ
年齢:16歳
種族:ヒューマン
職業:巫女〈C〉
適性:なし
職業スキル:【神の光=5】【精霊使役=7】【神楽舞=5】【口寄せ=2】【加持祈祷=4】
未取得スキル数:3』
巫女って本当に実戦向きではないなあ、と改めて思う。とはいえ、マネージャー的な感じで今も貢献はできているのでいいけれど。
ふと思ったことがあった。加持祈祷って、元々は「体に取り憑いた魔物を追い払う」ものではないか。ならば、病原体以外の魔物には効くのだろうか、と。
ある時、実際にやってみた。普通の魔物がやって来た時に、祓い串を向けてみた。果たして、それは、少し後退りしたのちに暴れ始めたのだ。【加持祈祷】は魔物に対して何かしら苦痛を与えるらしいが、殺すほどの力はないので余計に危険だ。結局あとの仲間がとどめをさしてくれたので大事には至らずに済んだが。
もっとレベルアップしたらもう1回やってみよう。そう思ってみた。ただし、再び仲間に迷惑をかけるわけにもいかないから、暴れた魔物を精霊使役で処理できるように、こっちのスキルも上達させておかないと。
特になんと言うこともなく定期考査を迎えた。実技の点数は前より少しだけ上がった。剣術は特に。ソフィアとの練習、剣戟前の練習が功を奏したのだろう。
この学校では、定期考査は年に2回しかない。夏と冬。冬の考査が終われば冬休み。それが明ければ3学期。春には定期考査とは別の進級試験があるらしい。だから、3学期はみんな忙しそうに勉強すると言う。
今は早くも冬休み直前。休暇中の冒険者活動について話し合うため、パーティで集まった。
……かと、思いきや。
「今年の冬の活動についてだが……クレンが、さっき一部のパーティリーダーを集めて言ったことがあるんだ」
「何?」
「それがだな……」
ユーリが、少し躊躇い気味に口を開いた。
「最近、ヴァイリア王国内で、Aランク以上で力の強い冒険者ばかりが狙われる殺人事件がちらほら起こっているらしい。事件が起こったと確認されているのは今のところ全てダンジョン内。王都のSランクパーティが犯人を捜索しているらしいが、まだ見つかっていない。そこで、冬休み中は、ひとまずBランク以上の冒険者は活動を自粛せよ、と言うことだ」
「Bランク以上って……」
「私以外、だよね?」
「ああ。俺はAランクで、オットーとアイリスはBランクだ。だから、冬休み中、このメンバーで活動することは出来ない」
何故、「力の強い」者を狙うのか。彼らが実際に被害にあっていると言うことは、犯人はもっと強いのだろう。
「だから、冬休みは個人で活動することになる。進級試験の勉強もあるし、ちょうどいいかもしれない……」
「……了解。下手に外に出るわけにもいかないものね」
「そう、だな」
冬休み中、冒険者活動はしない。
それで話がまとまり、会議は一瞬でお開きになった。
寮に帰って勉強せねば――そう思った時。
「……ちょっと、いいか?」
「えっ、な、何?!」
突然、ユーリに腕を掴まれ、呼び止められる。
「ああ言われた後だが、俺、他の奴に内緒で、やってみたいことがあるんだ」
「……え?」
ユーリは、優等生で、一見すると寡黙で、でも饒舌で――軽率なところがあって。
「俺が囮になって、あの犯人を仕留めたいんだ」
「……は?!」
「ハルカのスキルがあれば、正直なんでも出来る気がする。それに、冬休み中に犯人が捕まらなければ、俺らはどうなる?」
「……いや、まあ……でも、自分たちが捕まえることもないんじゃない?! プロの冒険者がやってくれてるんでしょ?」
「実を言うと、あの人たちは当てにならなかったりする。冒険者や戦いでは一流だが、捜索や潜伏の技術はないらしい」
いや、ディスりすぎでしょ。
「だからっ」
「待って、何か手がかりはあるの?」
「いや、ただ……俺は囮として最適じゃないかと思ったのと、ハルカのスキルの凄さを思ってな。巫女ってレアな職業だろう?」
「待ってよ、危険じゃないの?!」
そこからさらに、押し問答をする。他に誰もいない教室の中、ふたりの声だけが響く。
誤算があった。ひとつは、私が押しに弱い性格であること。もうひとつは、周りに人がいなかった事。さらに、少しスリリングな提案をたたみ掛けられると興味を持ってしまう年頃である事。
加えて、何より――
「神様、どう思う?」
《我に考えあり。ハルカよ、彼と共に行くべし。我は必ずやふたりを守らん、願わくは導かん!》
「ま、まじで?!」
――神様が、私よりノリノリだった事。
「い、行きますっ!!」
「本当かっ?!」
私たちは、早速教室を飛び出し、ふたり――いや、神様も含め3人でギルドに向かった。
ユーリが指輪型の変装魔道具をくれた。子供だと悟られないためだ。
珍しく、いや、もはや不気味なほど閑散としたギルドに、私たちは、足を踏み入れる。
場違いな気がしながら、しかし、いや、だからこその高揚感を胸に秘めて。





