第49話 仲間と一緒に
1日目が終わった。A組の総得点は、B組のそれをわずかに上回り、今のところ1位だ。こうして、夜が明けていった。
2日目。体育祭のメインイベント、剣戟である。
結局、私は先鋒と中堅を務めることになった。次鋒はアイリス、その後オットー、ユーリと続く。なぜ私なんかがふた役も務めることになったのか。それはちょっとした戦略によるらしい。
トーナメント表はくじ引きによりランダムに決まる。1回戦は、F組のメンバーを中心としたチームと当たった。
いざ、戦ってみると……
「5対0、ユーリ率いるチームの勝利です」
意外にも、相手は弱かった。
「まあ、そんなもんだろうな」
「ええ……」
「ハルカは編入だから知らないと思うが、クラス分けは基本くじ引きと言っても、A組からE組に成績上位者が集まってある。成績上位といっても、B組のソフィアとC組のルイとD組のミーシャを除けば、他は授業より高度なことは基本的に出来ない。その授業が国内屈指とか言われてるらしいが、授業を真面目に受けてるのはお前も一緒だから、勝算はいくらでもあるんだ。ましてF組ならな」
「そ、そうなんだ……」
久々に饒舌なユーリを見た。というか、F組をこんなにディスってしまって大丈夫なのだろうか。
「まあ、2回戦ともなれば強い奴らが集まってるだろう。ここからがお楽しみだ」
彼は、わずかに好戦的な笑みを浮かべた。
ふたり、トーナメント表を見る。2回戦は、E組の人を中心とするチーム。
「ラッキーだ。このタイミングでミーシャのチームに当たったらどうしようかと思った」
「えっと……ミーシャって誰なの? D組だし、実習とかでは会わないよね?」
「剣姫って二つ名を持ってる。結構有名だぞ。……まあ、あれは剣術バカだな。女子だが、クレンより強い」
「うわっ……」
どんな子だろう。ちょっと怖い気もする。
「ちなみにルイっていうのは……」
「おい、ユーリ! 試合始まるぞ、早く来い!」
「……ああ、すまない」
オットーに呼ばれ、ルイが誰か聞く機会を逃してしまった。
まあ、きっと、ミーシャやソフィアのように有名で、凄い人なのだろう。
さて、E組との戦いだ。
結果は、4対1でこちらの勝ち。1本取られたのは、私が相手の中堅のフェイントを避け損なったためだ。初歩的なミスをしてしまい、少し凹んでしまう。
「まあ、あいつはいつも結構悪質だから、俺らもよく騙される。それに、ハルカが失敗しても俺らがカバーするから気にするな」
ユーリのフォローが心に染みる。
元気を取り戻し、そのまま更に3試合。
1つの学年に、パーティはおよそ90ある。トーナメントをすると、第7回戦まである。
そうして、ラッキーなことに、ユーリが言ってた強者たちの率いるチームには当たらないまま、順調に勝ち進み、準決勝まで来た。ここまで来ると、敗退者によるギャラリーはすごい数になっている。
準決勝まで進んだ4チームは、やはり恐ろしかった。
例の3チームはしっかりと残っていて、それらに加えて私たちのチーム。
今から戦う相手は――
「おい、ルイ。聖剣は禁則だろう?」
「心配しないで。試合が始まったら片付けるからさっ」
そう言って、ルイと呼ばれた少年は白い歯を見せてキザにウインクする。
「……ったく、これだからお前は」
「ユーリの仲間、ひょっとして、カワイイ女の子が増えてるのかい?」
「事実だが、お前が勇者だからって手を出せば許さんからな」
「さぁて、どうかな。僕の手にかかれば」
ツンツンと立った金髪、透き通るような碧眼、二重瞼、整った顔立ち、高身長。そして虹色に輝く剣を腰にくっつけている。勇者、と呼ばれた気がするが、そんなにすごい人には思えない。
外見超絶イケメンに加えて、この喋り方。あれだ、いわゆる女たらしだ。面倒くさい人だ。
だが……これが、噂のルイだというのか。
彼の率いるパーティメンバーは、全員女性だ。それも美しい。その事実が、彼の印象を更に悪化させる。
ドン引きしていると、ユーリがいつの間にか私のすぐ近くにいた。突然こそっと耳打ちされ、心臓が跳ねる。
「ハルカ。大将、代わってくれないか?」
「ふえっ?! な、なんで?」
耳打ちされた言葉の内容に、更に驚かされる。
「編成はいつでも自由に変えられるんだ。頼む!」
「でも、私に大将なんて無理だよ!」
「ルイに勝てと言ってるんじゃない。そりゃあ本気で行く方がいいが。……前に言った戦略の問題だ。本当に、ハルカを蔑ろにするみたいで、申し訳ないが……」
「……そっか」
私は、捨て駒になるんだ。そう思った。
その代わりに、他の4戦を確実に取り切ってもらう。5戦のうち3回勝てば、決勝に進めるから。
「私は全然いいよ。でも、絶対決勝行こうね?」
「ああ。必ずな」
戦いの順番を大幅に変えて、準決勝に臨む。
私は大将戦まで出番がない。ただ、戦いの様子をじっと見ている。アイリス、オットー、ユーリの、華麗な剣筋を。
そして。
「大将戦。代表者は、フィールドに上がってください」
「あれ? 大将はユーリじゃないのかい?」
「……代理です」
「ひどいやつだねぇ、まあいつものことだけどさ。そんな堅くならないでいいんだよ? あんな男とつるむより……」
「知りません」
堅くなっているのではない。ただ引いているのだ。それよりもう試合が始まる。
そして、ユーリの戦略の真意を知る。
ルイは、女子に対して大袈裟なまでに優しいのだ。剣の腕があるのはわかる。物凄く鋭い一撃を私に、それもありとあらゆる急所に向けておいて、寸止めする。速すぎて見えないほどの剣の勢いからして、振り切って当てるより止める方が数十倍難しい筈だ。それを難なくやってみせる。当てた方がチームの為なのに。
女の子に痛い目は見させない、という配慮のつもりなのだろうか。逆に気味悪かったりするのだが。
その上で、私の攻撃は全て、確実に避ける。私が呆気にとられてしまっているのもあるが。
そうして、試合終了数秒前に。
ピッ。
私が傷を負ったことを示すブザーが鳴る。
始め、痛みを感じなかった。いや、彼の剣も見えなかった。
試合終了を示すブザーが鳴った次の瞬間、ようやく痛みを感じ始める。その位置は、私の首筋だった。
フィールドにかけられた魔法で、痛みはすぐに消え去った。
「ルイの勝利です。以上より、4対1、ユーリ率いるチームの勝利です」
こうして、あまりに不気味な試合が幕を閉じた。
「あいつはいつも女の子には手加減するみたいなんだ。俺やオットーが大将だったら、常識外れの点差を付けられて逆転されてただろうな」
「そういうことだったんだね……」
私は、私なりの役割を果たしたと言えるかもしれない。……のかな?
ルイのチームメイトの見目麗しき女性たちは、「ルイ様は本当にお優しいわ」などと、目をハートにして黄色い声を上げている。ハーレム、という言葉が脳裏にチラつく。気味が悪い。
「それじゃあ、いよいよ決勝だ」
相手は誰だろう。
トーナメント表を見る。
「えっ?!」
最後の対戦相手は……ソフィアの率いるチームだ。
「剣姫に勝ったか……」
ユーリが、ぼそっと呟く。彼の顔は、よく見えなかった。





