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第46話 夏の終わりは秋の始まり

 こうして、夏休みが終わった。こちらの世界には日焼け止めなんて概念がないのにずっと屋外で活動していたから、顔が健康的な色に焼けてしまった。


 日本では、大量の宿題に追われていたからいつも屋内にいたし、宿題が早く終われば友人たちとショッピングにゲーセンに……結局、夏休みに日に焼けることなどなかったのだ。


 さて、夏が終わって最初の日。私と同じく、みんな顔が真っ黒だ。……クレンも同じだ。彼も冒険者として活動してたのか。



「よっしゃーみんな元気だな。怪我とか無かったか?」


「「「俺らは無敵だぜ!!!」」」



 彼の声で、ユーリはオットーの方をチラリと見る。オットーは明後日の方向を見ていた。そして、ユーリは私に向かってニヤリとする。



「何にせよ無事夏休みが終わったな。早速だが、例年通り来月に体育祭を開くことになった。A組の2連勝がかかってるからな。種目やチーム決めはお前らに任せる」


「「「っしゃぁー、やったらあ!!」」」



 この学校にも体育祭なんてあるのか。どうやら、学年別で結構アツいクラス対抗が行われるらしい。


 私は、日本では……ああ、玉入れとかしか参加しなかったな。


 でも、魔法の存在するこの世界。さぞ、思いもよらないような競技があるのだろう。


 種目一覧が掲示されていたので見てみる。



『剣戟 全員参加 パーティごとに先鋒・次鋒・中堅・副将・大将を決めておくこと』



 まずこれが目に入ってギョッとする。


 剣戟以外は、パーティを気にすることもなく自分で出場競技を選ぶことができる。ただし、ひとりが出る競技の数は剣術以外に加えてふたつと決められており、多くても少なくてもいけない。さて私は何に出よう? さらに案内を見る。



『クィディッチ』



 これは……あの、地球で歴史的な人気を誇った魔法学校の小説にあった競技ではないか。同じルールだとすれば、空飛ぶホウキが必要なはずだが……。説明を見ると、実際必要のようだ。


 さらに見てみるが、あとは全て、魔法を使った……スポーツというよりはゲームみたいなもののようだ。楽しそう。その他にも、玉入れなのだが風魔法などを自由に使って玉を操って良かったりとか、綱引きなのだが身体強化魔法を使って良かったりとか、競技自体は古典的で日本と変わりなくても魔法を使って面白くアレンジしたものがいくつかあった。私は玉入れに参加しよう、と心に決めた。


 そうこうしていると授業が始まる。既に日常と化した、魔法の授業。それらが終わって放課後、私たちのパーティメンバーはユーリのもとに集まった。


 剣戟の作戦会議だ。



「俺らはずっと少数精鋭でやってきたから、今までも一人二役とか普通にあったが……」


「そうね、私が先鋒で、後の4戦はふたりが交代でやってくれてたわ」


「結構キツかったんだよなあ」


「……」



 ちなみに、不公平を無くすため、チームメイト間で掛け持ちする役割の数の差が2以上になってはならないという。アイリスが一戦、あとのふたりが二戦する場合、差は最大で1なのでセーフだ。


 私は……何としても先鋒の一戦がいい。この4人の中で最弱の自信しかない。



「ハルカってさ、こないだのテストの剣術実技、何点だった?」


「えっ……6割弱……だったかな」


「あれ? 私とそんな変わらなくない?」


「うそ?!」


「しかも、夏休み中にソフィアに特訓受けてたって言ってなかったか?」


「ぬくぬく帰省してた俺らよりも強いはずだぜ!」


「流石にそれはない! 私、この学校来て初めて剣とか触ったもん!」


「じゃあ、ちょっと対戦してみねえか?」


「ええっ?!」



 どうしてこうなった。



「定期考査で使った部屋は、今の期間は予約入れればいつでも自由に使えるんだ。体育祭でも、あれと同じ魔法でできた簡易的な空間が作られて、そこで戦う。練習しとく意味でも、役割分担の参考のためにも、このパーティメンバーで総当たりしてみるか」



 ユーリが的確に解説してくれる。


 私が何とも答える前に、部屋の予約がオットーによってなされていた。


 仕事が早いというべきか、独断というべきか。いや、私以外は賛成してたから前者か。



「今日使えるみたいだぜ! 1時間後に予約しといた!」



 これは凄い。やっぱり前者で間違いない。この時期、同じ考えであの部屋を使う人も多いだろうに。ごった返してもおかしくないと思うのに。



「じゃあ、改めてルールの説明をしよう」



 ユーリが口を開く。


 体育祭は2日にわたって行われ、2日目を丸ごと使って剣戟が行われるという。パーティ同士が一対一でトーナメント形式で当たり、剣術で戦う。得点の仕方は、定期考査に準ずる。先鋒・次鋒・中堅・副将・大将の順でひとりずつ対戦し、原則として勝ち数の多いパーティが勝利する。ただし、合計点の優劣が勝ち数の優劣と大きく食い違う場合、審議の上、大将戦を追加で行うこともあるらしい。


 優勝したパーティにはひとり当たり50ポイントが与えられ、各クラスの得点となる。――体育祭はもともとクラス対抗だからだ。


 先鋒はチーム内で最も弱い人が務め、順に強い者が配置され、大将にチームの代表者が来る。これが伝統的なやり方だ。だが、最近は、相手の裏をかいて順番を決めたりするらしく、チームの対戦の順番を決めるところから戦いは始まっているという。


 具体的には、地球でいうところの犠牲バントとかそんな感じだ。相手の強い人と自分たちの弱い人をあえてぶつける代わりに、相手のさほど強くない人と自分たちのそこそこ強い人をぶつけることで勝ち星を稼ぐ。



「まあ、俺らは正攻法で勝ちに行けるさ」


「少しぐらい戦略も使うべきじゃねえか? だって、他のクラスには……」


「ソフィアとルイとミーシャを除けば、他は行けるだろう。……こいつらに当たった時は戦略も考えるか。去年みたいにやるか?」



 ルイ……ミーシャ……って、誰だろう。でも、聞く間もなく話は進む。


 そうしているうち、1時間が経ってしまった。

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