第48話 空中対戦
競技前に、クィディッチのルール確認がアナウンスされた。
各チーム7人のプレーヤー全員が空飛ぶホウキに乗って戦う。チームの数だけゴールが用意されている。地球の某有名小説に出てくる球技のような一騎討ちではないのだ。このフィールドでは、数チームが同時に戦うことができる。
用いるボールは2種類、それぞれ1個ずつ。
ひとつはゲイニー。地球で言うクァッフルのようなものだ。バスケットボールくらいの大きさで、プレイヤーが自チームのゴールに投げ入れるごとに2点が入る。ただし、ある程度の遠距離から投げ入れた場合は3点が入る。
もうひとつがスニッチ。これは地球と同じ呼び方。試合中に突如現れる。ピンポン球と同じくらいの大きさで、金色で、羽がついており、自分の意思を持って飛び回る。これを捕まえるのは、プレーヤーのうち、シーカーと呼ばれる役割の人でなければならない。つまり私だ。シーカーがスニッチを捕まえると、そのチームに15点が入る。なお、これを一度捕まえれば、スニッチが再び登場することはないが、試合時間が過ぎるまでゲームは続行される。
例の小説との違いは、魔法を使って良いということを除けば、とても地味なものだ。地味だけど、やはり違うなあと、改めて思う。
私は、ゲイニーに触れることは出来ない。代わりに、スニッチを追いかける。――精霊たちを、味方につけて。
「では、開始します」
開始の合図とともに、仲間たちが大空に飛び立った。敵も同様に。ふと見れば、ステラも居た。B組のメンバー。つまり、今は敵だ。
私はうんと高くに飛び上がり、空中でぐるぐると回りながら下を見ている。ステラも同じ動きをしている。ひょっとして、同じシーカー? 油断ならない。
低空では、ゲイニーの争奪戦が始まっていた。一対一にすればいいのに。各チーム7人、そのうちシーカーを除いて6人。全部でA組からE組まで5チーム。合計30人がもまれている。1学年は10クラス。5クラスずつの2分割に出来るなら5分割にだって出来るはずなのに。
そんな混乱した中でも、仲間たちは着実に点を獲得していく。やっぱりユーリは特に強い。でも、ジャックスとミハイルの双子のチームプレイも流石だ。
《ハルカ!》
「えっ、もう?!」
神様に呼ばれてハッとする。既に、打ち合わせしたように精霊たちが動いている。神様はスニッチのもとへ瞬間移動し、スニッチを隠す。
そうして、金色の精霊――土の精霊や光の精霊らしい――はスニッチのような形を作って飛び回り、他のシーカーを惑わせる。
その隙に――
私とスニッチを結ぶ、ひと筋の透き通った青い道。
風の精霊たちが、風圧でトンネルを作ってくれているのだ。
トンネルに入れば、私のホウキは一気に加速される。
――私はスニッチに向かって一直線に肉薄していく。
このトンネルは、風の壁で出来ている。だから、他のプレーヤーがこれに気付いても、中に入ることは出来ない。よって私の独擅場となる。
……筈だった。
「風の精霊、ニンフよ! 我が前に姿を現し、かの道を打ち砕け!」
しまった。ステラに気づかれた。
彼女の風の精霊。実体化している。一気に膨らんで見える。
だが立ち止まる暇はない。もっともっと加速する。
しかし。
パリン。
風の壁が割れる音?
前の方で聞こえた。と言うことは。
いつしかトンネルは元どおりになっている。私の前をステラが飛んでいる。ふたりとも、精霊の力で加速し続ける。ステラはニンフも使って。ステラは私に不敵な笑みを浮かべてウインクする。私はこのトンネルから出られない。だから追い越す術がない。まずい。どうしよう……!
そんな時。
ふと、横穴が見えた。
何かを感じて、私はとっさにその中に入る。
そこは、さっきよりも狭いトンネルだった。さっきよりも暗い青をしていて、外は何も見えなかった。
ここ、どこ?
ただ、自分のホウキがさっきより速く走っているのはわかる。
何も心配はいらなかった。
暗く狭い道の先にあったもの。
それは、金色の光だった。
私は、無我夢中で前へ前へと手を伸ばす。あとちょっと。
あとちょっと……もうちょっと……っ!
――次の瞬間、私が自分の手を見ると、スニッチをしっかりと握っていた。
スニッチは、自分の羽をひらひらさせて、私の手の中でもがいていた。
いつの間にか、トンネルは消えていた。
視界が開けていた。
A組の得点板に、15点が加算されていた。
観客席の男子たちの歓声が、ここでようやく耳に入ってきた。
周りを見る。
ステラが、ホウキの上で私に拍手を送ってくれていた。
「……何が起こっているの?」
《精霊らは我が眷属なれば、さらに働かせたりき》
私の心を読んだらしい神様が気を利かせ、風の精霊を自分で使役したのだと言う。はじめに作ったトンネルに、最大限に風の魔力を圧縮した迂回路を取り付けた。ステラはそれに気づかず、私は幸運にもそれに気付いた。より頑丈で、スニッチにむかう加速度はより大きくなる。
「いやー、そりゃあずるいわー」
「そうかもねえ」
ずるいと笑うステラに、私は同意。だって人を超越した神を使っているのだから。
《我はハルカのパートナーなれば!》
「うん。そう言うと思った」
「誰と話してるかはわかんないけど、次は負けないからね! あたしもニンフともっと仲良くなって、秘策考えるから!」
「うん、でも私も負けないよ?!」





