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第45話 いにしえの巫女から新たなる力へ

「いでっ!」


「……! オットー!!」



 もう日も暮れようという頃だった。持ってきた依頼のうち、すでにほとんどを達成し、そろそろ帰ろうかなどと言いながら最後の依頼をこなしている最中だった。


 オットーがミスをし、彼が足に傷を受けたのだ。


 ユーリがとっさに判断し、高位の攻撃魔法を使って即座にとどめを刺したらしい。私が舞を止めたのはその後なので、よくわからないが。


 そこで依頼は達成した。が――



「しまった。あの魔物、毒か菌か持ってたんだわ。化膿してて、回復魔法が効かない……!」


「何だって?!」



 アイリスの使える魔法は、普通の怪我や体内の機能不全にのみ効果を発揮するらしい。毒魔法を含む毒や病原菌の絡む怪我と病気は状態異常といって、Aランク以上の治癒師でなければ治せないのだという。化膿があまり進まないうちに回復魔法を使えば、まだ対応できるらしいが……



「ごめんなさい。私の判断が遅かったばかりに……」


「いや、アイリス、俺は大丈夫さ。ギルドまでなら歩ける。そこに高ランクの治癒師も居るだろ」


「でもっ……!」


「……おい、オットー。その足で無茶言うなよ」



 ユーリに言われて気づいたらしい。オットーは自分の足を見てギョッとする。すでに傷口は黒くなっていた。かさぶたではない。異様な感じがした。さっきの魔物による状態異常は、他のそれと違ってかなり進行が速いらしい。



「どう、しよう……」


「アイリスの力でも治せないし、俺の氷魔法で冷やしとけば怪我の進行は遅らせられるが、治せはしない……」



 ユーリさえ、顔に陰を落とし、本気で悩んでいるようだった。


 ひとまず、他の魔物の襲撃を防ぐため、氷で壁を作っていた。


 作ったは良いものの。早く治さなければ意味がない。


 と、その時。



 《ハルカ! そなたが力を使う時ぞ!》


「えっ……私?!」


 《祓い串を! 疾く手に取れ!》


「えっと、これ? ……わあっ」



 言われるがまま、白い紙の飾りが付いた串を手に取ると、【神楽舞】の時と同様、体が勝手に動いた。今度は、私も周りの様子が見える。


 白い飾りは暖かい光を帯び始め、その光はオットーの足を包んだ。


 同時に、黒いものが傷口から浮かび上がってくる。あるものは煙のように、あるものは水泡のように。何かから逃げているようにも見えた。


 やがて、黒い「何か」は散り散りになり、暖かい光は収束した。


 私の動きも止まった。


 オットーの傷口は、もう化膿も腐敗もしていなかった。ただ、血だけが滲んでいた。



「これならいけるわ!」



 そう言って、アイリスが回復魔法を展開する。


 彼の足の傷は、もはや影も形も無くなっていた。


 全員、胸を撫で下ろす。



「ハルカ、今のスキルって何?」


「……わ、わからない……今初めて使ったの」



 そう言いながら、私は自分のギルドカードを見る。


【加持祈祷=1】が書き込まれていた。


 加持祈祷……か。古文の常識だ。昔の人々は、病気を魔物のせいだと思っていた。物の怪が人の体に乗り移って、病気を引き起こすのだ、と。だから、加持祈祷によって人の体から物の怪を追い出せば、病気が治るのだと信じていた。


 そこで、ピンとする。夏休み前のホームルームでの、クレンの話。魔物と獣の説明で言ってたこと。


 この世界で病原菌は全て魔物に分類される――ということ。


【加持祈祷】は、人の体から病原菌という魔物を追い出し、病気を治すスキルなのだ。つまり、平安時代の日本の加持祈祷と何ら変わりはない。


 追い出すということは、何かダメージを与えるということ。上手くいけば……殺菌も出来るのかも。


 ……と、ここまでの気づいたことを、メンバーに話してみた。



「……つまり、普通の治癒師に出来ないことが出来るのね」


「でも……高ランクの治癒師さんと違って、普通の治癒師に出来ることが出来ないと思う。今言ったことが正しいとすれば、レベルを上げても出血とかは止められないんじゃないかな。病気を追い出すことしか……」


「「なるほどな……」」


「相補的……って感じかな」


「じゃあ、治癒師と巫女の両方が居たら無敵じゃね?」


「だよな!」



 そう言われて再び嬉しくなった、が……



「……でも、病原菌って、この世界……じゃなくて、ここでは結構珍しいんじゃないの?」


「確かに、発揮する場面は少ないだろうな。でも、結構脅威になるから、処置のできる人は重宝される」


「とにかくさっきはありがとな! 助かったぜ!」


「ううん、ちょっとでも貢献できたなら嬉しい……!」


「これから、仲間として沢山働いてもらうぞ、ハルカ」


「はい、喜んで!」



 男ふたりと私がそんな風に話していた時、アイリスはずっと黙っていた。


 やがて、暗い顔で口を開く。



「ねえ、オットー……ハルカが居て、私は……必要なのかな?」



 今までの明るい彼女からは想像出来ない、沈痛な声だった。



「……そんなのっ! アイリスに出来ないこと、私には出来るかもしれないけど、あくまで治癒師はアイリスだよ?! だって私なんか、擦り傷も治せないんだからっ」



 私が慌てて言うと、アイリスはうなずく。


 そういうことを言いたいんじゃないんだけど……とも言いたげな顔に見えたけれど、「そうね」以外何も言わなかった。

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